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脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


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第52話 見えない手



天界。

円卓の上に広がるのは、ドワーフ王国ダンジョンの詳細な投影図だった。

鉱脈の分布、魔物の湧きポイント、通路構造。

すべてが数値化され、色分けされ、刻一刻と変化している。

「……ここも、ズレてる」

土の神テレスは、震える指で一か所を指した。

本来なら緩やかに減衰していくはずの鉱脈反応が、異様なまでに濃く残っている。

しかも、その周囲だけ魔力の流れが歪んでいた。

「この反応……自然じゃない」

「だよな」

低く応じたのは、鍛冶の神ヘファイストスだった。

「鉱脈ってのは、削れば枯れる。

 なのにこれは――“引き延ばされてる”」

「引き延ばす……?」

「人為的にだ」

円卓の空気が、一段重くなる。

「ダンジョンコアに直接干渉してる可能性は?」

ウェヌスの問いに、統括は静かに首を振った。

「いや、コア自体は健在だ。

 ただ……」

統括はタブレットを操作し、別の層を映し出す。

「設定の隙間を突かれてる」

「隙間……?」

「“禁止されていないこと”を、徹底的にやられてる」

誰も言葉を発せず、その意味を噛みしめた。

ダンジョンは神が作った。

だが、運用は人に委ねている。

そして――

人は、禁止されていない限り、やる。

「……鍛冶ギルドだな」

ヘファイストスが、苦々しく呟いた。

「自分たちが一番ダンジョンを理解してると思ってる連中だ。

 制限? 安全?

 “効率”の前じゃ、二の次になる」

テレスは唇を噛みしめた。

(僕が……甘かった)

採取量制限。

魔物配置。

通路強度。

すべて“想定内の善意”で組んでいた。

「ダンジョンは公共財だ。

 誰かが独占するものじゃない」

そう、何度も自分に言い聞かせて設計した。

――だが。

「……テレス」

統括の声が、優しく、しかし逃がさない調子で響く。

「お前の設計は、正しい」

「……でも」

「“正しい設計”と、“悪意への耐性”は別だ」

その言葉に、テレスの肩がわずかに揺れた。

「人はな。

 ルールを守る前提で作られたものを見ると――

 まず、“どこまで破れるか”を考える」

円卓の端で、クロノスが深く頷く。

「若さよなぁ……

 力を得ると、使いたくなるものじゃ」

「……」

テレスは、視線を落とした。

(僕は……人を信じすぎた)

冒険者。

鍛冶師。

ギルド。

誰もが世界を良くしたいと思っていると、どこかで思っていた。

「だが、まだ手遅れじゃない」

統括は、タブレットを閉じる。

「だから“見に行く”」

「顕現は……」

「しない。

 だからこそ――」

統括の指が、別のアイコンをタップする。

《アバター起動準備》

淡い光が、円卓の中央に集まる。

「正義君を使う」

「父さん……」

テレスが顔を上げた。

「直接止めなくていい。

 まずは“何が起きてるか”を全部見る」

統括は、穏やかに笑った。

「世界は、見えないところで壊れる。

 だから、見えない手を探す」

その言葉に、テレスの胸が少しだけ軽くなる。

(……父さんは、逃げない)

自分が地上に降りられなくても。

直接手を出せなくても。

「テレス」

統括は、息子を見る。

「これは、お前の試練でもある」

「……はい」

「設計者として。

 神として。

 “見守る者”として」

テレスは、深く息を吸った。

「僕は……逃げません」

その声は、震えていなかった。

やがて、光の中に人型が現れる。

正義君――淡い輝きを帯びたアバター。

「リンク開始」

統括が目を閉じる。

その瞬間――

天界と下界が、一本の細い糸で繋がった。


ドワーフ王国、ダンジョン前。

誰も知らない。

誰も気づかない。

だがその時、確かに――

“神の視線”が、再びダンジョンに注がれた。

通路の奥で、

鉱脈の影で、

契約の裏で。

静かに動く“欲”の正体を暴くために。

テレスは、天界の窓からその光景を見つめながら、拳を握る。

(……僕は、見抜く)

設計と違うなら、理由がある。

歯車が狂ったなら、狂わせた手がある。

そして――

(必ず、正す)

それはまだ、怒りでも決意でもない。

だが確かに芽生え始めた、

土の神としての覚悟だった。

歯車は、まだ完全には壊れていない。

だが次に狂えば――

世界が、音を立てて軋む。

そのことを、

この場にいる誰もが理解していた。



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