第47話 正義君無限増殖
テレスが帰ってきた。
一晩中、下界を泣きながら走り回っていたらしく、目元は真っ赤で、部屋に戻るなり何も言わずにそのまま倒れるように眠ってしまった。
……本当に、すまない。
下界時間でおよそ二か月。
ダンジョンは、驚くほど順調だった。
冒険者の死亡率は低く、帰還石の使用率も想定内。
鉱石の産出量は増え、地盤も安定し、ドワーフ王国は久々の活気に包まれている。
流石だ、テレス。
本当に、お前の仕事は完璧だ。
だからこそ――余計に、胸が痛む。
さて。
話は変わるが、俺とヘルメースで作った《正義君一号》である。
当然のように、回収された。
「あなたが持つと、ろくなことにならない」
ウェスタにそう言われ、反論できなかった。
事実だからだ。
だが――
皆はまだ知らない。
俺がもう一人で正義君を作れるようになっている、ということを。
きっかけは単純だった。
正義君一号が回収された日の夜、寝床でぼんやりと考えていたのだ。
(……確か、構造はこうで……魔力の流し方は……)
ヘルメースに説明された細かい理論は、正直ほとんど覚えていない。
だが、不思議なことに「こんな感じだったな」という感覚だけは残っていた。
筋トレと同じだ。
理屈は忘れても、体は覚えている。
試しに、やってみた。
――できた。
あっさり、できた。
しかも、だ。
調子に乗って色々試してみたら、なんと小型化まで成功してしまった。
魔力効率はそのまま、性能も問題なし。
(……これ、すごくない?)
正義君二号、三号……と作れるか試したが、問題なく増える。
どうやら制限は「魔力」だけらしい。
日頃の筋トレの賜物だな。
これで自由に――
あ、いや。
偵察任務ができる。
そう、偵察だ。
決して遊びではない。
その日の夜。
神界が完全に寝静まった頃を見計らい、俺はベッドに横になった。
作ったばかりの小型正義君。
サイズは単行本程度。
中央の起動ボタンを押すと、操作した者の姿に変形する仕様だ。
魔力を流し込み――起動。
リンク完了。
俺は布団に潜り込み、完璧な「就寝中の統括」を演出する。
ふっ。
自分の才能が、ちょっと怖い。
転移魔法。
次の瞬間、俺は魔王城の正門前に立っていた。
門番が一瞬目を丸くする。
「創造神様……?」
「おう。謁見頼む」
即通された。
さすがだ。
王の間。
「よう、ゼノス。久しぶり!」
「これは創造神様。お久しぶりです」
魔王ゼノス。
かつて何度も殴り合い、語り合い、筋肉を讃え合った仲だ。
近況報告。
世界情勢。
最近のトレーニング内容。
話は自然と――筋肉談義へ。
「最近、背中が伸びなくてな」
「わかります。ラットプルだけでは足りませんよ」
「だよな!?」
盛り上がった結果。
二人で筋トレを始めた。
魔王城地下、特設トレーニングルーム。
鉄と汗と気合の世界。
気が付けば、空が白み始めていた。
「……ふー、いい汗かいた!」
「ですね」
俺は満足して帰還した。
自室に転移。
「ただいまー」
――なぜか。
部屋には、神界の全員が揃っていた。
円卓。
仁王立ちのウェスタ。
腕組みのアウラ。
呆れ顔のウェヌス。
無言で湯呑を置くエレブス。
笑顔だが目が笑っていないヘルメース。
ニヤニヤするアウローラ。
深いため息のクロノス。
「……なぜ?」
返答は一斉だった。
「正座」
「はい!」
床に座った瞬間、察した。
「朝帰りですか。いい御身分ですね」
「いやー……」
「あなたが下界に降りると、天界と下界の時間は同期するって、知ってますよね」
「……げっ」
完全に忘れていた。
結果。
一日中、正座&説教。
「偵察のつもりでした」
「偵察で筋トレしますか?」
「筋肉は世界共通言語でして」
「言い訳しない!」
こうして――
正義君は無限に増殖できることが判明したが、
俺の自由時間は、しばらく増えそうになかった。




