第5話 脳筋消防士、火を見届け神を迎える
火は、
消えなかった。
火に出会ったのあの夜から、
星は確実に変わり始めていた。
「……再現、しましたね」
補佐の天使が、
星を見つめて言う。
闇の中。
人族の集落で、
今度は**意図的に**光が灯る。
枝を集め、
擦り、
息を吹きかける。
**火。**
「……文明、
一段階進みました」
「火の使用が、
定着しました」
天使たちの間に、
小さなどよめきが走る。
「元素、確定ね」
「最初は、
やっぱり火か」
「順当だと思う」
俺は、
その声を聞き逃さなかった。
「……さっきから、
元素って何だ?」
一斉に、
視線が逸れる。
またか。
「……説明、必要ですか」
白い羽の天使が、
静かに言った。
「頼む」
「世界が成熟すると」
彼女は、
星を見つめながら続ける。
「自然現象が、
“概念”として定着します」
「火は、
破壊と創造」
「文明を押し進める力です」
「そして」
言葉を切った瞬間。
**熱が、
天界に満ちた。**
「……来た」
誰かが、
小さく呟く。
白い羽の天使の周囲で、
空気が揺らぐ。
彼女自身は、
まだ気づいていない。
「……あれ?」
「暑く、ないですか?」
次の瞬間。
彼女の翼が、
炎のように揺れた。
「昇格条件、
達成」
天界に、
宣告が響く。
「――火の神、
誕生」
「……え?」
白い羽の天使だった彼女が、
目を見開く。
「……私が?」
俺は、
言葉を失った。
「……おめでとう」
絞り出すように、
そう言う。
火の神は、
ゆっくりと息を吐いた。
「……そう、ですか」
「だから」
「さっきから、
みんな……」
天使たちが、
一斉に頷く。
「内緒にしてて、
ごめんね」
「サプライズ、
苦手そうだったから」
「余計だ」
だが。
彼女――
火の神は、
静かに微笑んだ。
「創造神様」
「……はい」
「まだ、
終わりではありません」
嫌な予感がした。
「私」
「命を、
宿しました」
「……え?」
思考が止まる。
「天界時間で、
一年後」
「神が形を成す予定です」
「地上では……」
「百年分、
進みます」
「……忙しいな」
「はい」
彼女は、
どこか誇らしそうだった。
――その一年。
俺は、
創造神としての勉強漬けだった。
世界干渉の判断。
ポイント管理。
イベント設計。
「……現場より、
休みないな」
「神界基準では、
普通です」
普通か。
そして。
「……来ました」
天界時間、
三か月後。
光の中で、
新しい存在が生まれる。
「――水の神」
火の神が、
静かに告げる。
小さな神は、
瞬く間に成長した。
数か月で、
大人の姿になる。
「父上」
深々と頭を下げられる。
「……ああ」
だが。
距離がある。
水の神の世話は、
他の天使たちが行う。
「神界では、
集団育児です」
「……そうか」
胸が、
少しだけ痛んだ。
「……子育ては、
手伝うことが出来ないのか」
火の神が、
そっと隣に立つ。
「寂しい、ですか」
「……ああ」
正直に答えた。
星を見下ろす。
文明は、
百年分進んでいる。
火が、
当たり前になり。
水が、
命を育てる。
「でも」
俺は、
拳を握った。
「見守る」
「それが、
俺の役目だ」
火の神は、
静かに頷いた。
その背後で。
水の神が、
世界を見つめていた。
――次に、
何が生まれるかを。




