閑話07 神界、飲ませるな危険
「ただいま~」
元・荒野――いや、
奇跡の現場から戻ってきた統括神は、
軽い調子で円卓の部屋に足を踏み入れた。
「いやー、さすがに奇跡使っちゃったけど……」
そう言いながら、
神界タブレットを覗き込む。
「残りのポイントは……」
タップ。
《現在のポイント:23014》
「……よし」
「まだ余裕あるな」
満足げに、うんうんと頷く統括。
その時。
天使が、少し慌てた様子で報告に来た。
「ご報告です」
「倉庫に保管していた下界からのお供え物ですが……」
「うん?」
「長期間の神界保管により、
お酒が――」
「?」
「神の酒に変化していました」
――静寂。
次の瞬間。
「「「うおおおおお!!!」」」
男神たちが、一斉に沸き上がった。
「マジか!」
「飲めるのか!?」
「神の酒だぞ!?」
特に。
「……」
目を輝かせる、鍛冶の神ヘファイストス。
「待ちなさい」
「却下です」
「論外」
女神たちが、即座に立ちはだかる。
「ダメに決まってるでしょ!」
「酔った神が何するか分からないでしょ!」
「ケチ!」
テレスが叫んだ。
その瞬間。
ダンッ!!
円卓を叩く音が、神界に響いた。
立ち上がったのは――
ウェスタ。
一瞬で、
神界が静まり返る。
無言で。
天使の手からネクタルを奪い取り。
「……」
ごくっ。
ごくっ。
一気飲み。
「――おい」
ゆっくりと、振り向く。
「総括」
「正座」
「はい」
反射的に、正座する統括。
「……聞こえてねえと思ったのか?」
「え?」
「聞こえてねえと思ったのかって聞いてんだよ!」
ごちん。
容赦なく、頭を叩かれる。
「えっと……」
おずおずと、統括。
「何のことでしょうか?」
「あたしが」
声が震える。
「あたしがてめぇの百倍怖いって言ったの」
「どういう意味だよぉ……」
「……」
「……」
「嫌い?」
「嫌いなんだろぉ……」
「うぇええええん!!」
「ちょ、ちょっと!」
慌てて周囲を見る統括。
「誰か!助けて!」
しかし。
神々は。
何も言わず。
静かに、それぞれの部屋へ帰っていった。
「どういう事って聞いてるでしょ……」
涙を流すウェスタ。
「私のこと、嫌い?」
「そんなことないよ!」
必死になだめる統括。
その時。
空間が、歪んだ。
「……当然の報いだな」
原初の神が、現れた。
「え?」
「どういうことですか?」
「覚えておらんのか?」
「今回はちゃんと約束も守りましたよね?」
「やらかしてもないし!」
「うむ」
「責任も取ってくれるって言いましたよね?」
「うむ。そうだな」
原初の神は、頷く。
「その件については、
何も怒っとらん」
「むしろ」
「よくまとめてくれた」
「……ですよねぇ」
安堵する統括。
だが。
「しかし」
原初の神は、目を細めた。
「お主は」
一歩、前に出る。
「決定的なミスを犯した」
「……え?」
「顕現の許可を取りに来た時」
「筋トレの話をしようとしたな?」
「……」
統括の額に、汗が流れる。
「その時」
「儂は、何と言った?」
『話はするな』
「……」
「ノーーーーーー!!!」
叫びが、神界に響いた。
「統括神」
原初の神は、淡々と告げる。
「一週間の筋トレ禁止令」
「えっ!?」
「加えて」
「部屋謹慎」
「えええええええ!?」
「異論は?」
「……ありません」
その横で。
ウェスタが、涙を拭いながら腕を掴む。
「ほら」
「行くよ」
「え、ちょっと」
「一緒に籠る」
にこっ。
「……逃げる気?」
「……いえ」
(ウェスタって怒り上戸で
泣き上戸だったんだ....)
こうして。
統括は。
筋トレ禁止一週間
部屋謹慎
ウェスタ同伴
という、
神界史上もっとも重い処分を受けたのだった。
なお。
男神たちはネクタルを見てため息をつき。
女神たちは腕を組み。
アウローラは、
「それな」
とだけ言った。
神界は今日も平和である。
だいたい。




