第38話 統括、行動開始
魔王城は、いつも通りだった。
重厚な玉座。
ひざまずく家臣たち。
そして――
「……?」
唐突に、
魔王ゼノスの目の前に現れた男がいた。
タンクトップ姿。
腕を組み、
仁王立ち。
「ちょっと来い!」
「は?」
反応する間もなかった。
次の瞬間――
魔王は腕を掴まれ、引きずられた。
「ま、魔王様!?」
「何が起き――」
家臣たちの叫びを置き去りに、
二人の姿は、
その場から消えた。
荒野だった。
見覚えのある場所。
何もない、
風だけが吹く大地。
「ちょっと待ってろ!」
統括が言う。
「……はい」
なぜか、
大人しく従う魔王。
次の瞬間――
神は、消えた。
「……?」
二秒後。
「うおっ!?」
魔王の目の前に、
今度は勇者セインが現れた。
「えっ、ちょ、ここどこ――」
「殴り合え!」
唐突に、
統括が叫んだ。
「えっ!?」
「ちょっと待っ――」
二人が動揺する間もなく。
――身体が、
光り出す。
「強化魔法だ」
統括が言う。
「二人のステータスを、
完全に同じにした。」
魔王も、勇者も、
一瞬、息を呑む。
「さあ、殴り合え!」
「えっと……」
「……」
無理もない。
統括が地上に降りてきてから、
まだ――
十秒も経っていない。
「二人とも、
思うことがあるんだろ?」
拳を握る統括。
「殴り合え!」
勇者と魔王。
二人の目が、
ゆっくりと合った。
――そして。
意を決したように、
拳が振るわれた。
三十分後。
荒野の真ん中に、
二つの影が転がっていた。
顔は血だらけ。
腫れ上がり、
立ち上がる力もない。
だが――
その顔は、
晴れやかだった。
「どうだ」
満足げに、
統括が言う。
「スッキリしただろ」
「まったく……
なんて神様だよ」
勇者が、
笑う。
「俺は勇者よりも……」
魔王が、
言いかけて、尻すぼみになる。
「お前に勝って、
創造神ウェスタたんに――」
「それ!」
統括が、
即座に遮った。
「そこ!
そこが間違ってる!」
「……は?」
唖然とする魔王。
「ウェスタは火の神だ。
創造神は――」
胸を指す。
「俺」
「……は?」
「子供も三人いるぞ。
みんな可愛い」
一瞬間を置き、
「……一人、
おじいちゃんだけどな」
「こ……ども……
さん……?」
魔王の思考が、
完全に停止する。
「それでも」
統括が続ける。
「俺に挑みたいなら、
相手になってやるぞ?」
二人の体が、
再び光る。
傷が、
すっと消えていく。
「ちなみにだが」
――次の瞬間。
魔王の耳元に、
統括が現れた。
「ウェスタは、
俺の百倍怖いぞ」
「……っ」
魔王の背筋に、
冷たいものが走る。
「……諦めます」
なぜか、
納得した顔だった。
「さて」
話題を変える統括。
「どうする?」
「?」
まだ理解が追いついていない
二人。
「今回、
お互いの種族は
多くの命を失った」
声が、
低くなる。
「魔族と人間。
いなくなるまで
殺し合うのか?」
沈黙。
「こんなこと、
いつまで続ける?」
二人は、
下を向く。
「まだ蟠りはあるかもしれない」
統括は、
続ける。
「だが――
道を示すことはできるだろ?」
「道……」
二人が、
顔を合わせる。
「強敵と書いて、
友だろ?」
統括が、
笑った。
「ゼノスとセインに、
蟠りはあるか?」
「……いえ」
「……いや」
二人は、
もう一度、顔を見て――
笑った。
「今回の件は」
ゼノスが、
頭を下げる。
「俺の我儘で
始めた戦争だ」
「本当に、
すまない」
「……」
勇者が、
静かに言う。
「魔族に家族を殺され、
恨みを持つ人は
たくさんいます」
「それでも――
恨んだままの世界には、
したくない」
ゼノスが、
続ける。
「部下どもには、
今後人族に
関わらせないと約束する」
「俺の首を取って、
戦争の終わりを
宣言してくれ」
「魔王……
いや、ゼノスさん……」
その時。
「ゴホン」
統括が、
咳払いする。
「二人とも」
真顔。
「俺を、
誰だと思ってる?」
「……え?」
「……神様?」
「神はな」
統括が笑う。
「こんなことも、
できるんだよ」
――タブレットを、
タップした。
荒野が、
変わる。
花が咲き乱れ、
風が柔らぎ、
空が澄む。
そして――
光と共に、
死者たちが舞い戻る。
「神の奇跡さ」
膝をつき、
涙を流す二人。
「「創造神様……」」
「特別だ」
統括が言う。
「これは、
あくまで奇跡だ」
「普段から、
鍛錬と勉強、仕事も
怠るなよ」
「「はい!」」
「あ、あと」
振り返り、
指を立てる。
「筋トレもな」
「ゼノスは下半身。
スピード不足だ」
「セインは上半身と
全体バランス。
決定力が足りない」
言い切る。
そして――
神は、消えた。
「ゼノスさん」
「……ん?」
「これからのこと、
話し合いましょう」
「ああ」
こうして――
三年後。
魔王国と人間国の間に、
正式な同盟が結ばれる。
それは――
神話ではなく。
人と魔族が選んだ、
未来だった。
第二章・完




