第37話 神界、温度差あり
帰還は、静かだった。
――非常口の窓が閉じ、
円卓の部屋に、いつもの空気が戻る。
「……ふぅ」
椅子に腰を下ろす間もなく、
最初に口を開いたのは――
「儂なぁ」
クロノスだった。
「土いじりが好きな神なんじゃけど」
ぽりぽりと、顎を掻く。
「最近はどうも、
神託とかまとめ役とか
そっちばっかりでのぅ」
「役割分担では、
あなたが一番です」
即座に、ウェヌスが言う。
落ち着いた声。
揺らがない視線。
「孫よ、
そうはいってものぅ」
クロノスは困ったように笑う。
「……もう孫でいい、
お姉ちゃんだけど」
ウェヌスは、ため息をついた。
その瞬間からだった。
クロノスが、
他の神を呼ぶときに、
「孫よ」
と呼ぶのが、
当たり前になったのは。
「……あれ?」
アウラが首を傾げる。
「今、私も孫?」
「孫じゃな」
即答。
「えー」
一方。
統括は――
円卓の向こう側で、
下界を見下ろしていた。
腕を組み、
歯を食いしばる。
「……ちっ」
「何か、
気に障る事でも?」
ウェスタが、静かに尋ねる。
「気に障るどころじゃねぇよ」
統括は、苛立ちを隠さない。
「強敵って書いて、
トモって読むだろ」
神たちが、一斉にこちらを見る。
「なんで、
燻ってるんだよ!」
声が、響く。
「魔王も、勇者も、
あんな中途半端で!」
「……」
「燃え上がれよ!
全力でぶつかれよ!」
拳が、震える。
その時。
空間が、
音もなく割れた。
「今回は、
ちゃんとできたようじゃな」
原初の神だった。
穏やかな声。
だが――
「おい!原神!」
統括が、
即座に怒鳴った。
「げっ、原神?」
原初の神が、
一歩引く。
「強敵と書いて友だろ!
こんな終わり方、
納得できるか!」
「え、ええ……?」
「ちょっと行ってくる」
「えっ!?
また顕現するのは、ちょっと……」
原初の神が、
明確に動揺する。
「ちょっと話、
まとめてくるだけだ!」
統括は、
一歩踏み出す。
「いいだろ!?
いいよな!」
「は、はい……」
反射的な返事。
次の瞬間。
「言質取ったからな。
責任とれよ」
そう言い残し――
統括は、
非常口の窓へ。
躊躇なく、
飛び込んだ。
「……あついねー」
アウラが、
そう言って微笑む
「それな」
アウローラが、
即座に返す。
「ほんと、
筋肉だけじゃなくて
情熱も暑い」
「……かっこいい」
円卓の下から、
エレブスが目を輝かせる。
「戦の神……
いや、
やっぱり変な神……」
「孫よ」
クロノスが、
しみじみ言う。
「儂は、
ああいうの、
嫌いじゃないぞ」
「……」
テルスは、
扉の前に立ったまま、
ぽつり。
「……部屋、
出てきてよかった」
誰も聞いていない。
だが、確かに――
神界は、
少しだけ、
温度が上がっていた。
残された原初の神は、
頭を抱える。
「……やはり、
あやつは、
統括に向いておらん」
円卓の部屋に、
苦笑が広がった。
そして――
次の波紋は、
すでに下界へ向かっている。




