第32話 許可は出す。だが、やらかすな
神界の最奥。
円卓の部屋よりも、さらに上位。
そこは“空間”としか呼べない場所だった。
床はない。
天井もない。
あるのは、存在そのものの重み。
統括は、そこに立っていた。
いや――
立たされていた。
「……」
言葉が、出ない。
目の前にいるのは、
この世界のさらに外側を司る存在。
原初の神。
姿は定まらない。
光でもあり、闇でもあり、概念でもある。
「状況は把握している」
声が、直接思考に響く。
「魔王と勇者。
力は拮抗していないが、結果は膠着」
統括は、深く頭を下げた。
「はい。
このままでは、戦いが長引きすぎます」
「分かっている」
原初の神は、わずかに間を置いた。
「だからと言って、
お前が前に出る理由にはならない」
胸が、締めつけられる。
「分かってます」
本心では、分かっていなかった。
だが――今は、嘘でも言うしかない。
「……顕現の許可を」
統括は、言った。
「最小限。
直接攻撃はせず、存在を示すだけでいい」
原初の神は、しばらく沈黙した。
時間の感覚が、溶ける。
「……許可は出す」
統括の肩が、わずかに緩む。
だが――
次の言葉が、重かった。
「だが条件がある」
空間が、圧縮される。
「顕現は一度きり。
戦況を“変える”のではなく、“流れを示す”だけ」
「はい」
「名前を名乗るな」
「……はい」
「筋トレの話をするな」
「――はいっ!」
思わず、声が裏返った。
「特に魔王側に、
余計な勘違いを与えるな」
原初の神の気配が、鋭くなる。
「すでに一部、
致命的な誤認が起きているのは知っているな?」
「……はい」
知っている。
魔王は、統括を“戦の神”だと思っている。
そして――
(ウェスタのことを創造神とも……)
「お前は、創造神だ」
原初の神は、はっきりと告げた。
「戦う神ではない。
殴って解決する役目ではない」
統括は、強く頷いた。
「分かってます」
原初の神は、最後にこう言った。
「一度でも越えたら、
次は――外出禁止では済まん」
「……はい」
冷や汗が、背中を伝う。
「顕現の許可は出す。
だが――」
声が、低く落ちる。
「やらかすな」
その一言で、空間が解けた。
統括は、気がつけば神界の観測室に戻っていた。
「……生きて帰ってこれた」
ウェスタが、腕を組む。
「統括。
本当に“示すだけ”で済ませてください」
「分かってる」
アウローラが、じっと見る。
「絶対、余計なこと言わないでよ?」
「……努力する」
全員が、無言でうなずいた。
窓の向こう。
魔王と勇者は、今も向き合っている。
次に現れる“何か”が、
この世界の流れを決める。
――神は、動く。
だが、
踏み込んではならない。




