第31話 一年後、剣と拳が交わる時
一年は、短かった。
だが、戦場に身を置く者にとっては、
それは――生き方そのものを変える時間だった。
人間側・最前線
荒野に、二つの影が向かい合っていた。
一方は、人の身で立つ勇者――セイン。
もう一方は、魔族を統べる存在――魔王。
言葉は、いらなかった。
空気が張りつめる。
セインの身体は、この一年で明らかに変わっていた。
筋肉は無駄なく削ぎ落とされ、
動きに迷いがない。
(……速い)
魔王は、即座に理解した。
一年前とは、別人だ。
「来い、勇者」
低い声が、地面を震わせる。
次の瞬間――
消えた。
セインが、魔王の視界から消失する。
(――右!)
魔王が腕を振るう。
だが、そこにはもういない。
剣が、魔王の脇腹を浅く裂いた。
「……っ」
初めて、魔王の表情が動いた。
「当たるようになったか」
「当てなきゃ、意味がない」
セインは、息を整えながら答える。
勇者のレベルは、90。
魔王は、130。
差は、埋まっていない。
だが――
届く距離には、来ている。
膠着
戦いは、奇妙な均衡に陥った。
魔王の一撃は、重い。
当たれば終わる。
だが、当たらない。
セインは、ひたすら動く。
回避、回避、回避。
剣は確かに当たる。
だが――
「硬い……!」
刃が、筋肉に弾かれる。
血は出る。
だが、致命傷にはならない。
「ふは……はははは!」
魔王が、笑った。
「いいぞ、勇者!
それでこそだ!」
魔王は理解していた。
――この戦いは、決着がつかない。
自分は、遅い。
勇者は、軽い。
互いに決め手がない。
時間だけが、過ぎていく。
神界・観測室
窓の向こうで、二人の戦いが続いている。
統括は、腕を組んだまま動かない。
「……完全に膠着だな」
誰も、反論しなかった。
「勇者は避ける。
魔王は受ける」
ウェスタが、静かに言う。
「どちらも、正しい戦い方です」
「でも」
アウローラが、腕を組む。
「これ、終わらなくね?」
その通りだった。
二週間。
戦場は、ほぼ同じ構図のまま推移していた。
勇者は、削り。
魔王は、耐える。
世界は、この戦いを“待っている”。
だが――
神の判断が、まだ下りていない。
統括は、拳を握った。
「……原初の神に、相談するしかないな」
その言葉は、
この世界にとって――一線を越える決断だった。
窓の向こう。
剣と拳が、再びぶつかる。
この戦いは、
もはや人の領域だけでは終わらない。




