第24話 謹慎明け、世界は続いていた
扉が、静かに開いた。
「……長かった~……」
思わず漏れた声は、誰に聞かせるでもない独り言だった。
一年。
神界での一年は、下界での百年。
部屋から出るのは久しぶりだ。
筋トレは嫌というほどやったが、世界を見るのは――本当に久々だった。
円卓の部屋へと足を運ぶ。
見慣れた光景。
変わらない神たちの席。
「おかえりなさい」
ウェスタが、穏やかに言う。
「……ただいま」
そう返してから、創造神――いや、統括は世界の窓へと近づいた。
「……」
息を、飲む。
大陸の各地に、光が点在していた。
いや、光ではない。
拠点だ。
都市。
街道。
そして――
「ギルド……」
思わず呟く。
冒険者ギルド。
それが、もはや人間だけのものではないことは、一目で分かった。
人族に混じって、
角を持つ魔族。
長命のエルフ。
小柄なドワーフ。
種族は違えど、共通しているものがあった。
「……争ってないな」
「ええ」
ウェスタが頷く。
「どの種族にも、
争いを好まない者はいます」
「でも……」
統括は、視線を動かす。
「冒険は、好きなんだよね」
「はい」
未知を見たい者。
強くなりたい者。
世界を知りたい者。
理由は違えど、
彼らは同じ道を歩いていた。
「……よかった」
ぽつりと、心からの言葉が落ちる。
魔王城の方角へ、視線を移す。
「……あ」
そこには、まだ魔王がいた。
相変わらずの魔力。
相変わらずの存在感。
だが――
「……あいつ、
ちゃんと鍛えてるねぇ」
誰に言うでもなく、そう言った。
「逃げてない」
「ええ」
アウローラが肩をすくめる。
「筋肉方面に
逃げすぎてる気はするけど」
「……まあ、それは……」
苦笑してから、ふと気づく。
「そういえばさ」
統括は、ウェスタを見る。
「最近、魔王が
『ウエスタン』って
言ってるの、何?」
一瞬。
ウェスタの肩が、
びくっと跳ねた。
「……」
背中に、ぞわりと悪寒。
「……さあ」
一拍置いて、
完璧な笑顔で言う。
「なんでしょうかね」
「?」
統括の頭に、はっきりと疑問符が浮かぶ。
次の瞬間。
「――――っははははは!!」
アウローラが、腹を抱えて爆笑した。
「ちょ、ちょっと!
何でそこで笑うの!?」
「いや~、だって……!」
笑いすぎて言葉にならない。
「……?」
統括は、ますます分からない。
「……まあいいか」
首を傾げながら、世界の窓へ視線を戻す。
百年。
それでも、世界はちゃんと前に進んでいた。
そして――
小さな誤解もまた、
静かに育ち続けていた。




