閑話06 魔王側の誤解が加速する
魔界。
魔王城・鍛錬場。
「――――――――――――――――――――――ッ!!」
轟音と共に、床が沈む。
巨大な鉄塊を担ぎ上げているのは――魔王。
筋肉。
筋肉。
筋肉。
もはや魔族の域を超え、
「何と戦うつもりだ」と言いたくなる肉体だった。
「まだ……足りぬ……!」
歯を食いしばり、鉄塊を持ち上げる。
その脳裏に焼き付いているのは――
あの夜。
突如現れた、
戦の神。
床に埋まり、
軽いノリで肩を叩き、
余裕たっぷりに言い放った。
――筋トレしないとね!
「……戦の神……」
魔王は拳を握る。
「そして……
創造神……ウェスタたん……」
独り言が、甘く漏れる。
「ウェスタたん……」
胸に手を当て、恍惚とした表情。
「なんと慈愛に満ちた……
なんと美しい……」
あの場で、確かに聞いた名前。
創造神――ウェスタ。
「戦の神を倒せば……」
魔王の瞳が、燃え上がる。
「……ウェスタたんは、
我がもの……!」
何一つ合っていなかった。
「ならば……!」
鉄塊をさらに積み増す。
「戦の神以上の筋肉を……!」
神界。
天界の窓。
その光景を、
火の神ウェスタは硬直したまま見つめていた。
「……」
魔王の体格は、以前より明らかに異常だ。
「……」
背筋に、ぞわりと悪寒が走る。
その時。
魔界から、かすかに聞こえた。
「……ウェスタたん……」
「――――っ!?」
肩が跳ねる。
「……今……
私の名前を……?」
横から、アウローラが覗き込む。
「言ってたね」
「……」
「しかも語尾つき」
「…………」
否定できない。
確実に、呼ばれていた。
「若さよなぁ」
円卓の奥で、
クロノスが深く頷いた。
「力と恋情と憧れが
全部混ざっとる」
ウェスタは、額を押さえる。
「……なぜ……
ああなるの……」
クロノスは、のんびりと続けた。
「戦の神を倒せば
好きな神が手に入ると思うあたり
実に若い」
「……」
ウェスタは、顔を上げて叫んだ。
「そもそも!」
全員が、彼女を見る。
「――あなたは
私の子でしょ!!」
「……」
「……あ」
「……確かに」
アウローラが納得したように頷く。
クロノスも、うんうんと頷いた。
「系譜的には
完全に息子じゃな」
「……教育……
どこで間違えたの……」
ウェスタは頭を抱える。
魔界。
魔王は天を仰ぎ、誓う。
「待っていてください……
ウェスタたん……!」
拳を突き上げる。
「戦の神を超え……
あなたにふさわしい
存在となってみせる……!」
神界では。
「……止めますか?」
誰かが言う。
ウェスタは、しばし沈黙し――
静かに首を振った。
「……まだ……
筋肉しか増えていません」
全員、納得した。
天界の窓の向こうで、
誤解は
恋と筋肉を栄養に、
さらに加速していく。
――ウェスタは、
理由のわからない寒気に
しばらく身を震わせていた。




