閑話04 円卓のあとで
神界。
円卓の部屋。
扉が閉まり、
統括――創造神の気配が、完全に消えたあと。
しばらくの間、
誰も口を開かなかった。
星の模型が、
静かに回り続けている。
「……はぁ」
最初に息を吐いたのは、アウローラだった。
「疲れた~」
椅子にもたれ、だらりと体を伸ばす。
「説教する側ってさ、
マジでエネルギー使うんだね」
「あなたは」
ウェスタが、淡々と言う。
「途中から、
少し楽しんでいましたよね?」
「え?」
アウローラが、きょとんとする。
「してないし?」
「筋トレ制限を言い渡す場面で」
「……」
「笑いをこらえてましたよね」
「ちょっと!」
アウローラが手を振る。
「ちょっとだけだし!
あれは反射だから!」
「でもさ」
アウラが、円卓の向こう――
世界が見える窓へ視線を向ける。
「統括、
結構へこんでたよ」
「……ええ」
ウェヌスが、静かに頷く。
「自覚は、
きちんとありました」
「それでも」
テルスが、ぼそっと言う。
「止まれない」
「そうですね」
ウェスタが答える。
「だからこそ、
止める役が必要なんです」
「私たちが?」
アウラが振り返る。
「ええ」
「しかし」
クロノスが、腕を組む。
「ワシは、
少し誇らしかったぞ」
「……どこがです?」
デーメーテールが首を傾げる。
「善意だけで、
動くところじゃ」
「それ」
ヘファイストスが鼻を鳴らす。
「一歩間違えりゃ、
世界ごと壊れるやつだ」
「でも」
エレブスが、低く言った。
「……壊さなかった」
一瞬、
全員の視線が彼に集まる。
「……止まった」
「ええ」
ウェヌスが、穏やかに微笑む。
「ちゃんと、
止められました」
「正直に言うとさ~」
アウローラが、指を組んで身を乗り出す。
「タンクトップで顕現したとき、
マジで笑いそうになったんだけど」
「それな!」
デーメーテールが、くすっと笑う。
「え、なにそれ?
って普通に思ったし」
「それな!」
アウローラが肩をすくめる。
「神だよ?
神がさ?
タンクトップって、
攻めすぎじゃない?」
「盛り方、完全にミスってるよね」
「筋肉は盛れてたけどね~」
「それな!」
二人で、軽く笑う。
でも。
アウローラの声が、
少しだけ落ち着いた。
「でもさ」
「うん?」
「誰か助けたいって気持ちは、
ガチだったじゃん」
「それな!」
デーメーテールも、
表情を引き締める。
「不器用すぎるけど、
そこはマジでブレてない」
「だからさ」
アウローラは、にっと笑った。
「ちょっとやらかしても、
完全アウトにはならないんだよね」
「甘くない?」
「身内には甘いんだって~」
「それな!」
二人は、
顔を見合わせて頷いた。
「……統括」
ウェスタが、静かに言う。
「あなたは、
創造神としては――未熟です」
誰も、否定しなかった。
「でも」
視線を落とす。
「だからこそ、
世界は今、
生きています」
円卓の中央。
回る星。
誰一人、
反論しなかった。
「さて」
デーメーテールが立ち上がる。
「次、どうする?」
「文明衝突」
ヘファイストスが言う。
「戦争」
アウラが続ける。
「選択」
ウェヌスが締める。
「……統括、
大変だね」
「ええ」
ウェスタは、
小さく笑った。
「でも」
「逃げません」
その頃。
自室。
統括は、
ベッドの上で天井を見ていた。
「……正座、
きつかった」
誰も聞いていない。
それでも。
「……ありがとう」
ぽつりと、こぼれる。
その言葉は、
神界の誰にも届かない。
けれど。
円卓の部屋の空気は、
ほんの少しだけ――
柔らかくなっていた。




