第22話 夜中の公平性
神界の夜は、静かだ。
星々がゆっくりと回り、
円卓の部屋も照明を落とし、
神々はそれぞれの私室で休んでいる――はずだった。
「……うん」
統括は、
そっと立ち上がった。
「……今なら、
誰も起きてないよな?」
きょろきょろ。
誰もいない。
天使もいない。
監視役の神もいない。
「よし」
理由は単純だった。
「……人間側だけ
アドバイスするの、
ちょっと不公平じゃない?」
自分で言って、
自分で頷く。
「魔族側にも
一言くらい……ね?」
完全に、
やらかし前提の思考である。
世界観測窓。
そこに映るのは
魔王城。
「……あ」
統括は
非常口――
もとい、窓の前に立つ。
「えーっと……」
一瞬だけ迷って。
「……ごめん!」
ドンッ。
迷いを筋力で突破し、
そのまま窓に飛び込んだ。
魔王城・謁見の間。
「……?」
魔王が
報告書から顔を上げた瞬間。
ドン!!!!!
天井が揺れ、
床が割れ。
白い光とともに――
「ども」
タンクトップ姿の男が、
床にめり込んでいた。
「こんにちは。
創造神です」
沈黙。
「……」
魔王は、
言葉を失った。
「えっと」
統括は
自分の姿を見下ろす。
「……あ」
タンクトップ。
筋肉むき出し。
「人前に出るから
この方がいいかなって」
魔王の脳が
追いついていない。
「えーっと……」
統括は
床から抜け出し、
立ち上がる。
「ごめんね。
人間にだけ
アドバイスするの、
悪いよね?」
魔王は
反射的に頷いた。
「ってことで」
統括は
指を立てる。
「冒険者ギルド、
これから
めちゃくちゃ大きくなるよ」
魔王の眉が動く。
「でもね」
統括は続ける。
「それは
人間だけの
組織じゃない」
一歩前へ。
「種族に関係なく、
すべての冒険者を
平等に扱う」
さらに一歩。
「時には
人間の国に
だって反発する」
魔王は
無言で聞いている。
「だからさ」
統括は
少し笑う。
「レオンくん、
優しいから
その辺考えてると思うけど」
魔王の思考が
「レオン?」で止まった。
「……最後に」
統括は
魔王をまっすぐ見る。
「君さ」
「その類まれなる魔力で
魔王になったんだよね?」
魔王は
ゆっくり頷く。
「でも」
統括は
首を傾げる。
「さすがに
それだけじゃ
駄目じゃないかな?」
沈黙。
次の瞬間。
統括の姿が――
消えた。
魔王が
反応する前に。
背後。
「この距離なら
何もできないよね」
いつの間にか、
統括は
魔王のすぐ横にいた。
ポン。
肩を叩く。
「筋トレしないとね!」
歯が
キラッと光る。
「……は?」
魔王が
声を出す前に。
「統括!!」
鋭い声。
次の瞬間。
床が
爆音を立てて
崩れた。
「ウェスタ!
なんで!?」
統括が
焦る。
目の前にいたのは、
火の神ウェスタ。
腕を組み、
にこりともせず。
「何でとは?」
「い、いえ……
なんでもないです」
「帰るぞ」
「はい」
ズルズル。
統括は
引きずられる。
去り際。
統括は
振り返り、
魔王を見る。
「……あ」
一言だけ。
「世界、
壊さないでね?」
そして。
消えた。
魔王は
しばらく
動けなかった。
床には
巨大な穴。
天井には
亀裂。
「……」
ぽつり。
「この世界の神は……」
頬が
ほんのり赤くなる。
「……
こんなにも
美しい女性だったのか」
完全に
勘違いである。
神界。
統括が
戻った瞬間。
「……」
原初の神が
仁王立ちしていた。
無言。
圧。
「……」
統括は
正座した。
「一年間」
低い声。
「部屋から
出るな」
「……はい」
「見つかったら
延長だ」
「……はい」
原初の神は
そのまま消えた。
静寂。
統括は
天井を見上げる。
「……やっぱ
やりすぎたよなぁ」
ぽつり。
「筋トレ
勧めただけ
なんだけど……」
タンクトップ姿のまま。
創造神は
反省という名の
軟禁生活に入った。
――なお。
この夜の出来事は、
後に魔王側で
「筋肉神話」として
語り継がれることになる。
(本人は
まだ知らない)




