第21話 静かに増える火種
世界は、
一見すると平和だった。
魔法は生活に溶け込み、
冒険者という存在も
まだ「珍しい職業」の域を出ていない。
だが――
確実に、何かが変わり始めていた。
人間の国・北部辺境。
若い剣士が、
魔法をまとった刃で
魔物を討ち倒す。
「……できた」
肩で息をしながら、
彼は自分の手を見つめた。
ほんの数年前まで、
魔法は「学者」か「貴族」のものだった。
今は違う。
誰かが、
誰かに教え。
誰かが、
工夫し。
誰かが、
改良した。
その積み重ねが――
武器になり始めている。
別の町。
魔法使いが
護符を量産し、
安価で売り出していた。
「これなら
農作業でも
使えるだろ?」
魔法は
戦うためだけのものではない。
だが。
「……戦争になったら
どうなる?」
その一言に、
誰も答えられなかった。
魔族領。
魔王城の近く。
偵察に出た魔族が
人間側の動きを報告する。
「人間が
魔法を
体系化し始めています」
「個人の才能ではなく、
仕組みとして」
魔王は
黙って聞いていた。
「……なるほど」
静かに。
「それは
“武器”だな」
神界。
円卓の部屋。
統括は
世界を映す窓の前で
腕を組んでいた。
「……」
映るのは
人間。
魔族。
魔法。
技術。
文明。
すべてが、
ゆっくりと
絡み合い始めている。
「……何か」
ぽつり。
「何か
出来ることは
あるんだろうか」
直接は、
駄目。
過度な介入も、
駄目。
「……」
統括は
頭を掻く。
「間接的に、
導くくらいなら……」
その時。
円卓の周囲に、
淡い光が灯った。
夢。
啓示。
ささやき。
他の神たちが、
それぞれの方法で
下界へと“ヒント”を流している。
「……」
統括は
それを見て、
小さく笑った。
「……これで
気づくと
いいんだけどなぁ」
窓の向こう。
人々はまだ
混乱の中にいる。
だが。
確実に。
「仕組み」が
生まれ始めていた。
統括は
一歩下がり、
世界を見下ろす。
「……へぇ~」
口元が
わずかに歪む。
「面白く
なってきたじゃん」
ニヤッと。
創造神――
統括は、
次の段階を
静かに待っていた。




