第13話 静かに増える火種
魔法が、
世界に定着し始めてから一年。
星は、
目に見えて変わった。
「……増えたな」
円卓の間。
世界を映す窓を前に、
俺は腕を組んだ。
「ええ」
ウェヌスが頷く。
「井戸を掘らなくても
水が出る村」
「火を起こさずに
金属を溶かす工房」
「農業効率は
三倍以上です」
「いいこと
ばかりじゃない?」
アウローラが、
軽い調子で言う。
「表面上は」
ウェスタが、
静かに続けた。
「……表面上?」
俺は、
もう一度窓を見た。
そこには――
魔法を使う者と、
使えない者。
はっきりとした、
差が生まれ始めていた。
「魔法は
誰でも使えるんじゃ
なかったのか?」
「素質は
必要です」
ヘルメースが、
肩をすくめる。
「全員が
同じように
使えるわけじゃない」
「教えれば?」
「教えても
伸びない人は
伸びない」
「……」
俺は、
嫌な予感を覚えた。
「……国単位で
差が出てるな」
「はい」
テルスが、
淡々と答える。
「魔法適性の高い地域は
急速に発展」
「低い地域は
取り残されつつあります」
「……奪われる側か」
クロノスが、
低く唸る。
「農地も、
水源も、
奪われやすい」
「魔法が
力になった分、
武力にもなる」
円卓が、
静まり返る。
「……まだ
戦争は起きていない」
俺は言った。
「だが」
窓の一部が、
ズームされる。
城壁。
魔法陣。
「準備は
始まってる」
「……」
「魔法を
防ぐ魔法」
「魔法を
強化する魔法」
「兵士に
魔法を
持たせる研究」
ヘルメースが、
少し楽しそうに言った。
「……発展、
してるでしょ?」
「発展と
暴走は
違う」
ウェスタが、
即答した。
「……」
ヘルメースは、
口を閉じた。
「統括」
ウェヌスが、
慎重に言う。
「魔法は
もう止められません」
「ええ」
「取り上げれば
反発が起きる」
「……分かってる」
俺は、
ゆっくり息を吐いた。
人間だった頃。
火を扱い始めた時も、
同じだった。
便利で。
強くて。
戻れない。
「……教育は?」
「進んでいます」
「ですが」
ウェスタが、
視線を落とす。
「“勝つための魔法”を
求める声が
増えています」
「防御より
攻撃」
「治癒より
破壊」
「……そうなるか」
円卓の下から、
小さな声。
「……争いは
嫌だ」
エレブスだった。
「……暗くて
静かな方が
いい」
「お前は
変わらないな」
「……うるさい」
アウラが、
腕を組む。
「風の流れも
変わってきてる」
「戦の匂いが
する」
「……匂い?」
「そういうの
分かるの」
アウローラが、
いつもの調子で言う。
「でもさ」
「文明が
進めば」
「ぶつかるのは
当たり前じゃない?」
「……」
「今までは
距離があった」
「今は
近すぎる」
「だから
ぶつかる」
「……」
「ね、統括」
俺は、
しばらく黙ったまま
世界を見ていた。
魔法を掲げる国。
魔法を恐れる国。
魔法を崇める者。
魔法を憎む者。
「……止めない」
俺は言った。
「ただし」
全員が、
こちらを見る。
「均衡は
守る」
「一方が
壊れるほど
強くなるなら」
「……介入する」
「それは
戦争を
起こすことにも
なりますよ?」
ウェスタが、
問いかける。
「それでもだ」
俺は、
はっきり言った。
「滅びより
マシだ」
静寂。
誰も、
否定しなかった。
その夜。
俺は、
再び窓の前に立っていた。
遠く。
魔法の光が、
夜を裂いている。
「……」
思わず、
拳を握る。
文明は、
進む。
魔法は、
広がる。
そして――
戦争は、
必ず生まれる。
それが、
人の歴史だ。
「……」
俺は、
小さく呟いた。
「守れるか」
「この世界を」
答えは、
まだない。
だが。
火種は、
確かにそこにあった。
静かに。
確実に。
次に燃えるのは――
時間の問題だった。




