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脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


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閑話15 ヘファイストスの悪巧み



 天界には、暗黙の了解というものがある。

 ――ヘファイストスの前で酒の話をしてはいけない。

 理由は単純明快だった。

 飲む。

 暴れる。

 壊す。

 翌日覚えていない。

 この黄金コンボを、神格者のスペックでやらかした結果、

彼は正式に――天界飲酒禁止となったのである。

「……理不尽じゃ」

 ドワーフ王国、地下鍛冶場の一角。

 人の姿を借りた鍛冶神ヘファイストスは、腕を組んで唸っていた。

「酒とは労働の報酬」

「汗を流した後の一杯こそが文化」

「それを禁ずるなど、神のやることではない!」

 隣で、ドワーフ国王が苦笑する。

「いや……神様が言うと、重みが違いすぎますな」

「だからこそじゃ!」

 ヘファイストスは、にやりと笑った。

「聞いたぞ、王」

「統括とかいう神が持っておる酒……ネクタル」

「不老不死にもならん、バフも無い」

「ただ、異様に美味いだけの酒」

「ええ……」

 王は思い出す。

 鍛冶場で、汗まみれの後に振る舞われたあの一杯。

 喉を焼き、腹を満たし、心をほどく、奇妙な酒。

「……あれは、確かに良い酒でした」

「じゃろう?」

 ヘファイストスは、胸を張る。

「そしてのう、わしも鍛冶神、気持ちはわかる」

「そういえば、お主面白いスキルを持っていたのう」

 そう言って、彼は掌を返した。

 ぽん、と現れたのは――

 琥珀色に輝く酒樽。


「……まさか」

「コピーじゃ!」

 王が絶句する。

「そ、それ……大丈夫なんですか!?」

「神の酒を勝手に……!」

「問題あるか?」

「……ありますね」

 だが、ヘファイストスは気にしない。

「細かい理屈は酒の前では無力!」

「さあ王よ!」

「ドワーフ同士、飲もうではないか!」

 ――こうして。

 その夜、ドワーフ王国は、久方ぶりの大宴会となった。

「酒だああああ!!」

「鍛冶の後はこれだ!!」

「神様も飲んでるぞ!!」

 樽が転がり、杯が鳴り、

 地下鍛冶場は一瞬で戦場と化す。

 ヘファイストスは上機嫌だった。

「はっはっは!!」

「やはり酒は最高じゃ!!」

「火!鉄!汗!酒!」

「これぞ生きるということよ!!」

 踊り出す鍛冶神。

 歌うドワーフ。

 樽に乗る王。

 完全に、天界が禁止した理由そのままの光景だった。

 ――その時。

 空気が、冷えた。

「……へぇ?」

 その声一つで、

 宴の温度が十度下がる。

 現れたのは、アウラだった。

 静かに、穏やかに。

 だが、目は笑っていない。

「……ヘファイストス?」

「……あ」

 次の瞬間。

 ゴツン。

 乾いた音が、鍛冶場に響いた。

「ぐあっ!?」

「正座」

「なっ、なぜお主がここに!?」

「正座」

「いや、説明を――」

「正・座」

「……はい」

 ヘファイストス、床に正座。

 その様子に、ドワーフ一同、凍りつく。

 アウラは、腕を組んだ。

「天界で飲酒禁止」

「地上でコピー酒」

「しかも宴会主催」

「……えっと」

「三点アウト」

 説教が、始まった。

「あなたは」

「飲むと」

「必ず」

「やりすぎる」

「う……」

「天界で火事を起こし」

「建物を壊し」

「翌日覚えていない」

「……」

「それで何度、統括が胃を痛めたと?」

 ヘファイストス、縮こまる。

「……すまぬ」

「反省してる?」

「……しておる」

「本当に?」

「……たぶん」

 再度、拳骨。

「ぐあっ!!」

 その光景を、

 ドワーフ国王は呆然と見ていた。

 ――神。

 ――欲。

 ――暴走。

 その姿は、

 かつての自分と、重なって見えた。

「……」

 王は、静かに呟く。

「……こんな欲にまみれた神が、いるのか」

 ヘファイストスが、ちらりとこちらを見る。

「……王よ」

「欲は、悪ではない」

「だがな」

 アウラが続ける。

「欲に飲まれたら」

「神も人も、同じ」

 王は、深く頭を下げた。

「……過去の自分を、恥じます」

「欲で、国を壊しかけた」

「だが……」

 視線を上げる。

「鍛冶で汗を流し」

「仲間と酒を飲む」

「それ自体は、悪くない」

 ヘファイストスが、苦笑した。

「……じゃろ?」

「だけど」

 アウラがぴしりと言う。

「量と節度を守れ」

「……はい」

 その後。

 宴は、強制終了となった。

 酒樽は没収。

 ヘファイストスは天界へ連行。

 ドワーフたちは、少し頭痛。

 だが――

 翌日。

 鍛冶場には、いつもより多くの火が灯っていた。

「昨日は……楽しかったな」

「やりすぎたけどな」

「でも、悪くなかった」

 王は、その音を聞きながら思う。

 欲は、制御すべきもの。

 否定すべきものではない。

「……神ですら、迷うのだ」

 ならば人は、なおさらだ。

 だが、

 迷って、叱られて、恥じて、戻れるなら。

 それはきっと、

 悪巧みですら、無駄ではない。

 ――なお。

 後日、統括はアウラから報告を受け、

 こう言った。

「……だから言っただろ」

「酒は、管理が一番難しいって」

 その胃が、

 また少し、きりりと鳴いた。



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