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脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


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第106話 封じられた地下と王国の変化



 ドワーフ王国に、奇妙な静けさが訪れていた。

 あの地下鍛冶場が封じられてから、三日。

 王都の朝は、いつもより少し遅く始まる。

 ――いや、正確には「始まりにくくなった」。

「……王よ、本当に閉じちまったんですかい?」

 鍛冶ギルドの前で、若い鍛冶師が不安げに尋ねる。

「ああ」

 王は短く答えた。

「地下鍛冶場は、もう使えん」

 その言葉に、周囲がざわつく。

「でも、あそこがあったから――」

「高純度の鉱石が……」

「注文、どうすりゃいいんだ……」

 不満と困惑が、隠そうともせず漏れ出す。

 王は、それを黙って受け止めた。

「分かっている」

「不便になる」

「仕事も、減るかもしれん」

 それでも、王は続ける。

「だがな」

「楽をして打った鉄は」

「楽な分だけ、魂が入らん」

 年配の鍛冶師が、腕を組んだ。

「……昔は、そうだったな」

「先代の頃は」

「鉱石一つ運ぶのにも、骨が折れた」

「だが、剣は折れなかった」

 その言葉に、空気が変わる。

 若い鍛冶師が、戸惑いながら言った。

「でも……品質を戻すには」

「時間が……」

「かかる」

 王は、はっきりと頷いた。

「ダンジョンの件もある」

「今は、量を追わん」

「一振りずつ、だ」

 その日の午後。

 王都の外れ、封じられた地下鍛冶場の入口には、重い石扉が据えられていた。

 神の力で封じられている――

 そう噂されてはいるが、誰にも確証はない。

 ただ一つ、分かっているのは。

 もう、開かないということだけだ。

 その前で、少年が立ち止まった。

 見習い鍛冶師だ。

「……あのさ」

 隣の師匠に、ぽつりと聞く。

「昔の鍛冶って」

「そんなに、きつかったんですか?」

 師匠は、少し考えてから答えた。

「きつかった」

「だがな」

「鉄と向き合ってるって、感じはあった」

 少年は、石扉を見上げる。

「……じゃあ」

「ぼくも、そっちの方がいいかも」

 夜。

 王城の一室で、王は報告書に目を通していた。

「生産量、三割減……」

「苦情、増加……」

 だが、その次の頁で、王の目が止まる。

「……破損率、低下?」

 さらに読み進める。

「返品、減少」

「修理依頼、減」

「……耐久評価、上昇」

 王は、静かに息を吐いた。

「……始まったな」

 そこへ、扉が叩かれる。

「入れ」

 現れたのは、鍛冶ギルド長だった。

「王よ」

「……正直に言います」

「最初は、恨みました」

「地下を封じたことを」

「だろうな」

「だが」

 ギルド長は、頭を下げる。

「今日、一本の剣が完成しました」

「久しぶりに」

「“誇れる”と思えた」

 王は、立ち上がった。

「見せてくれ」

 差し出された剣は、派手ではない。

 装飾も、特殊効果もない。

 だが、刃は澄み、

 重心は正確だった。

 王は、静かに頷く。

「……これは」

「売れなくてもいい」

「王国の名を、背負える」

 ギルド長は、微笑んだ。

「ええ」

「それを、若い連中が見ていました」

 その頃――

 王都の外。

 丘の上で、統括は腕を組んでいた。

 正義君の姿で、

 エレブスと、ケルちゃんを連れている。

「……変わり始めたな」

 エレブスが、静かに言う。

「うん!」

 ケルちゃんは元気よく頷く。

「みんな、たいへんそうだけど」

「なんか、たのしそう!」

「そうだな」

 統括は、遠くの煙を見つめる。

「神の力が引いた後に」

「人がどう動くか」

「それを見るのが、俺の仕事だ」

 ケルちゃんは、首を傾げる。

「主は、てつだわないの?」

「今は、な」

「手を出したら」

「また、近道を用意することになる」

 エレブスが、ぽつりと言った。

「……見守るのも」

「力、か」

「そういうことだ」

 王国の夜は、まだ不安定だ。

 不満も、混乱も、消えてはいない。

 だが――

 鍛冶場から聞こえる音は、変わった。

 軽い音ではない。

 重く、確かで、

 一打一打が、地面に響く音。

 それは、

 再び、自分の手で世界を形作ろうとする音だった。

 統括は、背を向ける。

「……よし」

「次は、竜神の方が」

「やらかしそうだな」

「え?」

 ケルちゃんが顔を上げる。

「エキドナ、また?」

「十中八九」

 遠くで、風が鳴った。

 変化は、始まったばかりだ。

 だが確かに――

 この王国は、神に頼らず、一歩を踏み出した。



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