第100話 原初の神、頭を抱える
――原初の神は、
基本的に「見ているだけ」の存在である。
星を作り、
神を配置し、
あとは静かに巡りを眺める。
……はずだった。
「…………」
原初の神は、
虚空に浮かぶ“観測盤”を見つめていた。
映っているのは、
鬼人族の島。
そして――
数刻前までの惨状ログ。
【安全指数:過剰】
【自由裁量:極端に低下】
【管理者善意:暴走】
【統括:胃痛】
「………………」
原初の神は、
ゆっくりと額に手を当てた。
「……なぜ、
こうなる」
◆
少し時間を遡る。
原初の神は、
いつものように星を俯瞰していた。
文明。
衝突。
選択。
成長。
どれも順調。
「……良い流れだ」
特に評価していたのは、
創造神・統括。
破壊しない。
放置しない。
だが、奪わない。
「……珍しい型の神だ」
そう思った、その時。
――警告。
【異常検知】
【安全概念:再定義】
【実行主体:神獣】
「……ん?」
画面を拡大する。
そこにいたのは、
三つの首を振りながら
善意を全力投下する神獣。
「……ケルベロス」
原初の神は、
少しだけ口元を緩めた。
「ほう。
管理者か」
――次の瞬間。
【自由意思:制限】
【痛覚:無効】
【危険概念:消失】
「……?」
さらに。
【反抗:無力化】
【怠惰:筋力補正】
「…………?」
原初の神、
完全に黙る。
「……いや、待て」
慌ててログを遡る。
原因:
「もっと安全にしよう」
「……善意、だな」
だが結果。
・文明の停滞
・学習機会の消失
・管理者依存の兆候
原初の神は、
ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「…………」
◆
そこへ。
天界側の映像が切り替わる。
床に倒れ込む統括。
「……胃が……」
「……」
原初の神は、
思わず天を仰いだ。
「……すまん」
誰にともなく呟く。
◆
やがて。
すべてが解除され、
島に“普通”が戻る。
統括が説得し、
神獣が理解し、
善意が抑えられた。
観測盤の数値が、
徐々に安定していく。
原初の神は、
深く息を吐いた。
「……危なかったな」
だが――
評価項目を確認する。
【危機対応】
・統括:S
・神獣:A(要教育)
・文明耐性:A+
「…………」
原初の神は、
頭を抱えた。
「評価が下げられん」
◆
そこへ、
ウェスタの念話が届く。
『……あの、原初様』
「何だ」
『あの件……
統括は怒られますでしょうか』
原初の神は即答した。
「怒れん」
『……ですよね』
「むしろ褒める案件だ」
『……え』
「制御不能な善意を、
力でなく言葉で止めた」
「神獣を叱らず、
理解させた」
「失敗の意味を、
現場で教えた」
「……理想的だ」
ウェスタが黙る。
原初の神は、
ぼそりと付け加えた。
「……胃以外は」
◆
その後。
原初の神は、
記録簿に一文を書き足した。
この星は特殊である。
神が強すぎる。
神獣が優しすぎる。
管理者が真面目すぎる。
よって――
私が口を出す余地は、もはや無い。
そして最後に。
追記:
統括には、
胃薬を常備させること。
原初の神は、
ゆっくりと観測盤を閉じた。
「……本当に」
小さく、
だがどこか楽しげに。
「とんでもない星を、
作ってしまったものだ」
遠く――
天界のどこかで。
統括がくしゃみをした。
「……誰か、
俺の悪口言ってないか?」
その問いに答える者は、
もういなかった。
――だが。
この星の未来を、
原初の神は確信していた。
滅びはしない。
胃は壊れるが。




