第97話 竜神様歓迎祭
鬼人族の島は、その日――
朝から異様な熱気に包まれていた。
「竜神様が来られたぞおおおお!!」
「祝いだ! 祭りだ!!」
「一晩中やるぞおおお!!」
太鼓が鳴る。
角笛が響く。
屋台が並び、酒樽が転がり、島全体が浮き足立っていた。
統括は、その様子を見下ろしながら思った。
(……あ、これ絶対面倒なやつだ)
隣では、エキドナが真剣な顔で島を見ている。
「……統括殿」
「ん?」
「この騒音、異常な人の集まり、火の準備……」
「うん」
「これは――災害の前兆ではないか?」
統括、即座に頭を抱えた。
「違う違う違う!!」
「これは祭り! 歓迎会! ハッピーイベント!!」
「災害じゃない!!」
だが、慎重派竜神は一切聞いていなかった。
「やはり……」
エキドナは真顔で頷く。
「神が来たことで均衡が崩れ、文明が暴走しておる……」
「違うから!!」
その瞬間――
ドォン!!
夜空に一発、花火が打ち上がった。
「――――敵襲じゃ!!」
「は!?」
エキドナが叫ぶと同時に、
空間が歪み、巨大な防御陣が展開された。
ゴゴゴゴゴ……!!
島全体を覆う、竜紋付き・多重結界。
「花火だって!!」
「祝いのやつ!!」
「攻撃じゃない!!」
しかし、時すでに遅し。
次の花火が上がる瞬間、
エキドナは両手を広げて宣言した。
「安心せよ民よ!!
余が――災害から守る!!」
バチィン!!
花火、結界に直撃して炸裂。
「おおおお!!」
「さすが竜神様!!」
「敵の火を完全防御!!」
鬼人族、なぜか大歓声。
「違う!!
今のは花火!!
自分たちで上げたやつ!!」
統括のツッコミは、太鼓の音にかき消された。
エキドナはさらに険しい表情になる。
「統括殿……」
「まさか、これはまだ前兆……?」
「本番はこれからなのでは……?」
「やめて!!
その発想を今すぐ捨てて!!」
だが祭りは加速する。
松明が灯され、
踊り子たちが現れ、
次々と花火が夜空を彩る。
ドン! ドン! ドン!
「連続爆発!!
規模拡大!!
災害レベル上昇!!」
エキドナ、即断。
「第二防衛段階へ移行!!」
「待て待て待て待て!!」
島の周囲に、
地震吸収結界、
津波防止結界、
火災抑制結界、
隕石迎撃陣まで展開され始める。
「やりすぎ!!」
「祭りで隕石は来ない!!」
しかし鬼人族は感動していた。
「見ろ……」
「我らの島を、ここまで守ってくださるとは……」
「竜神様……尊すぎる……」
信仰、さらに爆増。
統括は膝に手をつき、荒い息を吐いた。
「……あのな」
「エキドナ」
「これは“楽しむ”行事なんだよ」
エキドナは、少しだけきょとんとする。
「……楽しむ?」
「命の危険が無く?」
「管理も必要無く?」
「無い!!」
「全部無い!!」
その時――
フィナーレの特大花火が打ち上がった。
ドォォォン!!
夜空いっぱいに広がる光。
一瞬、エキドナの瞳が見開かれ――
そして、ぽつりと呟いた。
「……綺麗、じゃな」
統括、ようやく安堵する。
「だろ?」
「これが祭りだ」
エキドナはしばらく黙り、
やがて、少し照れたように言った。
「……人の営みも、悪くないのう」
次の瞬間。
ゴペッ。
「おい!!
なんでそこで転ぶ!!」
地面にうつ伏せの竜神。
それを見た鬼人族、再び大歓声。
「尊い!!」
「転び姿まで神々しい!!」
統括は、夜空を仰いだ。
(……俺の胃は、
この星が滅びる前に滅びるな)
こうして――
鬼人族の島は、
「竜神様歓迎災害(本人誤認)」祭りとして
長く語り継がれることになるのだった。
なお、翌日。
統括は三日間、寝込んだ。
――ツッコミ疲労により。




