第96話 鬼人族との面会
~信仰が強すぎるのも考えもの~
空が割れた。
……いや、正確には割れていない。
だが、島国に住む鬼人族たちにとっては、割れたように見えた。
「おおおおおおおおお!!」
「神だあああああああ!!」
統括、エキドナ、ウェスタ、クロノス。
四柱が揃って島に降り立った瞬間、港がひっくり返った。
「ちょ、待って!」
統括が手を振る。
「まだ何も言ってない!」
だが、鬼人族たちはもう止まらない。
角の生えた屈強な男たちが、一斉に地面に額を擦りつける。
「おお……神々よ……」
「我らの島に降臨なさるとは……!」
「いや、普通に歩いてきただけだからな!?」
「空から降りた時点でアウトです」
冷静にツッコミを入れるウェスタ。
一方その頃――
エキドナはというと。
「……」
「……」
「……?」
目を輝かせて、鬼人族を見ていた。
「角……」
「尻尾……」
「逞しい……」
「やめろ!」
統括が即座に止める。
「撫でようとするな!」
「な、なぜじゃ!?」
「絶対トラブルになる!」
クロノスは一歩前に出た。
白髪に長髭、堂々たる神の風格。
何も言わず、ただ立つ。
鬼人族たちが一斉に顔を上げる。
「……!!」
「……この威圧感……」
「神の中の神……!」
「ほら見ろ」
統括が小声で言う。
「クロノス連れてきて正解だっただろ」
クロノスは、ゆっくりと頷いた。
「うむ」
――それだけ。
「しゃ、喋った……!」
「ありがたい……!」
「喋っただけで拝まれるの、ずるくない?」
統括の心が少し折れた。
やがて、族長らしき鬼人族が前に出る。
筋骨隆々、だが目は穏やかだった。
「神々よ、何用でございましょうか」
統括は深呼吸する。
「えーっと……今日は相談に来た」
その瞬間。
「相談!!」
「神が我らに相談!!」
「名誉だああああ!!」
島中がどよめいた。
「違う違う!」
「そんな大層な話じゃない!」
だが、もう遅い。
即席の神殿が建ち始めていた。
(なぜか慣れている)
エキドナが一歩前に出る。
「余は竜神エキドナ」
「この星の安定を司る者じゃ」
鬼人族たちは、再び土下座。
「うおおおおお!!」
「星そのもの!!」
「ちょっと待て!」
統括が叫ぶ。
「話を聞け!」
エキドナは続ける。
「余は、この島に住処を構えたい」
「ゆえに――」
鬼人族、息を呑む。
「――守り人を、頼みたい」
沈黙。
次の瞬間。
「やります!!」
「やらせてください!!」
「一生守ります!!」
「即答!?」
統括が目を剥く。
族長は胸を叩いた。
「我ら鬼人族は、信仰と誇りを何よりも重んじます」
「神を守るなど、この上ない栄誉!」
「条件とか聞かないの!?」
「聞きません!!」
「……怖いよ!」
ウェスタが苦笑する。
「交渉が不要とは、ある意味理想的ですね」
エキドナは感動していた。
「なんと良き民……」
「余、慎重に検討せねばと思っておったが……」
「これは……」
「即決するな!」
だが、エキドナは族長の手を取る。
「任せたぞ」
「全力で守ります!!」
クロノスが静かに言う。
「農耕と土地管理については、後で話そう」
「はい!!神様!!」
「もう完全に流れできてる……」
こうして、
話し合いゼロ、揉め事ゼロ、
ただし神側の胃痛だけが増える
前代未聞の面会は終わった。
帰り際。
エキドナがぽつりと言った。
「……余、ここが好きじゃ」
「でしょうね」
「角も可愛いし」
「それ言うな!!」
こうして、
鬼人族は竜神の守り人となり、
統括はまた一つ、
「神なのに現場対応」を増やすのであった。
――なお、この島では後日、
「竜神様は転ぶと可愛い」
という謎の信仰が生まれることになる。
それは、また別の話。




