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脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


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第89話 独立



森の仮設集落に、久しぶりに穏やかな風が吹いていた。

木々はまだ若く、完全には戻っていない。

それでも、土は生きていたし、空気は澄んでいた。

エルフ三種族、

そしてケルちゃんとエレブス、

神々が集まり、簡素な円卓を囲んでいた。

「さて」

統括が口を開く。

「そろそろ、だと思うんだ」

その一言で、場の空気が引き締まる。

「独立だ」

誰も、すぐには言葉を返さなかった。

だが、驚きは少ない。

皆、薄々感じていたのだ。

「神の管理下に置かれたままじゃ、

 いつまでも“与えられる側”のままだ」

統括は淡々と言う。

「もう、ここは立て直した。

 文化も、食も、責任も、芽は出てる」

「だから次は――

 自分たちで立つ番だ」

沈黙の中、エルフの代表が立ち上がった。

「……ですが」

静かに首を振る。

「我らエルフは、管理者の器ではありません」

「見て見ぬふりをし、責任を投げ、

 森を壊しかけた」

「今さら、頂点に立つ資格はない」

隣で、ダークエルフの代表も苦笑する。

「俺たちは血の気が多すぎる」

「力は使えるが、

 治めるには向いてない」

「また、壊すだけだろうな」

最後に、元ハイエルフの代表が、深く頭を下げた。

「今回の失態は、我らの責です」

「自らを“選ばれし”と称し、

 責任から逃げた」

「……管理者など、到底」

場が、重く静まる。

「じゃあ」

統括が言う。

「誰がやる?」

誰も、答えない。

その時だった。

「……ぼくがやる」

小さな声。

全員の視線が、一斉に集まる。

ケルちゃんだった。

「え?」

エレブスが、思わず声を漏らす。

「ぼくが、管理する」

「エルフ、いいやつ」

「筋トレも、ちゃんと頑張る」

尻尾を、少しだけ振りながら。

「だから、ぼくがやる」

「……ダメだ!」

エレブスが、立ち上がった。

「ケルちゃんは、僕たちの家族だ!」

声が震える。

「管理なんて……

 責任なんて……

 そんな重いもの、背負わせられない!」

「一緒に、天界に帰ろう!」

「ここは、神じゃなくても――」

「エレブス」

ケルちゃんが、静かに呼ぶ。

三つの首が、同時に彼を見る。

「エレブス、大好き」

エレブスの目から、涙がこぼれた。

「……でも」

ケルちゃんは、少し考えてから続ける。

「ぼくたち、神様の門番だから」

「神様と一緒に、いるよ」

「エレブスも、神様でしょ?」

「だから……大丈夫」

その言葉に、

誰も、何も言えなかった。

エレブスは、膝をつき、

ケルちゃんの額に自分の額を当てた。

「……分かったよ」

震える声。

「でも……辛かったら」

「必ず、帰ってくるんだ」

「いつでも、だ」

「うん」

ケルちゃんは、はっきり頷いた。

そして――

出発の日。

天界へ戻る神々を、

エルフ三種族とケルちゃんが見送っていた。

その直前。

統括が、ふと思い出したように足を止める。

「……そうだ」

ケルちゃんを見る。

「これは、ケルちゃんにプレゼントだ」

「ぷれぜんと?」

統括は小さく笑い、

正義君のタブレットを取り出した。

「管理者就任祝い、ってやつだ」

タブレットを、軽くタップする。

その瞬間――

大地が、息を吹き返した。

枯れていた森に、緑が溢れ出す。

土が潤い、

枝が元の形へと戻り、

風が、生命の匂いを運んでくる。

そして、森の中央。

光が収束し――

世界樹が、再び聳え立った。

天を突く幹。

深く根を張るその姿は、

かつてよりも、静かで、穏やかだった。

「……わぁ」

ケルちゃんが、目を輝かせる。

エルフたちは、

言葉を失い、膝をついた。

「再生は、ここまでだ」

統括は言う。

「これ以上は、管理者の仕事」

「育てるのは――

 ケルちゃんと、こいつらだ」

ケルちゃんは、世界樹を見上げ、

ぎゅっと拳を握った。

「……守る」

統括は、満足そうに頷く。

「それでいい」

神々は、天へと戻っていく。

残されたのは、

新しい森と、

管理者になった神獣と、

彼を見送るエルフたち。

これは、別れの話だ。

そして同時に――

新しい始まりの話でもあった。



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