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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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久しぶり、リフィ

(ボクが知らない方が都合がいい場合……?)


遊牧民たちが隠れていた遺跡を出て、別の遺跡へ向かう道中。

マエリスはずっと考え事をしていた。


(知ってて良かったことはたくさんあるけど、困ったことなんてある……? 去年の学会で魔道具を遺物って言ったみたいに、嘘を吐くのではダメってこと?)


「マエリス。モンスターハウスだ、引き返すよ」

「え、あ、はい」


立ち止まったミシェルにぶつかりそうになるのを、急ブレーキで慌てて止まる。


「考え事はいいけれど、中層の危険性を忘れていないかい?」

「すみません!」


ミシェルの指摘に、マエリスは思考を止める。

気にはなる。気にはなるが……


(敵を騙すには味方から、で納得しよう)


深呼吸でもって、マエリスは気を引き締め直した。




(話題を変えよう)


帰りの馬車の中、マエリスは誤魔化すために興味の矛先を変えた。

手には羊皮紙。そこには遺跡ゴーレムから模写した魔法陣らしき模様がいくつも描かれていた。


(たとえ欠けてても、いくつも集めたら完成が見えると思っていたけど……)


マエリスは色々な角度で魔法陣を眺めてみるが、ピンとくる向きがない。


(というか、これただの通路に見えるんだよなぁ……)


三叉路。血管の分岐。とにかく魔力の流れを分けるためのパーツに見えるのだ。


(ボクの魔法陣みたいな、導線スタイルじゃないってこと、かな? 魔力の道が物理的じゃないってこと……?)


マエリスは物理的に作った傷や、縫い込んだ糸で回路を作っている。『魔力の流れを分ける魔法陣』など、根本の概念から違う。


(剥ぎ取られた装甲に答えがないかな……でももう残ってないかな……)


そうこう考えていると、あっという間に馬車は屋敷へ到着する。


すると、ミシェルの補佐をしている執事がマエリスたちを待ち構えていた。


「旦那様」

「急用か」

「リディス公爵家から『例の件』で大至急と。応接室に」

「分かった──マエリス」

「はい」


馬車を下りるマエリスの手伝いをしながら、ミシェルは言う。


「見ての通り、どうやら急用のようでね。私は明朝には東部へ出発する。明日からはリフィを連れて行きなさい」

「分かりました」


忙しそうに早足となったミシェルを見て、大変そうだなと、マエリスは他人事のように思った。




翌朝。馬車の御者席にて。


「久方ぶりの出番でございます」

「誰に対して言ってるの?」


何か明後日の方向へ妙なことを喋るリフィに、マエリスは半眼になってツッコむ。


「失礼しました。未だにマノンお嬢様に無視されて傷心中のマエリスお嬢様」

「ねえ、何で今刺したの?」

「お嬢様の危機管理がなっていないとロルカから再教育を受け、その就労明けですので」

「ロルカさんを刑務所みたく言うの止めなよ。あと理由になってないよ」

「最近マエリスお嬢様をイジれなくて退屈でした」

「正直にぶちまけたねこの駄メイド」


手綱を握るリフィの隣で、マエリスは溜息を吐く。


「……マノンは屋敷でどんな感じ?」

「剣の鍛錬に励んでおられますよ。マエリスお嬢様の名前を出したら不機嫌になります」

「うぅ……」

「『お姉ちゃんなんて知らない!』だそうです」

「何で二度刺したの? ねえ?」

「使用人の間でも意見が分かれていますよ。マエリスお嬢様は『やり過ぎ派』と『仕方ない派』とで。私は『やり過ぎ派』です」

「裏切ったなリフィ……」


胸を押さえてリフィを睨むマエリス。


「思ったよりも平気そうですね、お嬢様」

「どこが? 今にも泣き出しそうなこの目が見えない?」

「いえ、てっきりマノンお嬢様への不安や謝罪などを撒き散らしているものかと思っておりまして」

「まあ、うん、心の中ではそうだけど」


マエリスは空を見上げる。青が霞んだ水色の空。その動く雲を見ながらマエリスは言う。


「誰が何を言おうと、ボクはあれが必要なことだったと断言できるし……それに、泣き言ばかりは恰好悪いでしょ? お姉ちゃんは妹の見本にならないとね」

「──」


たとえ妹に嫌われても。

信念を変えないマエリスの姿勢に、リフィは無表情の中に微かな笑みを浮かべる。


「つまりマノンお嬢様も徹夜で臨死体験を繰り返すべき、と」

「そんなこと言ってないじゃん!?」


マエリスはリフィの脇腹を抓る。

馬車の進行が僅かに乱れた。




「──中層は、もう目ぼしい遺跡はないかな」

「恐らくは」


マエリスが魔法陣の羊皮紙を畳み、リフィがナイフを仕舞う。


「ところでお嬢様」

「なに?」

「魔力、増えましたか?」

「え、そりゃ成長期だし、増えるんじゃないの?」

「その幅が大きいように感じましたが……」

「そう言われても……魔力量を計測する道具はまだ開発できてないし……」


まあ実際マエリスも、『炎銀の傀儡塊(メタフラマタ)』を何度も起動しても魔力で息切れしなくなったと感じていた。


単純にそれは立体魔法陣にしたことで魔力効率が上がったからだと思っていたが……よくよく考えれば首に揺れる石には余計な機能を入れている故に効率は羊皮紙の時と変わりなかった。


「まあ増えて困ることはないから、いいか」

「このままだと私たちにも匹敵しそうですね……」

「何か言った?」

「いえ、深層の歩き方を確認していただけです」


深層の歩き方、と言われてマエリスはリフィの顔を見る。


「何か、さらに注意が必要?」

「『木漏れ日を歩くこと』、『臭いに気をつけること』は既に旦那様から聞いていると思いますが、深層からはさらに『回避は必ず横移動』を心がけてください。

 上や後ろへは出来るだけ移動しないでください。『埋竹藪』という特殊な魔物がいまして、普段は隠れているのですが、冒険者が魔物に囲まれていると現れます。『魔の森』深層の死因の四割はこの魔物です」

「え、それ横薙ぎの攻撃はどうするの?」

「防御するか、前に詰めて先に倒します」

「えぇ……」


厳しいかもしれない、とマエリスは頬を引き攣らせた。




「ひぃ……ひぃ……」

「見事な逃げっぷりでしたね」

「深層ヤバすぎない?」


リフィに言われたことを守っていても荷が重すぎた深層の魔物から逃げ出したのが数分前。

近くの遺跡へ向かって全速力で逃げ、安全を確認し、マエリスは緊張から解放されていた。


「冒険者の間で言われることですが、表層、浅層、中層、深層、心層を一言で表すと、それぞれ『楽園』、『ハードな賭場』、『ヤバい職場』、『ガチでヤバい戦場』、『英雄の条件』です」

「それ、もっと早く教えてほしかったなぁ……」


全てにツッコミどころがあるが、深層が『戦場』。

魔物は強くなり、必ず群れで行動する魔物たち。簡単に囲まれるため、本当に命が危ない。


「早く調査を済ませよう。ボクに深層はまだ早い」

「英断でございます」


リフィも全面同意と言いたげに頷いた。


「で、この遺跡だけど……なんかすごい入り組んでそうだね」

「私も初めて見る遺跡のタイプです」


マエリスの視線には左右への分岐だけでなく、上下の分岐もある構造に向いていた。


「え、これ何の遺跡なの?」

「どちらかと言うと、魔物の巣のようですね」

「先史文明なら、工場みたいな感じ……?」

「どうされますか?」

「んー……あえて手が入ってなさそうな上から行ってみる?」

「畏まりました」


リフィの手も借りて、マエリスたちは上の道から探索していくことにした。


「ゴーレムの残骸だらけだね」

「魔法陣の調査をしますか?」

「隅々調べて収穫がなかったらね」


やがて、大きな部屋に出る。

そこには、大きな金属塊が鎮座していた。


「ッ!? お嬢様!」


リフィの警戒が滲む声。同時に部屋に振動が走る。


「嘘、あれ生きてるの!?」

「来ます!」

『──ッ!』


金属塊に四本の短い足が生える。表面にラインの光が周期的に走る。

そしてゆっくりと、遺跡ゴーレムは動き出した。

お読みいただききありがとうございます。


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