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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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遊牧の獣人

(巫女……?)


前世日本人のマエリスには聞き馴染みのある言葉だが、現世になってからは一度も聞いたことのない言葉。


マエリスはそれに首を傾げたが、ミシェルには心当たりがあるようだ。


「君は、いや君たちはルピとロルカの部族か。私はミシェル・マギカ、彼女たちの雇い主だ」


ミシェルのその言葉に、マエリスは得心がいく。スタンピードの時に一度だけ見た、ルピとロルカの民族衣装。それに近い雰囲気の服を、目の前の豚獣人は着ている。


「おお貴殿が賢者殿か! 皆、警戒は必要ない。彼らは巫女の関係者だ」


豚獣人のその言葉に、周囲から唸り声が消え、代わりに無数の明かりが灯される。


落とし穴がいくつも掘られている小部屋だ。穴の底には槍が数本立てられており、迂闊に行動していれば命が危なかっただろう。

だがマエリスの目はその向こうを見ていた。


豚獣人、山羊獣人──様々な獣人で構成された集団が、壁に沿って並んでいた。その手には斧や鎌や鞭などが握られており、侵入者を包囲して警戒していたのだろう。


また居るのは獣人だけではない。何十匹も魔物がいるのだが、飼い慣らされているのか、暴れる様子はない。


ミシェルはマエリスを下ろし、マエリスは車椅子を出した。


「ならば車椅子の姫君が、マエリス嬢かな?」

「大仰に呼ばないでください。マエリス・マギカと申します。ルピとロルカさんにはいつもお世話になっております」

「そちらこそ我々に対して丁寧な言葉は不要だ。君たちは巫女様のご友人なのだから」

「巫女様……」


マエリスの頭に、巫女服を纏ったルピとロルカが浮かび上がる。

脳内のロルカは美しく舞を披露するが、ルピは盛大に転んだ。


「ルピとロルカさんが『巫女』って認識で合ってますか? ちょっと、ルピが巫女をやってるイメージが出来なくて」

「ははは! 確かにルピ様は慌てん坊だが、歌は上手いのだ。我らにとっては大事な巫女様よ」


大笑いをする豚獣人。するとカラカラと音がして、ふとそちらを見ると、腰にハンマーやノミなどの道具が提げられていることに目が止まった。


「あの、その腰にあるのは……ここの落とし穴の整備用ですか? 蓋の蝶番の構造、体重がかかると折れるようにしてあるんですね」

「ほう! この工夫が分かるか! 弟たちよりも目がいいな!」


マエリスの指摘に、彼は豚の鼻を嬉しそうに鳴らした。

どうやら技術屋同士、通じるものがあったらしい。場の空気が少し和らいだところで、彼は何かを思い出したような顔をする。


「名乗りが遅れたな」


豚獣人は持っていた大斧を床に置き、手を合わせて頭を下げる。


「我はブリック・ピリッグス。ピリッグスは我ら『大工』の氏族の名で、貴族ではない。現在は『王』の代理をしている」

「『王』?」

「巫女様のご友人だ、我らのことを語るのは吝かではない。興味はあるか?」

「折角だから聞いてみたらどうだい?」


ミシェルがマエリスにそう言う。ここで断るのも申し訳ないため、マエリスは聞くことにした。




遊牧民たちの起源は、過去の迫害運動から逃れてきた獣人たちの集まりだと言う。

そう語るブリックはこの大陸の生まれだが、先祖はペーラ・ウルト大陸の隣の島、ナザーリムが起源だ。


世代を経ることで人間たちへの憎悪は薄れ、今では多少ながら交流もある彼らだが、人間たちから隠れて生活するために始まった『魔の森』での遊牧生活を伝統的に続けている。


遊牧民は複数の氏族で構成されている。ブリックを始めとする『大工』(ピリッグス)の氏族や、『記録』(スジャーゲン)の氏族などだ。


「──そしてルピ様たち『巫女』(ティージエ)の氏族に、今は亡きベイル様の『王』(ローグ)の氏族」

「『王』、ですか」

「ああ。『王』(ローグ)は我らの守護者であり、リーダーだった。特に、ベイル様は悪戯好きの困ったお方だったが、誰よりも勇敢で強い『王』だった」


『巫女』(ティージエ)『王』(ローグ)は特別で、『王』(ローグ)は遊牧民の始まりからずっとリーダーを担い、『巫女』(ティージエ)は不思議な力で遊牧民を守り続けた。


「数年前のことだ。子どもたちの行方不明が相次いでいた中、我らは何者かからの襲撃を受けた。獣人の目にも止まらぬ惨劇。我は逃げ惑うしか出来なかった」


悔しげに、ブリックは拳を握る。


『巫女』(ティージエ)の氏族の皆様とベイル様が、我らが逃げる時間を稼いでくださり、全滅は避けられた。

 ルピ様とロルカ様は帰ってこられたが、当時の『巫女』(ティージエ)であったルピ様の母君とベイル様は、ついに帰ってこなかった」


以来、彼らはこのように遺跡を転々として隠れ住んでいるらしい。


「だがな……最近感じるのだ。焦炎と血錆の臭いが、我らを狩り立てた『狩人』の臭いが」


ブリックの視線がマエリスの目をまっすぐ射抜く。


「君からもだ。『巫女様』の臭い程ではないが、ほんの微かに『狩人』の臭いがする。故に初めに警戒したのだ」

「ボクから……?」


それはつまり、マエリスは『狩人』と会ったことがあるということだろうか。だが全く心当たりがないマエリスは首を傾げる。


「この街で? それとも帝都で拾った? ラホープ領にも行ったし……」

「焦炎と血錆の臭いなら、君の実験の怪我かもしれないが」

「えぇ……? お父様は心当たりありませんか?」

「あるよ。というかおおよその検討はもう付いている」

「え!?」


その予想外な言葉に、マエリスはミシェルの顔を見上げた。

しかしミシェルは首を横に振る。


「すまないが、君に教えるつもりはない。『君が知らない』方が都合がいいんだ。自力で気づく分には構わないがね」


そして、とミシェルはブリックたちを見る。


「君たちも、正体の情報は必要ない。そうだね?」

「ああ。我らのすることに変わりはない」

「なら私は話さない。納得したまえ、マエリス」

「ぐぬぬ……」


そう言い切られてしまえば、マエリスにはどうすることもできない。

渋々頷く他なかった。

お読みいただききありがとうございます。


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