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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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『魔の森』の変化

時々襲ってくる兎や狼、蛇などを焼き尽くしながら森の中を進んでいくミシェルとマエリス。


森の中で火はいいのかと最初は思ったマエリスだったが、『魔の森』だからだろうか、火球程度の火では木に燃え広がることすらなかった。故に今では死骸を残さないためにマエリスも火属性の魔法陣で応戦している。


「ふむ……」


唐突にミシェルが足を止めた。マエリスが尋ねる。


「何かありましたか?」

「ああ……うん、勘違いではないね。ここで表層が終わって浅層になる」

「そうなんですね」

「だが、道が短過ぎるね。本来表層と浅層の境はもっと奥だし、ギルドも境目が分かるように印を付けている」


そう言われてマエリスは辺りを見回すが、道中と変わらない森だ。印は皆目分からない。


「層が変わると、出てくる魔物も変わりますか?」

「当然だ。今までは小型獣系統しか出現していないだろう? 

 奥に進めば力の強い大型獣系統も出るし、生命力の強い上に数が多い虫系統、動き出すまで気配の掴みにくい植物系統も現れる。それに同種の魔物でも奥の方が強い」

「なるほど」


境界の視認性で、危険度が大きく変わる。

これもスタンピードの影響なのだろうか。


「いかんせん、スタンピード中の『悪夢の迷宮(ダンジョン)』への探索は前例がない。今は変化を拾っていこう。

 さっきの分岐まで戻ろう。今度は西へ進む」

「了解です」


ミシェルの指示に従って、マエリスは来た道を引き返した。




「これは……」


道なりに進んでいると、大きな岩が積み重なったようなオブジェを発見した。

ミシェルの足が止まり、オブジェを繁々と観察する。そして手で触れると、納得したように頷いた。


「崩落しているが……間違いない、子飼いの『悪夢の迷宮(ダンジョン)』の入り口だね」

「これが、ですか?」

「元々、ここに洞窟の入り口があったのだろう。今は見ての通りだが」


マエリスはオブジェの間を覗いてみるが、隙間なく土砂で埋まっており、とても入り口は見えない。

そうこうしていると、まるで岩が空気中に溶けていくように分解され始めた。


「閉鎖型の『悪夢の迷宮(ダンジョン)』は崩落してしばらくすると、魔力に分解されて空気中に消えていくんだ。『悪夢の迷宮(ダンジョン)』を攻略した人ぐらいしか見ることのできない珍しい景色だよ」


一分も経たない内にオブジェは跡形もなく消え、後には草も生えていない赤茶けた地面が残された。


「誰かが『悪夢の迷宮(ダンジョン)』を攻略したってことでしょうか?」

「だと思うのだが、それらしい人は見なかったね」

「崩落に巻き込まれている可能性は?」

「ないね。閉鎖型の『悪夢の迷宮(ダンジョン)』は空間が歪んでいるから、内部が広くても実際の大きさは大したことはないと言われている。迷宮種を倒した後なら歪みも解消され、たとえ最下層にいてもすぐに地上へ脱出できる。

 現に、そこに洞窟があった痕跡はないだろう?」

「なるほど……」


夢魔……夢の一種なら、そういうこともあるのだろう。


(……何かが引っ掛かる)


マエリスは違和感を覚えたのだが、それが何かすぐには分からない。ミシェルに相談しようにも言葉が出てこないため、ひとまず頭の片隅に置いておいた。




「──そろそろ日も暮れるね」


狭まった表層と言っても、元の広さが広さだ。歩き回っているとあっという間に時間は過ぎてしまう。


「ギルドに寄ってから帰ろうか。今日の報告をブレイクにしないとね」

「そうですね」


森を抜け、再度大通りを歩く二人。

その間、マエリスはずっと違和感の正体を探っていた。


(共食いはあっても、死骸が消えない。魔力が飽和しているわけではない。狭まってる表層。崩落してた『悪夢の迷宮(ダンジョン)』……)


「調査中も時折上の空だったが、何か気になる事があったかな?」

「え? あー、その……」


その様子をミシェルに聞かれ、マエリスは言葉を探しながら喋る。


「何か、変だなーって気持ちは、あるんですけど……何が変だって言うのは、ちょっと分からなくて……でも無視できない何かがありそうで……」

「初探索の君の視点は私たちとは違う角度だから、何か見えたのかもしれないね。ブレイクも交えて話してみようか」

「ただの勘違いかもしれませんが」

「なに、今は少しでも情報が欲しい。そのために君を連れてきたんだ」

「……お父様がそこまで言うのなら」


少しでも考えを整理しようと、マエリスは道中頭を捻っていた。




ギルドに着くと、受付嬢がギルドマスターを呼んでくれた。何やら妙にキラキラした目でマエリスを見る受付嬢だったが、マエリスには面識がないため首を傾げた。


何故か一回握手までしてから、マエリスはブレイクの部屋へと通される。


「おう、来たか。何か分かったか?」

「それを今から分析するんだ。道中の様子だけれど──」


ミシェルが簡潔に、過不足なく客観的に出来事を告げていく。

ブレイクはその間、ずっと黙って報告を聞いていた。


「──少なくとも、『悪夢の迷宮(ダンジョン)』を攻略したって冒険者は聞いてねえな」

「そうか」


ブレイクの言葉に、ミシェルは眉間の皺を深くする。


「しかし、それなら『悪夢の迷宮(ダンジョン)』は自然に崩落したことになるが……聞いたことはあるか?」

「賢者が知らないことを俺が知ってるわけないだろ。どうせ『直ちに報告』っつー規則を忘れてんだろ。明日にでものほほんとした面で来るに違いない」


ブレイクはそう言うが、マエリスの違和感は晴れなかった。


(『悪夢の迷宮(ダンジョン)』も魔物……そもそも──)


「あの、そもそも共食いなんてしてますけど、魔物って食事が必要なんですか?」


マエリスの質問に、二人の議論が止まり顔を見合わせる。


「そりゃあ要るだろ。生きてんだからよ」

「『悪夢の迷宮(ダンジョン)』がどのように内部に魔物を呼ぶかは諸説があるけれど、『悪夢の迷宮(ダンジョン)』の内外で生態が違うなんてことはないはずだ」

「でも共食い現象では、草食の兎が狼を食べてましたよね」

「破壊と殺戮が目的だと言ったはずだが」

「それなら『食べる』って行為はおかしくないですか? それが目的なら、普通に弱った獲物を攻撃すればいい」


その指摘に、二人は今更気がついたように目を見開いた。


(捕食という行為は、肉体に足りない物を補うための行為だ。

 スタンピードは飽和した魔力が魔物の形をして押し寄せる災害だ。

 去年のスタンピードは、魔物の数が少なかった──魔力?)


「──あ」

「何か分かったのかい?」


線が繋がった感覚に、思わずマエリスは声を漏らす。

それを耳聡くミシェルが拾い、意見を促した。


「……『魔の森』なんですけど、魔力が飽和しているどころか、むしろ欠乏してるんじゃないかなって」

お読みいただききありがとうございます。


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