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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第二章 Order:至宝を守る痣

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被験者M

「──それじゃあ、説明していくね」

「その前に身を清めてこい。正直スラムの浮浪児と見紛うぞ」


期限の一週間前。マエリスは改めて皆を研究室に集めていた。


もともと小柄な身体が、痩せこけてさらに小さく見える。目元は濃く隈どられ、足の傷を隠すために巻かれた包帯が痛々しく感じさせる。


「あー、ごめん。臭うよね」

「い、いや、そこまでは言っていないが」

「でもごめんね。今はまだ、集中を切りたくないんだ」


落ちくぼんだ眼窩。その中心の瞳にギラついた光を宿して、マエリスはリケを見る。リケは、否、見つめられていない他の面々もゴクリと唾をのんだ。


「魔法陣が心臓を突き破る問題。これを、魔法陣が伸縮することで解決した。

 魔法陣の中で、細工しても問題がない部分にこう、筒状の構造を作って、中で糸が動くようにした。糸の端は球にして、筒の出口は細くしてるから、抜けることはないよ」

「……それだと、消耗品にならない?」

「だから耐用年数を決めたよ。人の心拍数は一分間に六十から百回っていうのと、製錬ミスリルの強度を考えて──」


マエリスはジニーに、複雑な計算式が描かれた紙を見せる。

その末尾には「≒400」という数字に大きく丸が囲われていた。


「耐用年数は一年。一年ごとにメンテナンスとして、定期的に魔道具を使えば実質半永久的に魔法はかけ続けられる」

「……この計算式は分からないけど、そうなんだ」

「ですが、大丈夫なんですの? また失敗したら、今度こそ時間が……」

「一応、平面魔法陣で大丈夫なことは確認してる。だから後は、立体魔法陣化して実験するだけ」


時間もないから始めようと、マエリスは促し、各々がテキパキと準備を始める。

いや、少々手際が良すぎるようにも感じられる。マエリスがそのことに首を傾げた。


「あれ、前もこんな感じだったっけ……?」

「あなたが籠っている間も~、私たちで練習してたんですよ~☆ 『マエリスが頑張ってる時に何かしたい』ってリケさんが~」

「ディアナ! 余計なことは言わなくていい!」


顔を赤くしてリケが怒鳴る。思わず、マエリスの口に笑みが浮かんだ。


「そっか──すごく、助かるよ」

「……ふん、時間がないぞ、早く始めろ」


そっぽを向くリケ。

その様子を、フィエットとディアナがニヤニヤと見守っていた。




それから三日後。


マエリスは内部に立体魔法陣が刻まれた石に魔力を通し、模型に蘇生の魔法陣を投射した。

手で握ることで拍動を表現し、魔法陣が想定の位置にあることを確認する。

そして最後に模型から手を離すと、皮のボールは急速に冷やされ、各魔法陣が起動。最後に電気ショックがなされ、模型から魔法陣が消滅する。


「──成功だ」

「「「「ッ! やったあぁぁ!」」」」


マエリスの静かな宣言に、全員が熱狂した。ジニーでさえもガッツポーズをした。

皆が寝る間を惜しんで臨み、そしてついにその成果が、マエリスの手にある。


伝説級の魔法陣が、今、目の前に。


それを作り上げたのが自分たちだという誇りが、彼らの体を激しく動かしていた。


「喜ぶには、まだ早いよ」


しかし唯一、まだ冷静だったマエリスがその空気に水を差した。皆の喜びがピタリと止まる。


「まだ何かありまして?」

「うん。今のは正常に動作するかどうかの実験だった。色んなパターン、意地悪なパターンも含めて、この魔法陣は対処した。あとは、安全性の確認だよ。皇家に提出する以上、確認しないといけない」

「安全性ですか~? 理屈は分かりますけど~、誰かを瀕死にするんですか~? それは倫理的に~、聖女としてもどうかな~って思います~」

「それに秘密保持の問題もあるぞ。僕たちは研究メンバーだから例外だとしても、誰に治験を頼む気だ? それとも囚人でも確保しているのか?」

「まさか。囚人なんて用意できてないし、機密保持の観点で誰彼構わずって訳にもいかない。この場の誰かってことになるけど、自分の心臓に関わる話なんだから、誰もやりたいはずがない──」


皆の注目がマエリスに集まる。マエリスは、当たり前のことを当たり前の展開で話すように、軽く語った。


「──だから最後に、ボクの心臓で実験する」


研究室を、数秒の沈黙が支配した。


最初に動いたのはリケ。彼は小刻みに唇を震わすと、マエリスに対して怒鳴り散らした。


「ば──馬鹿なことを言うな! 何を考えている!?」

「おかしなことを言ったかな?」

「言いましたわ! ここまで作り上げたのですもの、皇后陛下も事情を話せば囚人での実験まで待ってくれるはずですわ!」

「ボクは、そう思えないね」


フィエットの言い分を、マエリスは真っ向から否定した。


「あの人は自分の基準が絶対だよ。だから残った数日で完璧に仕上げるしかない」

「ひ、否定できませんね~」

「ディアナさん!」

「……実験の必要性は分かったけど、妥当性はどうなの? 安全じゃないとき、マエリスはどうするつもり?」


フィエットがディアナへ詰め寄る横で、冷静にジニーが尋ねる。


「一応、安全策は用意してる。もしもボクが胸を押さえて倒れたら、この魔法陣をボクの体に押し当ててほしい」


そう言って、マエリスは一枚の羊皮紙をジニーに渡した。そこには極めてシンプルな魔法陣が一つ描かれている。


「触れた対象の魔力を抜き取る魔法陣だよ。それでボクの魔力を空にすれば魔法は解除されるから、それで元通り」

「じゃあ、蘇生魔法が作動して、意識が戻らなかったら?」

「その時は、ディアナに頑張ってもらうかな」

「ディアナ──そうだ! 君の体は治癒が効きにくいだろう!? なら被験者としては相応しくないんじゃないか!?」


リケが名案だと、あるいは縋るように叫ぶ。しかしマエリスは首を振った。


「むしろ、だからこそボクが実験するのに相応しいんじゃない? 治癒に耐性がある人でも効果があるって実験に。一応、蘇生の治癒は上位並みの出力はあるし、ボクも死にたくないから。勝算があるから提案してるよ」

「それも一理あるが、なら僕でもいいはずだ! 正常な人のデータも必要だろう!?」

「この研究の責任者はボクなんだから、ボクがまずは試さないとダメでしょ?」

「私、リフィを呼んで止めてもらいますわ!」


研究室の出入り口へ駆け出そうとするフィエットを、ジニーが手を掴んで止める。


「ジニーさん!? 離してくださいまし!」

「……ここで止めて、その後に不備があった方が大問題になる。なら聖女がいるここでやった方が安全」

「見損ないましたわ! あなた、魔法さえ見れればいいんですの!?」

「落ち着いてくださいフィエットさ~ん」


暴れそうなフィエットを、ディアナが宥める。


「聖女の名に懸けて~、マノン様の笑顔に懸けて~、絶対にマエリスさんを死なせないと誓います~」

「~~~ッ! わかりましたわ! ならもう勝手にしなさいな!」


涙目で、フィエットはマエリスを睨む。


「帰ってこなかったら、恨みますわよ!」

「怖い怖い──ごめんね、ありがとう」


四対の視線を受けて、マエリスは立体魔法陣を起動する。途端、マエリスの心臓を中心に魔法陣が描かれ、マエリスは何か、締め付けられるような圧迫感を胸に感じた。


だがそれも一瞬の事。圧迫感は消え、平常な胸の拍動を感じる。


「……うん。とりあえず、魔法をかける分には問題なさそうだね」


数分待ってみたが、特に体に痛みは出てこないため、魔法陣は正常に伸縮していると判断する。


「それじゃあ、いくよ」


次にマエリスが手にしたのは、風属性の魔法陣。皇后シャルボートが送ってきた魔法陣の書で作られた、明確な攻撃用の魔法陣。


それを、マエリスは己の首に向ける。




直後、マエリスの首から鮮紅の華が咲く。

痛みは、一瞬だった。




 ──んと……てるの……か──

   ──にほ……したい……で……ね──

 ──ぶん……らだ……さい!──




「──っ?」


眩しい光に、マエリスは目を覚ます。

春の始まりを告げる麗らかな陽気、小鳥の囀り、布団の温かさ。


そして己の体を拘束する、帯。


「……?」


身動きが取れないことに動揺していると、部屋の扉が開く。


「──お目覚めですか、お嬢様」

「ひっ」


無表情な、いつにも増して能面のように感情の抜け落ちたリフィがいた。

リフィはつかつかとマエリスの横にまでやって来ると、顔を覗き込む。


「私の言いたいこと、分かりますね?」

「……ごめんなさい」

「許しません」


その数時間後。

車椅子に乗ったマエリスは友人への謝罪ついでに、体を震わせながら反省を語った。

お読みいただききありがとうございます。


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