凍てつくようなデスマーチ
「ごめん、これはボクのミスだ」
マエリスが皆へ、頭を下げて謝罪する。
「みんなの仕事は完璧だった。石に刻まれた立体魔法陣は完璧に作動してる。ボクの設計通りに魔法陣も刻まれてる。だからこの失敗は、そもそもの設計が間違ってるからだ」
「頭を上げてくれマエリス。間違えていたのならもう一度直せばいいんだ」
「そうですわ。まだ時間はありますのよ」
リケとフィエットの言葉に、マエリスは頭を上げる。ジニーとディアナも静かに頷いていた。
「ありがとう──少し、時間をちょうだい。一から修正してみる」
そしてマエリス一人を残し、研究室の扉は閉まった。
(心基部と心尖部。動きが小さいだけで動かないわけじゃない。それを忘れていたボクのミスだ)
繰り返す収縮と拡張に、導線が心臓に食い込んでいた。静的な魔法陣の構造は、動的な心臓に合っていなかった。
(胸骨と横隔膜は、大丈夫そうだったね。拍動する動脈箇所も見直しが必要かな。あ、静脈も呼吸性変動するのか。そっちも確認しないと)
魔法陣自体の大きさ、魔法陣同士の距離。それらを勘案しながら、マエリスは再設計をしていく。
(魔法陣が大き過ぎたらダメ。威力が強すぎて蘇生する前に死んじゃう。
魔法陣が小さ過ぎてもダメ。威力が足りないと蘇生できない。
魔法陣同士が離れ過ぎれば連動しない。近過ぎれば、干渉しあって機能しない)
あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たない。
地獄のような板挟みの中、マエリスの思考は弱気になる。
(そもそもこのミスは、巨大でも平面魔法陣を作って試していれば判明していたんじゃないか? その作業をボクは、サボったんじゃないの?)
そして頭を過る、心に余裕があった秋の出来事。
(ミスリルの解析、マノンの誕生日プレゼント──いやダメだ。絶対にダメだ。これを言い訳にしちゃいけない)
首を振り、マエリスは草ごと、唇を噛む。成分が唾液に溶けだし、文字通りの苦汁となってマエリスの脳を突き刺す。
(遠くから来たみんなの時間を無駄にするわけにもいかない。今度こそ完璧に仕上げないと)
「──固定観念を捨てよう。心臓に合わせて、魔法陣そのものを伸縮させる」
マエリスは新しい羊皮紙を広げ、猛然とペンを走らせる。 金属の導線そのものをゴムのように伸縮させることはできない。ならば、魔法陣の『結節点』を可動式にするしかない。
心臓が収縮した時は、魔法陣も小さく畳まれる。 拡張した時は、魔法陣も展開する。 まるで傘の骨組みのように、臓器の動きに追従させる『同期型』の魔法陣。
(筒の中を、端が行き来するように──)
理論はできた。構築もできた。すぐに模型でテストを行う。
「……遅い」
しかし、現実は非情だった。 心臓の動きに合わせて、魔法陣の伸縮がうまくいかない。摩擦の問題だ。その摩擦がわずかな──しかし致命的な『ラグ』を発生させている。
コンマ数秒のズレが、死に直結する。
(ならバネのようにする? それこそ消費魔力量が大変なことに……いや、別に一人で発動しなくていいなら作れるかな……あーでも、けいねん「ごめん、これはボクのミスだ」
マエリスが皆へ、頭を下げて謝罪する。
「みんなの仕事は完璧だった。石に刻まれた立体魔法陣は完璧に作動してる。ボクの設計通りに魔法陣も刻まれてる。だからこの失敗は、そもそもの設計が間違ってるからだ」
「頭を上げてくれマエリス。間違えていたのならもう一度直せばいいんだ」
「そうですわ。まだ時間はありますのよ」
リケとフィエットの言葉に、マエリスは頭を上げる。ジニーとディアナも静かに頷いていた。
「ありがとう──少し、時間をちょうだい。一から修正してみる」
そしてマエリス一人を残し、研究室の扉は閉まった。
(心基部と心尖部。動きが小さいだけで動かないわけじゃない。それを忘れていたボクのミスだ)
繰り返す収縮と拡張に、導線が心臓に食い込んでいた。静的な魔法陣の構造は、動的な心臓に合っていなかった。
(胸骨と横隔膜は、大丈夫そうだったね。拍動する動脈箇所も見直しが必要かな。あ、静脈も呼吸性変動するのか。そっちも確認しないと)
魔法陣自体の大きさ、魔法陣同士の距離。それらを勘案しながら、マエリスは再設計をしていく。
(魔法陣が大き過ぎたらダメ。威力が強すぎて蘇生する前に死んじゃう。
魔法陣が小さ過ぎてもダメ。威力が足りないと蘇生できない。
魔法陣同士が離れ過ぎれば連動しない。近過ぎれば、干渉しあって機能しない)
あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たない。
地獄のような板挟みの中、マエリスの思考は弱気になる。
(そもそもこのミスは、巨大でも平面魔法陣を作って試していれば判明していたんじゃないか? その作業をボクは、サボったんじゃないの?)
そして頭を過る、心に余裕があった秋の出来事。
(ミスリルの解析、マノンの誕生日プレゼント──いやダメだ。絶対にダメだ。これを言い訳にしちゃいけない)
首を振り、マエリスは草ごと、唇を噛む。成分が唾液に溶けだし、文字通りの苦汁となってマエリスの脳を突き刺す。
(遠くから来たみんなの時間を無駄にするわけにもいかない。今度こそ完璧に仕上げないと)
「──固定観念を捨てよう。心臓に合わせて、魔法陣そのものを伸縮させる」
マエリスは新しい羊皮紙を広げ、猛然とペンを走らせる。 金属の導線そのものをゴムのように伸縮させることはできない。ならば、魔法陣の『結節点』を可動式にするしかない。
心臓が収縮した時は、魔法陣も小さく畳まれる。 拡張した時は、魔法陣も展開する。 まるで傘の骨組みのように、臓器の動きに追従させる『同期型』の魔法陣。
(筒の中を、端が行き来するように──)
理論はできた。構築もできた。すぐに模型でテストを行う。
「……遅い」
しかし、現実は非情だった。 心臓の動きに合わせて、魔法陣の伸縮がうまくいかない。摩擦の問題だ。その摩擦がわずかな──しかし致命的な『ラグ』を発生させている。
コンマ数秒のズレが、死に直結する。
(ならバネのようにする? それこそ消費魔力量が大変なことに……いや、別に一人で発動しなくていいなら作れるかな……あーでも、摩耗のことも考えないと……)
「処理速度が足りない……もっとコードを削らないと……」
マエリスは食事もそこそこに、不眠不休で魔法陣の圧縮に没頭した。
無駄な行を削る。処理を統合する。コンパイラ最適化を自分の脳で行うような作業。
一日、二日、三日── 目の下にどす黒い隈ができ、髪がボサボサになっても、マエリスはペンを止めない。カフェインだけで体を動かす。
その鬼気迫る背中に、リケやフィエット、ジニーやディアナが様子を見に来ても、マエリスはついぞ気が付かなかった。
マエリスの焦燥を嘲笑うように、月日は容赦なく過ぎていく。
一か月が経ち、二か月が経ち、さらに半月が経過し、世間は春を迎えようとしていた。
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