スパートの冬
「「「お誕生日、おめでとうございます!」」」
「ありがとう!」
冬の始まり。マギカ辺境伯家のアイドル、マノンはこの日、四歳の誕生日を迎えた。
昨年は家族や使用人だけのお祝い。その熱量や拍手の音量、料理の豪勢さは前回に負けていない。
加えて、今回はさらに他所からの来賓がいる。
「マノン様~♡ 素敵です~♡」
「あれが、『紅眼』なんだな。実際に見るのは初めだ」
「……あの目隠しも、魔道具なんだね」
「マエリスさんとは随分と性格が違うのですわね」
「そりゃそうだよ。姉妹だけど人間としては別人だもん」
会場の社交ホールの一角に、年齢層がぶっちぎりで若いテーブルがあった。
「みんな、誕生日プレゼントまで持ってきてくれて、ありがとね」
「出席する上でのマナーだ。むしろ君の時に菓子しか持参できなかったことが申し訳ない」
「まあ、デビュタントの直後で急な話だったからね」
「だとしても、物を用意するのが貴族ですわ。だというのにあの時のお父様は……」
「マノン様~♡ こっち向いてくださ~い♡」
「その内ペンライトでも振りそうな勢いだねディアナ……」
「……賢者には会えないし……飽きた」
残念ながら今回、シャーロットとミシェルは不参加であり、その遠因となったマエリスへ恨み言のような手紙が誕生日プレゼントと共に届いていた。
どうやら今は二人とも帝都にいるらしく、プレゼントも二人分ということで、小粒のルビーがアクセントの髪飾りが贈られていた。
ディアナからは子供用の軽い木剣、リケからは小さな手鏡、フィエットとジニーからは綺麗な貝殻を繋いでできたネックレスが贈られた。
そしてマエリスは、金糸で幾何学的な模様が描かれた黒いカーディガンを贈った。
「これは目隠しと似た感じで、太陽とかの過剰な光を受け流すようになってるんだ。これを着てれば真夏の炎天下でも、お父様の薬を使わないで外に出られるよ」
「ありがとう! おねえちゃ大好き!」
「ボクも大好きだよマノン」
抱きつき頭をグリグリと己の腹にこするマノンを、マエリスは優しく抱き返した。
「それじゃあ残り三か月、今度こそ伝説を作っていこうか」
マノンの誕生日会の翌日、研究室でマエリスは宣言した。
「準備はできてるんですか~? プレゼント作りに忙しかったみたいですけど~」
「問題ないよ。ボクの方は大掛かりなものは必要ないからね」
ディアナの疑問の答えとして、マエリスは机の上の模型を見せる。
それは枝分かれする管が何本も繋がった、拳大の皮のボールだ。その前には一枚の木の板が立てられている。
模型の横には、大きさの違うボールが他にもいくつかあった。
「これは……何ですの?」
「『シュレディンガーの蘇生術』を試すための模型だよ。本物で試すのは危ないからさ」
フィエットの質問にマエリスは答えるが、フィエットは首を傾げたままだ。
これの答えが分かったのは、リケだった。
「……もしや、これは心臓か? 医学の解剖書で見たスケッチと形が似ている」
「さすが、正解だよ」
マエリスの軽すぎる返事の意味を、リケは考える。
そして目を見開き、信じられないような口調でマエリスに問いただした。
「──まさかとは思うが、マエリス、君は心臓に魔法陣を刻む気か!?」
「そうだよ。蘇生確率を上げるには、それが一番効果的だって結論になった」
「……できるの?」
ジニーが静かに尋ねる。マエリスは模型のパーツ一つ一つを指さしながら答えた。
「ボクの車椅子と同じで、魔力で生成した金属を導線にして魔法陣を描く。ただ心臓は絶えず動く臓器だから、魔法陣が歪まないように工夫が必要だね。
心臓の心基部と心尖部に『電気ショックの魔法陣』を刻む。冠動脈を避けながら刻まないといけないから、これは事前準備が必要かな。
心臓だけじゃないよ。大動脈に『身体を冷却する魔法陣』、大静脈に『身体強化の魔法陣』、肺静脈に『バフの魔法陣』を入れる。肺動脈には『死を検知する機能』を入れる──これは相性がいいから心音感知にしたよ。
『全身を治癒する魔法陣』は横隔膜になるかなぁ。
それと、胸骨に『精神的・魂魄的ダメージに抵抗する魔法陣』を入れようかなって。壊れても大丈夫なパーツは壊れやすい場所に置かないとね」
「それを一つの魔法で行うのか……金属の導線は? 金?」
「それでもいいんだけど、万全を期すためにもっと馴染みやすいものを使う。魔法金属だよ」
そう言って、マエリスは黒い光沢を放つ銀色の金属を取り出した。
それはかつて、マエリスが裏路地で見つけた掘り出し物の欠片。
ジニーが正体を言い当てる。
「……精錬ミスリル」
「さすが。一か月前にやっと分子解析できて、鉱属性の魔法陣で生成できるようになったんだ。その分魔力消費は重いけど、総合でも無理はない範囲って計算はしてる」
「……でも、それなら一回蘇生すると魔力切れで魔法は消えるんじゃ」
「そうなんだよね。実物を入れられたら半永久的に蘇生できるんだけど、この方法なら一回の魔法で蘇生は一回だけだね。まあその都度魔法をかけてもらえばいいかなって思ってるけど」
そこまで説明して、マエリスは場を置き去りにしていることに気づき、咳払いをした。
「えっと、心臓の大きさとか傾きとか、それに冠動脈の走行は人によって違うから、オーダーメイドにしないといけないからね。
だから実験のゴールは、用意した全てのモデルで魔法陣が問題なく刻めること」
「は、話が半分も理解できませんでしたけれど、ゴールは理解しましたわ」
「うん。マエリス、細かい話はまた聞きに行ってもいいか?」
「もちろん。皆で勉強していこうね」
そして始まる立体魔法陣づくり。
三か月のブランクはあるが、一度の成功で慣れたもの。試作品は一週間で完成した。
意気揚々とマエリスは模型へ魔法を照射し──
「あれ……これじゃあ心臓を突き破っちゃうじゃん──」
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