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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
序章 Order:紅に射す光

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ひっくり返そう!魔法の常識

(全く、話の通じない人たちで困りますね。いえ、人でなしなら当然なのでしょうか)


約束の三日間。リフィは常に無表情を貫いていたが、その内心は怒りで煮えくり返っていた。

マエリスの才覚を、あの老害たちは理解しようともしない。「一番弱いお前が相手をしてやれ」だと? 舐めるな。


(マエリスお嬢様の魅力について軽く語っただけで、私の提案を却下するとは。説明も途中で切られて、魅力の二割も語れていないというのに。

暇人の分際で……ああ忌々しい)


バキッ。


掃除中の廊下で、乾いた音が響く。リフィの手の中で、樫の木の箒が無惨にもへし折れていた。


「……ひぃっ」


目撃したルピが悲鳴を上げ、脱兎のごとく逃げ出した。リフィは折れた箒を見下ろし、小さく息を吐く。


(業腹ですが、あの人の条件を飲むしかないのでしょう……ああ、可哀想なマエリスお嬢様)


質問にしか答えない。自分からは教えない。そんな意地の悪い制約の中で、幼い少女がいったい何を学べるというのか。


(ああ恨めしい。要らないことまで知ってしまったこの身が本当に恨めしい……)


昨晩も上手く寝付けず、思わず虚空を睨みつけてしまった。なぜか二段ベッドの上が震えていたが……まあどうでもいいだろう。


(すぐに音を上げて泣きついてくるでしょう。その時は私が──)


そう思っていた。そう、高を括っていたのだ。


約束の朝。 リフィは、自分の想定がいかに甘かったかを思い知ることになる。




「──条件は理解したよ。質問にしか答えないんだよね?」


マエリスは挨拶もそこそこに、机の上に積み上げた羊皮紙の山から一枚を抜き出した。起動した魔法陣の上に、蝋燭のような小さな火が灯る。


「質問。これと全く同じ魔法を詠唱して使える?」


リフィは揺れる火を見つめて、コクリと頷く。

厳密に言えば、それは質問ではなく依頼になるのだが、それくらいの曲解は許容範囲だ。


「──火よ、我が魔力を糧に、明かりを灯せ」


努めて丁寧に、基礎的な三節の詠唱を行う。

リフィの指先に、魔法陣と同じ大きさの火が現れた。だが、その明るさは魔法陣の倍以上だ。


「詠唱……それは、三節って数えるの?」

「はい。よく気付かれましたね」

「わざと間を作ってたくせに。でも三節かぁ……五節も使わないんだ?」

「この程度の初歩的な魔法には、五節も必要ありません」


マエリスは手元の羊皮紙に何かを書き込む。魔法陣のパーツは五つ。詠唱は三つ。 つまり、魔法陣には「無駄な工程」が二つも含まれていることになる。


「質問。これは同じようにできる?」

「──火よ、我が魔力を糧に、集え」


次に起動したのは、拳大の火球だ。リフィは即座に詠唱で応える。

やはり、詠唱の方が明るく、魔力の密度も高い。


「それ、わざと魔力を多く入れてるわけじゃないよね?」

「はい。魔法を使おうと思えば、普通はこのくらいの力加減になるかと存じます」

「うーん、魔力消費量の客観的なデータ……具体的には消費MP量とか数値化できればなぁ」


前世の言葉を、リフィは知らない。しかし、こうしてマエリスがリフィの知らない言葉を口にすることは多々あったため、特にリフィは気にしなかった。


「そうだ。今度は魔法陣をリフィが起動してみて」

「承知しました」


言われるままにリフィは、先ほどマエリスが起動した二つの魔法陣に触れる。

マエリスが起動した時と同じように、灯火と火球が現れた。


「リフィ、今どれくらい魔力を使ったかって、具体的にわかる?」

「そうですね……」


リフィは片手で、様々な明るさや大きさ、形や色をした炎を弄んだ。


「……出現させるだけなら、六節の詠唱と同等でしょうか」

「というか今詠唱してなかったよね。言霊の意味は?」

「消費魔力は変わりませんので、ご安心を」

「はぐらかされたなぁ……ちぇ」


その後もマエリスは次々と魔法陣を取り出し、リフィに再現させた。

火の位置を変える魔法、水を出す魔法、風を起こす魔法──その全てにおいて、魔法陣は詠唱に劣っていた。

発動は遅く、魔力消費は多く、威力は低い。普通ならここで「魔法陣はダメだ」と諦めるだろう。


だが、マエリスの目は死んでいなかった。 むしろ、実験を重ねるごとに爛々と輝きを増していく。


「……もしかして……」


何かに気付いたのか、サラサラと新しい羊皮紙にペンを走らせ、それをリフィに突き出した。極限まで簡略化された、スカスカの魔法陣だ。


それにマエリスは触れてみるが、魔法は発動しなかった。

失敗だろうか、とリフィが思っていると、マエリスはその魔法陣をリフィに突き出す。


「起動してみて」

「ですが、これは今──」

「いいから」


気迫に押され、リフィは魔法陣に触れた。瞬間、中央にポッと灯火が浮かぶ。

それも、今までのどの魔法陣よりも少ない魔力消費で。


「な──」

「そっかそっかそっか!そういうことになるんだね!」


リフィは目を見開き、マエリスが叫ぶ。


「マエリスお嬢様、これはいったい──」

「ちょっと待って! えーっと確かこの辺に──」


バタバタと羊皮紙の束を漁るマエリス。その様子をリフィは呆然と見守るしかなかった。


「これとこれと、これ!それで、ここをこうして──これ!」


そしてリフィの前に六つの魔法陣がずらりと並べられた。そのうち半分は、マエリスの起動できないコンパクトなものだ。


「あの──」

「起動! 全部!」

「は、はい」


強引なお嬢様も悪くないかも、と少し斜めな感想を抱きながらリフィは全ての魔法陣に触れる。

今度は火ではなく、水や土、風が軽やかに発動する。


「やっぱりそうだ!やっぱり魔法陣は詠唱に劣ってなんかない!」


マエリスは確信に満ちた笑みを浮かべる。その顔は、四歳児のそれではなかった。

難解なバグの原因を特定した、熟練のエンジニアの顔だ。


「マエリスお嬢様、そろそろ私にも説明が欲しいのですが」

「ああごめんごめん。えっとね、結論から言うと──」


そして、この瞬間。魔法史を覆す第一歩が静かに踏み出された。


「ボクたち、魔法陣の使い方を根本的に間違えてたみたい」

お読みいただききありがとうございます。


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