光で刻むには
パキッ
「っ! すまない!」
「大丈夫ですよ〜。リケ様は頑張ってます〜☆」
「焦点に長く置きすぎたかな……ごめん、ボクのせいかも」
そう言って、熱膨張で砕けた石を置き、新しいのを取ろうとして──マエリスは用意していた分を使い切ったことに気づいた。
「少し休憩にしよっか」
「ああ、すまない」
「部屋を涼しくしますね〜☆」
「冷たい水の用意もあります」
リケは床にへたり込み、ディアナが風を循環させ暑い空気を入れ替える。リフィが皆に、水の入ったコップを渡す。
マエリスはコップを受け取りながら『炎銀の傀儡塊』を解除して、車椅子の上で伸びをした。リケから借りている虫眼鏡を机に置く。
「もう日が沈んでいきますね〜」
「キリもいいし、今日はここまでかな」
「いつも、こんなことをしているのか?」
コップの水を一息で呷ったリケがマエリスに尋ねる。
「そうだね」
「何故だ? 失敗することは分かっていただろう?」
ディアナが環境を整え、リケが光を調整し、マエリスが石を動かして内部に魔法陣を刻む。
この作業を始める前、マエリスから工程を聞いたリケは「不可能だ」と訴えたが、マエリスの頑固さとディアナの諦めたような表情に流された。
改めてその理由を聞くと、マエリスは即答する。
「でも『どう失敗するか』は分からないでしょ。想定していた以外の場所でミスが起きるかもしれない。だから一度は必ず実験しないと」
現に、とマエリスはヒビの入った石を摘まんで言う。
「この壊れ方は予想できなかったでしょ」
「それは、そうだな」
唇を嚙んで俯くリケ。ディアナがその横に寄り添う。
「元気出しましょう~☆ マエリスさんは別格ですから~。リケ様が落ち込むことはないですよ~」
「それでも、悔しいんだ。素材だって、自分の領のことなのに、自分以上に詳しいから」
「そりゃまあ、来る前に調べたからね」
『偽晶砂』。『粉々砂漠』の砂を製錬分離する際に呪いが抜けた砂の事だ。見た目はキレイなのだが加工が難しく、扱いにくいためラホープ公爵領では嫌われた『廃棄物』だ。
魔力が通りにくいため、錬金術で大きくするのもそれなりの腕前が必要であり、実験に用いた石はリケが作ったものだった。
「こういうのはむしろ、外部の人間だから気づけることだと思うよ」
「そうだろうか……」
「何、たった一日だけで自信失くしちゃった?」
そうマエリスが挑発気味に言うと、リケはバツの悪そうな顔をする。
「こうも思い通りに進まないのは、初めてだ」
「じゃあこれが初めての失敗ってことだね。いい財産だよ」
マエリスは割れた石を色々な角度で見ながら、自分の考えを述べた。
「財産?」
「『失敗と成功は表裏一体。失敗があるから成功がある。ならば失敗と成功は全く同じ歩み』だ──ボクの恩人の言葉だよ」
帝都でも聞くとは思わなかったな、とマエリスは笑う。
「そもそも成功って、思い通りに行ったっていう結果でしかないよ。ボクらの失敗を成功と喜ぶ人だっている──『偽晶砂』が廃棄物だったみたいにね」
「価値は人それぞれということか?」
「価値と認めるのは自分次第ってことでもあるよ」
そこでマエリスは大きく欠伸をする。
「ふわぁ……目が疲れてるね。今日は早く寝よう」
おやすみー、と言ってマエリスは実験室を去っていった。
「……深いな」
「そこまで深くは考えてないと思いますよ~」
何かを悟ったリケに、ディアナがツッコんだ。
翌日。
「『偽晶砂』の硬さがあっても割れるから、方法が悪いんだね」
「素材ではないのか?」
再び研究室へと集まった三人は、昨夜出来なかった反省会を行う。
「そりゃ、もっといい素材はあるかもしれないけど、それを探す時間が勿体ないよね。だったら方法を探そう」
「石を冷やしながら光を当てる~、とかですか~?」
ディアナが指を頬に当てて提案する。マエリスは頷いた。
「基本はその方針なんだけどね、ちょっと問題がある」
「問題?」
「魔法陣に魔力をあまり晒したくない。後半になると暴発するリスクが出てくるから」
「難儀だな。井戸水でも汲んで浸すか?」
「そうだね……それで済めばいいんだけど」
実験後。
「すっかり温かくなっちゃいましたね~。心地よい温もりです~」
「でもこれじゃあ耐えられないね」
水の温度に落胆するマエリス。そこにリケがもう一つ問題点を挙げる。
「光の制御も困難だ。水で光が屈折して、うまく当てられない」
「あー、そういう問題もあるのか……気合で何とかならない?」
「無茶言うな。集中が保たないぞ」
リケが額の汗を拭いながら反論する。
「石は、上手くいってるんだけどね。あと一歩かな」
マエリスの手には、魔法陣のほんの一部が内部に刻まれた石がある。そこには昨日のようなヒビ割れはなかった。
「透明で温度変化が小さい天然素材……何かないかな……」
「水で駄目なら氷はどうですか~?」
「氷はね、内部の屈折率がバラバラだから余計に光の制御が難しくなるよ」
「なら、魔物素材はどうだ?」
リケが提案する。
「『吹雪の海』の魔物には、そういう素材があると聞いたことがあるぞ」
「本当? 海の魔物かぁ……海ならフィエットが詳しいかな」
そういえば、そろそろ手紙が来る頃かと、文通の約束を守っていたマエリスは思う。
数日後に届いた手紙で、マエリスは聞いてみた。
「お久しぶりですわ、マエリスさん!」
「何でここに居るの、フィエット」
「……僕もいる」
「ジニーまで……」
返事ではなく本人が来た。
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