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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第二章 Order:至宝を守る痣

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光で刻むには

パキッ


「っ! すまない!」

「大丈夫ですよ〜。リケ様は頑張ってます〜☆」

「焦点に長く置きすぎたかな……ごめん、ボクのせいかも」


そう言って、熱膨張で砕けた石を置き、新しいのを取ろうとして──マエリスは用意していた分を使い切ったことに気づいた。


「少し休憩にしよっか」

「ああ、すまない」

「部屋を涼しくしますね〜☆」

「冷たい水の用意もあります」


リケは床にへたり込み、ディアナが風を循環させ暑い空気を入れ替える。リフィが皆に、水の入ったコップを渡す。


マエリスはコップを受け取りながら『炎銀の傀儡塊(メタフラマタ)』を解除して、車椅子の上で伸びをした。リケから借りている虫眼鏡を机に置く。


「もう日が沈んでいきますね〜」

「キリもいいし、今日はここまでかな」

「いつも、こんなことをしているのか?」


コップの水を一息で呷ったリケがマエリスに尋ねる。


「そうだね」

「何故だ? 失敗することは分かっていただろう?」


ディアナが環境を整え、リケが光を調整し、マエリスが石を動かして内部に魔法陣を刻む。


この作業を始める前、マエリスから工程を聞いたリケは「不可能だ」と訴えたが、マエリスの頑固さとディアナの諦めたような表情に流された。


改めてその理由を聞くと、マエリスは即答する。


「でも『どう失敗するか』は分からないでしょ。想定していた以外の場所でミスが起きるかもしれない。だから一度は必ず実験しないと」


現に、とマエリスはヒビの入った石を摘まんで言う。


「この壊れ方は予想できなかったでしょ」

「それは、そうだな」


唇を嚙んで俯くリケ。ディアナがその横に寄り添う。


「元気出しましょう~☆ マエリスさんは別格ですから~。リケ様が落ち込むことはないですよ~」

「それでも、悔しいんだ。素材だって、自分の領のことなのに、自分以上に詳しいから」

「そりゃまあ、来る前に調べたからね」


『偽晶砂』。『粉々砂漠』の砂を製錬分離する際に呪いが抜けた砂の事だ。見た目はキレイなのだが加工が難しく、扱いにくいためラホープ公爵領では嫌われた『廃棄物』だ。


魔力が通りにくいため、錬金術で大きくするのもそれなりの腕前が必要であり、実験に用いた石はリケが作ったものだった。


「こういうのはむしろ、外部の人間だから気づけることだと思うよ」

「そうだろうか……」

「何、たった一日だけで自信失くしちゃった?」


そうマエリスが挑発気味に言うと、リケはバツの悪そうな顔をする。


「こうも思い通りに進まないのは、初めてだ」

「じゃあこれが初めての失敗ってことだね。いい財産だよ」


マエリスは割れた石を色々な角度で見ながら、自分の考えを述べた。


「財産?」

「『失敗と成功は表裏一体。失敗があるから成功がある。ならば失敗と成功は全く同じ歩み』だ──ボクの恩人の言葉だよ」


帝都でも聞くとは思わなかったな、とマエリスは笑う。


「そもそも成功って、思い通りに行ったっていう結果でしかないよ。ボクらの失敗を成功と喜ぶ人だっている──『偽晶砂』が廃棄物だったみたいにね」

「価値は人それぞれということか?」

「価値と認めるのは自分次第ってことでもあるよ」


そこでマエリスは大きく欠伸をする。


「ふわぁ……目が疲れてるね。今日は早く寝よう」


おやすみー、と言ってマエリスは実験室を去っていった。


「……深いな」

「そこまで深くは考えてないと思いますよ~」


何かを悟ったリケに、ディアナがツッコんだ。




翌日。


「『偽晶砂』の硬さがあっても割れるから、方法が悪いんだね」

「素材ではないのか?」


再び研究室へと集まった三人は、昨夜出来なかった反省会を行う。


「そりゃ、もっといい素材はあるかもしれないけど、それを探す時間が勿体ないよね。だったら方法を探そう」

「石を冷やしながら光を当てる~、とかですか~?」


ディアナが指を頬に当てて提案する。マエリスは頷いた。


「基本はその方針なんだけどね、ちょっと問題がある」

「問題?」

「魔法陣に魔力をあまり晒したくない。後半になると暴発するリスクが出てくるから」

「難儀だな。井戸水でも汲んで浸すか?」

「そうだね……それで済めばいいんだけど」




実験後。


「すっかり温かくなっちゃいましたね~。心地よい温もりです~」

「でもこれじゃあ耐えられないね」


水の温度に落胆するマエリス。そこにリケがもう一つ問題点を挙げる。


「光の制御も困難だ。水で光が屈折して、うまく当てられない」

「あー、そういう問題もあるのか……気合で何とかならない?」

「無茶言うな。集中が保たないぞ」


リケが額の汗を拭いながら反論する。


「石は、上手くいってるんだけどね。あと一歩かな」


マエリスの手には、魔法陣のほんの一部が内部に刻まれた石がある。そこには昨日のようなヒビ割れはなかった。


「透明で温度変化が小さい天然素材……何かないかな……」

「水で駄目なら氷はどうですか~?」

「氷はね、内部の屈折率がバラバラだから余計に光の制御が難しくなるよ」

「なら、魔物素材はどうだ?」


リケが提案する。


「『吹雪の海』の魔物には、そういう素材があると聞いたことがあるぞ」

「本当? 海の魔物かぁ……海ならフィエットが詳しいかな」


そういえば、そろそろ手紙が来る頃かと、文通の約束を守っていたマエリスは思う。


数日後に届いた手紙で、マエリスは聞いてみた。




「お久しぶりですわ、マエリスさん!」

「何でここに居るの、フィエット」

「……僕もいる」

「ジニーまで……」


返事ではなく本人が来た。

お読みいただききありがとうございます。


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