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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第二章 Order:至宝を守る痣

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精神属性、改め

「おはようございま〜す♡」

「はぇ?」


朝、ルピとも違う間延びした、胃もたれするような声が聞こえて、マエリスは目を覚ました。


視界にはクッションと、マノンの頭が見える。その奥には、揺れるピンク髪が──


「──何で君がいるのさ、ディアナ? その恰好も何?」


寝起きでボーッとする頭を起こし、マエリスは半眼で聖女を睨む。

その恰好は見慣れてしまった法衣ではなく、メイド服である。


「ずっとお世話になるのも申し訳ないので〜、お仕事を手伝おうと思ったんです〜♡ なので〜、お仕事の一環でマノンちゃんたちを起こしに来ました〜♡」


図々しくそう宣うディアナに呆れながら、マエリスは部屋の隅──砂を隠した場所を見る。


(バレてはない、かな)


ホッと安堵の息を溜息に混ぜる。


「……勝手なことをしないでよ。それはルピとかリフィの仕事だから。そもそも、客人に使用人させるとか、貴族としての醜聞でしかないから止めてほしいんだけど」

「大丈夫ですよ〜♪ 教会でも家事手伝いはしてたので〜♪」

「そうじゃない。そういう心配はしてない」


頭痛が酷くなって、マエリスは頭を抱える。


「でも私〜、マノンちゃんともっと仲良くしたいんですよ〜♪ ここの使用人も面白そうだな〜って昨日思いましたし〜、それに専属のルピさんよりも仕事できそうじゃないですか〜?」

(どうしよう、擁護できない)


マエリスがルピのドジをどうフォローするか考えていると、もぞもぞと布団が動く。


「んみゅ……おねえちゃ?」

「おはようマノン」

「おはようございま〜す♡」

「おはよ、おねえちゃ……イアナ?」


裸の『紅瞳』でもディアナは識別できるのか、舌足らずでマノンは彼女の名前を呼んだ。


「イアナじゃなくてディアナですよ〜、マノンちゃ〜ん♪」

「君の名前、マノンには難しいんだよ。ルピの名前は言えるけど」

「……屈辱ですね〜★」


何か、ディアナの黒い部分が見えたところでドアがノックされる。

入ってきたリフィに呆れられながら、三人は朝食へ向かうのだった。




「さて、『生命』属性と『精神』属性か」


研究室にて、マエリスは魔法陣を並べる。その横にはマエリスモデルが描かれた羊皮紙も準備済みだ。


「分かっていることを改めて書き出そう」


マエリスはメモに思考を写していく。


『仮称:生命』=『(エネルギー)』+『土|《豊穣》』

『仮称:精神』=『()』+『風|《?》』


「まずは、この『?』を明かしたいよね」


そう呟いて、マエリスは魔力の流れる方向とルーン文字を見ていく。

これまでの上位属性と比べて、ルーン文字の偏りが少なく、しかしその数は膨大で緻密な魔法陣。


それを、一つ一つ丁寧に見ていく。


「……まあ、このやり方で分かってれば、もっと早く解明できてたか」


一時間ほどにらめっこを続けたマエリスだが、結局白旗を上げて伸びをした。


「逆に考えよう。水と風のどんな要素を組み合わせれば、上位属性を作れる?」


例えば、氷属性があるなら、同じ方向性で蒸気?

あるいは、光属性の波のように、音?

それとも、雷属性や鉱属性みたく、電気的で分子的に、分解? 溶解?


「一番しっくりくるのは、音だけど……」


音から、どう発想を飛ばせばバフやデバフに繋がる? 治癒のパーツとなる?


「……音楽……とか……?」


前世のテレビにあった、熱狂する音楽ファンの姿。映像作品を彩る音楽の力。そもそも太古より続く歌の魔力。リズム──


「詠唱も、声っていう音を使うよね……いや、それなら無詠唱って何だって話だけど」


道は間違っていない。マエリスにはそんな確信があった。


「仮に音だとしたら……『()』+『風|《空気》』ってところかな? ルーン文字を探してみよ」


改めて、マエリスは魔法陣に向かう。


「波のルーン文字──ここ、ここ、ここにもか。空気のルーン文字は──ここ、ここ──ん?」


そこでマエリスは気づく。「波」のルーン同士を結んだ線と「空気」のルーンを結んだ線、どちらも直線となり、二つの線が直交することに。


「これ絶対何かあるじゃん」


マエリスはバフの魔法陣を模写する。ただし、「波」や「空気」のルーン以外を消した魔法陣を。


「ダミー、ではないんだろうけど」


煩雑なルーンを一掃した魔法陣はスカスカながら、洗練された美を感じた。


「さて、これで起動するのかな──」


魔法陣に魔力を注入する。しかし魔力は吸われるものの、発動する気配はない。


「……治癒の魔法陣の時と同じか? 向きが違う? 発動方法が違う?」


考えてみて、答えはすぐに思いつく。

バフの魔法なのだから、魔法をかける対象が必要だ。


「バフか……誰がいいかな」


研究室から外を覗くと、偶々赤毛の獣人が見える。ルピかと思ったが、芯のある雰囲気──ロルカが庭の手入れをしているのが見えた。


「ロルカさん」

「おや、こんにちは、マエリスお嬢様。この老骨めに何かご入用でしょうか」


マエリスが声をかけると、ロルカは手を止めて視線を合わせた。

マエリスは魔法陣を見せる。


「バフの魔法陣を実験したいんだけど、相手が必要そうで。すぐ終わるからお願いしていい?」

「ふむ……マエリスお嬢様」


ロルカは何やら、十数秒ほど魔法陣を見つめ、そして頭を下げた。


「申し訳ございませんが、遠慮させてください。儂もまだ頑張りたいのです」

「バフの魔法だよ?」

「マエリス様の声を聞くと儂の体が耐えきれず、内側から弾け飛ぶ未来が見えましてのう。随分と効果の強い魔法なのですな」

「え、怖っ!? ロルカがここに居てくれて良かった!」


知らない内に殺人犯になりそうだったと知り、マエリスはドキドキする。そして魔法陣にぐしゃぐしゃとインクを撒いて、台無しにした。


「ほっほっ。次からは試す前に対抗手段を用意しておいた方が良さそうですな」

「教えてくれてありがとね──要素を少なくしたら威力が高まるのかな」


まるでスパイスの種類を減らすことで特徴を出すカレーのようだと、マエリスは混乱が続く思考で思った。


「き、気を取り直していこう」


研究室に戻り、マエリスは考える。声を聞いて、内側から弾け飛ぶ──つまり『仮称:精神』属性は音を媒介に体内に干渉しているということ。


マルセラモデルでは、『肉体』の内側には『精神』と『魔力』がある。


「つまり、音を媒介にして精神と魔力に作用しているのがこの属性と──音から取って、調律属性って呼ぼうかな」


マエリスは、頭のメモ帳に新名称を大きく書いたのだった。

「扱い注意!」という文言とともに。

お読みいただききありがとうございます。


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