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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
序章 Order:紅に射す光

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リフィの条件

「──なるほど、話は分かりました」


夕暮れの廊下。掃除道具を抱えたリフィは、マエリスの頼みを聞き終えると、いつもの無表情で頷いた。


「確かに詠唱魔法の観点から魔法陣を見てみるのはありかと存じます」

「でしょ? ルピが言うには、リフィはこの大陸でも有数の魔法の使い手らしいけど」

「おやおや。あの駄犬、余計なことを」

「え、本当にリフィってそんなに凄い人だったの?何でメイドやってるの?」

「女性は秘密でできているのですよ、マエリスお嬢様」


ルピの話だけでは半信半疑だったマエリスも、リフィに肯定されて期待し始める。


「それじゃあ、えっと──」

「はい、マエリスお嬢様──」


リフィは箒を杖のように突き、マエリスを見下ろす。


「そのお話、謹んでお断りさせていただきます」

「ねえ、今完全にオッケーな流れじゃなかった?」

「魔法指導なんて労働契約は結んでおりませんし……」

「いやまあ、そうだろうけど」

「正直今の給金でそこまでやるのは過剰かと思いますし……」

「ねえ、うちの給料ってそんなに安いの? ブラックなの?」

「いえ、そんなことは。ただ今月は少し出費が嵩んでピンチでして……」

「ルピと同じこと言ってる……」


大丈夫かな、うちのメイド達……と、マエリスは頭を抱える。


「訂正してください、マエリスお嬢様。あの愛され系ワンコと一緒にされるのは心外です」

「ボクから見たら、二人とも方向性が違うだけの駄メイドだよ! そんなにお金を何に使ってるのさ?」

「女性は秘密でできているのですよ、マエリスお嬢様」

「生活が不安になるような秘密はない方がいいんじゃないかな……」

「まあ、言ってしまえばマノンお嬢様の玩具なのですが」

「え、それ自費なの?  うちからお金出してくれないの?」


さすがに、満足に給金が支払われていないのはまずいと、マエリスは心配する。何だかんだよく働いている二人に報酬がないのは、前世の苦労もあって許せない気持ちだ。


「いえ、少しは出していただいていますが、それ以上に私が買い込んでいるだけです」

「愛されてるなーマノンは!」

「ちなみにルピはマノンお嬢様の服を買っています」

「本当に愛されてるなーマノンは!!!」

「なので、私と話がしたいのであれば、コレ、を持ってきてもらえると」


呆れるマエリスを無視し、リフィは親指と人差し指で円を作った。


「普通四歳児に賄賂を要求する!? もー!ボクに自由にできるお金がないことを知っててー!」


リフィのジェスチャーに、マエリスは地団駄を踏む。

そこでリフィの瞳から、ふっと笑いの色が消える。空気が変わった。


「冗談はこれくらいにさせていただいて」

「またボクを揶揄ったの?真剣なボクの想いを弄んで楽しい?」

「はい、愉しいです」


「楽しい」のニュアンスが違ったことに、マエリスは気づいてジト目になる。

その視線をまるっと無視して、リフィは話を続ける。


「……事情がありまして、私が誰かに魔法を教えることはできないのです。その、かなり面倒な制約がありまして……」

「制限があるってこと?その範囲内でいいから教えてもらうことはできない?」

「制限も状況によって変わりますので、何とも……」

「そんな……」

「ですが、マエリスお嬢様の推察通り、独学での魔法陣構築には限界があるでしょう」


リフィは十数秒ほど沈黙し、虚空を見つめて何かを計算するように思考を巡らせた。

やがて、覚悟を決めたようにマエリスを見る。


「三日ほど、時間をください。皆と話をつけて参ります」

「皆って、誰に?」

「女性は秘密でできているのですよ。マエリスお嬢様」


人差し指を口元に当てるリフィ。 その立ち振る舞いは、一介のメイドのそれではなかった。




三日後。


「話がまとまりました。条件付きでマエリスお嬢様に魔法を教えられます」

「本当!?」


朝、マエリスを起こしにきたリフィの言葉に、眠気は一瞬で吹き飛んだ。

マエリスはベッドの上で居住まいを正す。


「条件って?」


そしてワクワクした気持ちでその内容を問う。

リフィは、淡々と述べる。


「四つあります。これを破った場合、その瞬間に契約は破棄となります」

「うん」

「一つ。私の──いえ、私たちの正体を探らないこと」

「まあ、ありがちだね。承諾する」

「二つ。マエリスお嬢様が、私以外から魔法を教わらないこと」

「へ? 独占契約?」

「三つ。私はマエリスお嬢様の『質問』にのみ答え、私から自主的には何も教えないこと」

「……は?」

「そして四つ。一部の高度な知識については、質問されたとしても回答を拒否する権利を私が持つこと」


マエリスは絶句した。 つまり、「教科書は渡さない」「授業もしない」「分からないことがあったら聞きに来い」「でも答えるとは限らない」、ということだ。


(……なんだその、新人イジメみたいな実地研修は……!)


前世のブラックな開発現場を思い出す。

『仕様書はないからコード読んで理解してね。あ、質問は受け付けるけど、ヒントは出さないから』と言われているに等しい。だが、今のマエリスには他に選択肢がない。


「……あと、条件に関係なく、私には魔法陣の知識はありませんので、そちらの質問は受けかねます。ご了承ください」

「チェンジしていい?」

「条件に抵触するので、ダメです」


リフィは僅かに口角を上げた。


「それでは、授業を始めましょうか、お嬢様」

お読みいただききありがとうございます。


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