ルーン魔術
(切り替えよう。むしろボクよりも『生命』については、ディアナの方が詳しい)
夜、一連の出来事をベッドの上で思い出しながら、マエリスは考える。
(考え方とか、治癒魔法の使い方とか、聞いたら教えてくれるか?)
ちらりと、マエリスは横で眠るマノンを見る。
(……あの執着なら、対価にマノンを要求してくるな。
診察で、ディアナは何か掴んだような感じだった。これ以上マノンに接触させるわけには、いかない)
マエリスはマノンの額を凝視する。しかしマエリスには、何も分からない。
(なら、どうすれば技術が盗める? 治癒魔法を使わせればいい。治癒魔法を使う事態とはつまり──ボクが、怪我をすればいい)
ただし、治癒魔法は何度も受けると耐性ができる。今のマエリスの状態がそうだ。このまま回復され続ければ、上級の治癒魔法すらも効かなくなるだろう。
(闇雲にやってはいけない。少ない回数で、その神秘を暴く必要がある)
ならば、とマエリスは脳内で計画表をめくる。
(少ない回数で理解するには、相応の知識を備えておかないといけない。つまり治癒魔法の解析が必要になるけど、そのために『生命』属性と『精神』属性の解析が必要──結局、この流れか)
しかし、こうも思う。
(ディアナを飽きさせると、どういうちょっかいをかけてくるか分からない。早めに治癒魔法に手を出すべきか?)
逡巡するも数秒。マエリスは結論を出した。
(理解に近道も裏道もない。焦るな、今まで通りでいけ)
マエリスはプレゼントでもらったクッションを抱きしめる。それを背中からマノンが抱きつく。
(……コアラみたいだな)
少しほっこりした気持ちになり、思考をリセットできた。
(マノンの何かを見つけたディアナは、次は何をしてくる? 夜は、ボクがマノンと一緒に寝てるから難しいとして……やっぱり魔法的な何かかな……呪いとか?)
呪いは冗談だが、方向性はありそうだとマエリスは考える。
(魔法を検知するセンサーみたいな物が作れれば……でもデジタルなのは無理だし……アナログのセンサーって、何がある?)
魔法、魔法と、関係しそうな言葉を手当たり次第に思い出す。そこで浮かび上がるのは、帝都の本屋での出来事。
(あの時……リケは『魔力粒子論』って言ってたっけ。書斎にもその本があったね。魔力は『魔素』という粒子を扱う力であるみたいな──分子論と同じ感じだよね。
なら魔法にも、固有の振動がある?)
マエリスはそっと起き上がり、クッションをマノンに抱かせる。
(前世、電気を使わないで計測する方法……温度計、は違うか──あ、地震計があるか。
でも地面が揺れるわけじゃないし……逆に針を揺らす? 紙を巻けないならただの線が引かれるだけじゃない?)
車椅子を出現させ、マエリスは机から羊皮紙を引っ張り出す。
(振動……振動……なんか、前世になかったっけ?)
そこで、マエリスの脳裏に、一本のショート動画が過った。
音の周波数に合わせて、砂が規則的な模様を描く動画。
(クラドニ図形!)
カチリと、歯車がはまる音がした。
(魔法の魔力を、振動に変化させる──魔法陣の属性変化のパーツが使えるかな。波や振動は水属性のパーツだよね。
これを、極限まで発動魔力を減らして……いっそ、ルーン文字を一つだけ刻んでみる? 起動するかな……というか今まで試したことなかったな)
マエリスは試しに、波打つようなルーン文字を一つだけ書き、魔力を込めてみる。
しかしそれだけでは発動しない。
(えっと、水属性の魔法陣の魔力の流れは──)
マエリスはその文字の周りにいくつか図形を描く。
そして魔力を入れると、込めた量の割に、かなり強い衝撃がマエリスを襲った。
全身くまなく、内臓をかき回すような衝撃。車椅子を維持することもままならず、マエリスはその場に倒れた。
(あ、まず──)
吐き出しそうになったものを、必死に飲み込んで証拠を隠す。血の味がして、喉が痛む。
(そっか、魔法陣って、ルーン文字の方が本体なんだね……)
まだ体の中がグラグラするが、マエリスは再度車椅子を作成して羊皮紙に向かう。そして威力を下げるように図形を刻んだ。
(──うん、まあ、これくらいならいいでしょ。後は砂か……)
幸いというべきか、マギカ辺境伯領はスタンピード被害で瓦礫がたくさんある。砂も大量にあるはずだ。
(屋敷にも少しあるはずだし、少し拝借してこよう)
音もなく、マエリスは部屋を抜け出す。見回りをする使用人たちの目を掻い潜り、砂を確保、部屋へと戻る。
「……今の、マエリス様だよな」
「……こんな夜中に、倉庫に何の用だ? あそこは瓦礫しか置いてないけど」
「……一応、リフィさんに伝えておくか」
なお、使用人にはバレていたようだが、マエリスは知らない。
(あとは砂をまいて、完成。適当に魔法を使ってみよ)
そこでマエリスは一度車椅子を消し、再度出現させる。
しかし、砂はちっとも動かなかった。
(……失敗? 閾値が高すぎたかな……)
マエリスの顔が渋くなる。しかしせっかく作ったものだ、マエリスは部屋の隅に隠して置いた。
(明日の夜、確認してみよう)
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