帝都 裏路地漁り
「もしやと思って来てみれば、本当に居たからボクは運がいいね」
「な、なんやそんな、笑顔怖いなぁ」
デビュタント前に訪れた、路地裏の露天商。
そこで目的の人物を見つけたマエリスは、逃亡を試みた彼女の逃げ道をリフィで塞いで、笑顔を浮かべた。
「お、おい嬢ちゃん。借金はちゃんと返さないとヤベェぞ?」
「鉄貨一枚たりとも借りてへんわ!」
露天商の店主へアヌが吠える。
「何やねんホンマ。うち、少しでも稼がないかんから時間ないで?」
「でも今、ここにお客さんいないよね」
「時間ないんやで!」
「あ、はい」
マエリスは突っ込むのを止めた。
「そんなウチの時間をもらうんやから、儲かる話やないと」
「探される側だからって調子に乗っていますね」
「おじさん、ちょっといい?」
「ああ待って待って、謝るさかい」
アヌを切り捨てて店主に話しかけようとするマエリスを、アヌは車椅子を掴んで止める。
マエリスは苦笑してネタバラシした。
「ごめんごめん。でも実際、アヌだけじゃなくておじさんにも話がしたかったんだよね」
「お貴族様が、俺にもか?」
「用が想像つかんな。言うてみ」
「ちょっとさ、こういう帝都の知る人ぞ知る、掘り出し物を扱うお店って知らない? 案内は今日と明日の二日間で、一日あたりそれぞれ銀貨三十枚。どう?」
マエリスの提案に、店主は目を見開き、アヌは視線を鋭くする。
「案内するだけで銀貨三十枚!? それも二日間だから六十枚か!? 俺は──」
「待ちいやおっちゃん! 案内は日が落ちるまででええんか? それと貴族街はうちもわからんで」
「ボクも屋敷に帰らないといけないから、時間はそれでいいよ。貴族街は、やっぱり難しい?」
「うちがドレス姿でも歩き回れんわ、あないな窮屈な場所」
「まあ仕方ないか。それで、返事は?」
マエリスが尋ねると、アヌはニヤリと笑った。
「本当ならこっから賃上げ交渉なんやけど、今回はいい値でやったるわ。その代わり、今後もご贔屓にな」
「もちろん。何かあったらまたお願いするよ」
「よっし! おっちゃん常連さん獲得やで!」
「あ、ああ。すげぇなお前……ただ、その、俺からも聞いていいか?」
「ん? 何?」
不安げな店主に、マエリスは首を傾げる。
「求めてるのが何か分かんねえけどよ、お貴族様は普通何か物を探すんなら商業組合とかに行くんじゃねえのか? 俺らを使うってことは、目的は危ないブツなのか?」
「ああごめん、不安にさせちゃったね。そっちはお父様が話してるんだ。ボクは細かい所を探そうと思ってね。
もちろん、危ない場所もあるだろうし、無理にそこに行かせることはしないよ」
「話が早くて助かるぜ」
あからさまに安心した様子の店主は、並べた商品をまとめ始める。
数分後、準備が終わったアヌが合図した。
「ほな、行くで! うちの知ってる穴場を紹介したるわ」
最初に案内されたのは、表通りから少し外れた占い屋だった。
小さな小屋の中央に囲炉裏があり、細い竹串がいくつも灰に突き刺さっている。
そこに一人の老婆がいた。
「おや小娘。こんな真っ昼間から来るなんて珍しいね。とうとう昼飯も集りに来たのかい? あんたに分けてやる飯なんてあれ以上はないよ!」
「ちゃうわおばちゃん! お客さんやで!」
「どうも」
「おやおや、お貴族様がこんな占い小屋に何の用だい? もしやその歳で好きな人でもいるのかえ?」
「いや、恋占いじゃないです」
マエリスを見て途端に姿勢が良くなる老婆に、マエリスは苦笑する。
「えっと、薬になりそうな素材とか、魔法金属ってありますか?」
「はあ? 占い屋に求めるものじゃないねぇ。おい小娘、案内する店を間違えてるよ!」
「や、でもおばちゃん、しょっちゅう草噛んでるやないか! 気分が落ち着く言うて──」
「ばっかあんた、幼気なお貴族様にそんなもんを勧めようとするんじゃないよ! あれは──」
「その草、あるなら見せてもらえますか?」
マエリスが食いつき、老婆は嫌な顔をする。
「お願いします」
「……はぁ、妙なお貴族様だね。ちょっと待ちな」
そう言って、老婆は店の奥へ行き、少しして戻ってきた。
手には皿があり、一回り小さい皿が蓋をするように乗せられている。
「これだよ」
「……触っても?」
「棘があるからね、気を付けな」
老婆が蓋を開けると、そこには毟られているにも関わらず瑞々しい緑を保つ、トゲトゲした葉が盛られていた。
リフィが一枚取り、安全を確認してからマエリスに渡す。
(肉厚だし、表面も固い……見たことないな。香りは──普通に草の匂いか)
「それは魔草の一つでね、冬によく採れるんだ。噛むととびきり苦くて辛いが、スーッと目が覚めるんだよ」
「エナドリか何かで?」
「なんだい、それは?」
前世の相棒を思い出し、マエリスは思わずツッコむ。
求めていた材料ではないが……
「……これ、いくらか分けてもらえますか?」
「こんなのが欲しいのかい? ならそこにあるのを全部持っていきな。ちょいと遠出はするけども、私はいつでも採りにいけるからね」
「そんな、悪いですよ」
「いいんだよ──それに」
そう言って、老婆が一本の竹串を灰の中から抜き取る。そしてその焦げ具合を見て、哀れむようにマエリスを見た。
「随分と、数奇な運命をしているようだからね、この婆の知恵が役に立つならそれでいいんだよ」
「おばちゃん、うちにもそれくらい優しくしてくれへんか?」
「ばっかあんた、飯を集りに来てる小娘とお貴族様を同列に扱うわけがないだろう! 用が終わったんなら帰んな!」
葉っぱを押し付けられて、マエリスたちは追い出されてしまった。
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