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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第二章 Order:至宝を守る痣

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堰を切る心配

「まあ、あくまでモデルですので、現実とは違うことは気をつけてください」

「ありがとうリフィ」


そうしてマエリスは、ご先祖様モデルの解析に身を乗り出す。


「魔力から魂が作れるかもしれないと言っても、さすがに全員が同じわけないもんね。『水』は水でも、色水なのかな」


マエリスは自分の考えを、モデルの隙間や外に書き込んでいく。


「三つの要素どれかが壊れても死ぬ……『魔力』は失っても死なないってこと?

 それとも『魔力』の喪失は『魂魄』の喪失?」


そんな疑問も図の横に箇条書きにしていく。


「そもそも外部から物理的なダメージを受けた時、『肉体』の外にある『魂魄』はどうなるの? 

 氷と水はあくまで比喩で、やっぱりすり抜けるのかな? それとも少しは削れるけどすぐに回復する?」

「お嬢様」

「死から防ぐということは、この三つのダメージを全て防ぐということだよね──いやでも、肉体的なダメージでもあれだけ種類があるもんね。

 『精神』と『魂魄』にもあんなに種類があったら、いよいよ分からないなぁ」

「マエリスお嬢様」

「完璧を求めないにしても……いや、この考え方はダメだ。まずは毒殺を防ぐ方法だけを考えてみて、そこから一般化する方が効率がいい、か?」

「おねえちゃ!」

「ぐえっ──え?」


急に、マエリスの服が引っ張られて喉が圧迫される。

下手人は、車椅子に座るマエリスを見上げる、目隠しの幼女。その後ろにはリフィとルピが控えている。


「あ、マノン、来てたんだ。ごめんね気が付かなくて」

「でしょうね。マノンお嬢様が来てから数十分経っていましたが、マエリスお嬢様は見向きもしませんでしたから」

「え、そ、そんなに?」

「そうですよぉ。そもそもぉ、マノン様がドアからマエリス様を見てぇ、気を使って入るかどうか迷ってたんですからねぇ?」

「むぅ」

「そうなの!? ごめんねマノン! 本当にごめんね!?」


慌てて机の上を片付けるマエリス。


「おねえちゃ、忙しい?」

「そんなことないよ! マノンより大事な用事なんてないんだから!」

「大丈夫よ。マノン、我慢できる」


片付けの手がピタリと止まる。想定よりも大人びた返答に、マエリスは困惑した。

目隠しで見えないが、この辺りだと視線を合わせる。


「マノン?」

「おねえちゃ、困らせたくない」

「そんな、心配しなくていいのに。お姉ちゃんのこれは、えっと、趣味、じゃない、わざとだから」

「おねえちゃの足もわざと? 怖い顔もわざと?」

「それは……」


言葉が詰まる。少し目を離していた内に随分と成長していたマノンに、マエリスはどう言えばいいのか分からない。


その沈黙が、マノンにとってはどう聞こえたのか。


ぎゅっと、マノンが自分のスカートを握りしめる。震える手が、白くなるほどに。

我慢なんて、最初からできていなかったのだ。


「やなの! パパもママも好きだけど! おねえちゃが一番好きなの! おねえちゃ困らせたくない! マノンがおねえちゃ守りたい! やなの! やなのぉ!」


目隠しから溢れる幾筋が、頬に眩しい線を引いた。

マエリスはマノンを抱き寄せる。


「ごめんっ、ごめんねっ、ダメなお姉ちゃんでごめん──! 大丈夫、これはマノンのせいじゃないから!」

「ぐすっ、ずびっ」


ルピからハンカチを受け取り、マノンの顔を拭きながらマエリスは謝る。

目隠しが捲れ、マノンの紅い瞳と視線がぶつかる。


「大丈夫。お姉ちゃんはマノンの前から居なくならないから。

 約束するよ、お姉ちゃんは絶対に死なない。どんな理不尽が襲ってきても、全部弾き返してみせるから」


マエリスは、机の上のリストを思う。


(覚悟を決めよう。搦手や裏技を考えないで、真正面から『死』という現象を全て制御下に置いてみせる)


それは、神に挑むような途方もない目標。


(発想を──いや、スタート地点を変えよう。

 一度見かけただけの皇帝のためじゃない。マノンのために、ボクのために、この技術を開発する)


マノンをあやしながら、マエリスは誓いを立てる。


(『死を退ける盾』──絶対に作ってみせる)

お読みいただききありがとうございます。


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