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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第二章 Order:至宝を守る痣

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皇后の依頼

誕生日会の、翌日。

招待状を持って、マエリスは再び帝城を訪れていた。


馬車の御者はリフィが務めた。しかし指定は二人きりなので、マエリスはリフィを連れて行くことができない。


「なので、私はここでお帰りをお待ちしております」

「ありがとうリフィ。適当にボクのお金でこの辺ブラついてもいいからね」

「では、お嬢様のお小遣いを今月ゼロにしておきますね」

「おいこら。限度があるでしょ」

「冗談です──ご武運を」

「それも冗談だよね? 戦わないからね?」


リフィに見送られて、マエリスは門番に招待状を渡す。

門番の案内で、マエリスは城の中へ案内されるのだった。




一人で車椅子を走らせる令嬢など、大陸広しと言えど該当者は一人しかいない。

案内される中、マエリスはデビュタントの時とは違う、奇異と興奮の入り混じった眼差しに囲まれていた。


(見世物じゃないんだけどなぁ)


辟易しながら案内されたのは、帝城内の庭園。


「ここで少しお待ちください」


その中の東屋の一つに案内してくれた門番は、そう言って持ち場へ戻っていった。


束の間の待ち時間。

穏やかな風が心地よい香りを運んでくる。小鳥の囀りは軽やかで、麗らかな春の日差しが葉や花弁を明るく照らす。


マギカ辺境伯領の庭園と比べて遥かに優雅なそこは、花に興味のないマエリスも思わず見惚れるほどだった。


だから、油断していたとも言える。


「まるで絵画のようね? やっぱりここに通して正解だったわ」

「ひっ!?」


突然真後ろから声がして、マエリスは勢いよく振り返る。


シャナイアのような、輝くような黄金の髪。黄金の瞳。ペーラ・ウルト大陸の人間ではないのだろう、白い肌。

しかし、手を伸ばせば触れられるような距離にも関わらず、気配がまるで感じられない。


「シャルボート皇后陛下っ、いらっしゃったことに気が付かず──」

「構わないわ? 足音を立てないのが癖なのよ」


まるで問いかけるように、囁くように、しかしはっきりと耳に残る声をするシャルボート。


「来てくれて感謝するわ、マエリスちゃん?」

「こ、こちらこそ、お招きいただきありがとうございます、陛下」


言葉の通り、シャルボートは足音を立てないまま歩き、マエリスの対面に座った。

その手にはバスケットが。


「二人きりだものね? 私も侍女は居ないのよ? だからお茶菓子を持ってきたわ?」


バスケットからティーポットやカップを取り出し始めたシャルボートを見て、マエリスは慌てる。


「ああ陛下! 私がやります!」

「ダメよ? これはホストの仕事よ」


頑として譲らず、シャルボートは紅茶を入れたカップをマエリスの前に置いた。


「ナザーリム産の紅茶よ? 私のお気に入りなの」

「い、いただきます」


ナザーリム──地理的には、ペーラ・ウルト大陸がオーストラリア大陸に相当するなら、そこはニュージーランドにあたる場所だ。

ブランド紅茶として有名であり、マエリスもたまにしか飲んだことはない。


「──美味しいです」

「良かったわ? 淹れてくれた侍女を褒めておくわね」


そして、まるで世間話をするようにシャルボートは言う。


「あなた、中身は五歳じゃないわね?」

「んぐっ!? ケホッ、ケホッ」


突然の質問、いや指摘にマエリスは咽る。


「──いきなり、変なこと言いますね、陛下」

「そうでしょう? 転生者? それとも憑依者?」


一点の疑問もない、確信。


シャナイアが「今ではない時代の、ここではないどこか」を見ていると言っていたが、視線の合わない瞳は、まるで自分の魂を見つめているようにも感じられ、背筋が冷たくなる。


(そういえば、瞬きをしていたか……?)


この数分のやりとりの間、シャルボートは一度も瞬きをしていないことに気づき、気味の悪さは増していく。


「……まあいいわ」


答えないマエリスに、シャルボートはあっさり流した。


「それじゃあ本題ね? あなたに依頼よ」

「依頼、ですか?」


シャルボートがカップに口を付ける。数秒の間。妙な緊張が場を支配していた。

カチャリと、ソーサーにカップが置かれる。


「刺殺、斬殺──」

「?」

「圧殺、爆殺──」

「……」

「毒殺、暗殺──」


そこで初めて、マエリスとシャルボートの視線がぶつかる。


「あらゆる死から皇帝陛下を守る『絶対の盾』──物理も、魔法も、毒も、病も──『運命』すらも防ぐ盾を、あなたに依頼するわ?」

「ッ、はぁ!?」


相手が「帝国の母」であることを忘れて、マエリスは声を荒げた。


「そ、そんなもの、あるわけがないじゃないですか!?」

「断るのかしら?」

「断るもなにも、そんなの──古代文明にはあったのかもしれませんけど、そんな伝説級の遺物が発掘されるのを、半永久的に待つつもりですか?」

「そんなつもりはないわ?」


そしてシャルボートは、マエリスの車椅子を見る。


「作れるのでしょう? あなたなら」

「いや、そんな──」

「魔法陣をベースにした技術……現状唯一、遺物を再現・創造できるあなたなら、でしょう?」


全てバレている。マエリスはいよいよ動揺を隠せなくなった。

後退るも、車椅子を操作する余裕もなく、背もたれに阻まれる。


(いや、呑まれるな──エレノアの扱きを思い出せ──)


腹に力を入れて、深呼吸をして、マエリスはシャルボートを睨む。


「──まず、その難しさは理解していますよね?」

「そうね、理解しているわ? これまで何度も依頼しているもの」


これまで何度も──何人に声をかけたのかは知らないが、それならまだ交渉の余地がありそうだ。


「期限は?」

「設けないけれど、出来るだけ早い方がいいわね? それと、一発勝負よ」


一発勝負──チャンスは一度きりと。まあ何度も粗悪品を出されるのは迷惑だろう。


「なら、完全に条件を満たせていなくてもいいでしょうか」

「程度に依るわ? 毒殺くらいは防いで欲しいけれど」

「毒殺……失敗した場合のペナルティは?」

「特に考えていないわね?」

「ならば、満足いくものが作れた場合の報酬は?」

「公にはできないから、私の心象がかなり良くなるだけね?」


それは小さいようで、途方もない報酬。「帝国の母」の後ろ盾が得られるのは、帝国民なら誰だって、喉から手が出るほどに欲しい報酬。


しかしマエリスは一歩踏み込んだ。


「ならば報酬とは別に、魔法陣の収集に協力をお願いしたいです。今の手持ちでは不安があります」

「あら? 依頼を達成しないで私を利用するつもり?」

「違います、と言っても信じてもらえないでしょうから、期限を切ります。二年以内でどうでしょうか?」

「それ、あなたにリスクがないわね? 来年はあなたの妹のデビュタントでしょう? そこから更に一年だなんて、マギカ辺境伯領も準備が整っている頃だわ?」


そして、シャルボートは指を一本立てる。


「ちょうどいいから、来年のデビュタント前までにしましょう? それなら、あなたの要求も飲んであげるわ?」

「……分かりました。最善を尽くします」

「楽しみにしているわ? 妹さんの健やかなデビューのためにも、頑張ってちょうだい?」

「っ!」


シャルボートは、微笑を浮かべる。

紅茶は、もう冷めていた。

お読みいただききありがとうございます。


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