皇室からの文
「マエリスお嬢様」
「リフィ?」
マノンのドレスを脱がせてベッドに寝かせ、自分もドレスを脱いで身軽になろうと思っていたマエリスは、リフィに声をかけられて振り返った。
「……事案ですか?」
「何でさ。姉が妹の服を脱がせて寝かせてるだけじゃん」
「まず、何故マエリスお嬢様がドレスの脱がせ方を知っているのですか?」
「え? 服の構造なんて間近で見れば分からない?」
何がおかしいのか分からないマエリスは首を傾げる。
「ドレスで寝たら、皺が付くでしょ? だから脱がせたん、だけど……ドレスも安くないし……」
「発想が貴族令嬢ではありませんね」
呆れた目で見てくるリフィに、マエリスは居心地の悪さを感じて話を変える。
「そ、それで、何か用? 誕生日会は終わったんじゃないの?」
「それが……マエリス様にお客様です」
「え? もしかしてまた、飛び入り?」
「はい」
飛び入り参加。そして会が終わっているにも関わらず断れないような相手……
「……皇室だったりする?」
「旦那様がお待ちです」
否定されなかったマエリスは溜息を吐き、リフィの後を付いていった。
「やあ! 君がマエリスだね!」
やたらとキラキラした青年がいた。
「ボクはシャナイア・カラバ! 帝国の第一皇女さ!」
「マエリス・マギカです。お会いできて光栄です、シャナイア殿下」
皇女? マエリスはシャナイアの体を見る。
ワイヤーが入っているのか、かっちりした礼服だ。
身長は高いが歳は同じくらいなのだろうか、あまり差が性差が出ない年代故か、よく分からない。
ロイとはあまり似ていない。髪色も黄金で、燃えるような赤のロイと異なる。
「こんな夜中に済まないね。ロイがお祝いに行きたいと急かすものだからさ」
「捏造は止めろシャナイア姉上! 一番浮き足立っていたのは姉上だろうが!?」
「そうだっけ? まあボクもずっと前から君と話をしてみたかったんだ。同い年しか参加できないデビュタントって、酷いと思わないかい?」
「生憎、五つの身では同い年の相手が手一杯でして」
「はは。『魔法の天才』様も初めての社交には苦戦中か」
「いつでも悪戦苦闘ですよ」
ニコニコとした笑顔で接してくるシャナイアと、憮然とした態度を崩さないロイ。
「そろそろ、親交は深まったかな」
今まで黙って事の流れを見ていたミシェルが口を開く。
「それではシャナイア殿下。マエリスのお祝いだけであるなら感謝申し上げて終わりだが、他にも何かあるのだろう?」
「──皇后、シャルボート・カラバ陛下からの文があります。マエリス、君宛だよ」
「皇后陛下から、ボクに?」
何故だ? 頭上に大量に疑問符を浮かべながらもマエリスはシャナイアから手紙を受け取る。
『剣を構える獅子と三本の小麦』──帝国の紋章が刻まれた封蝋だ。
(この紋章も、何か違和感があるんだよな)
その正体は分からないが。今は関係ないため、封蝋を解いて、マエリスは中を読む。
「……招待状、ですね。明日、皇后陛下と二人きりのお茶会のお誘いです」
「へえ、シャルボート陛下と二人きりか。ボクもロイもしたことがないから、妬いてしまうね」
「そうなんですか?」
皇室の事情は知らないが、親子の関係ならお茶会くらいするものではないのか?
腹違いならしない? 派閥争い? 嫌な予感がプンプンとする。
「あの人は、良くも悪くも『人でなし』というか、常に今ではない時代の、ここではないどこかを見ているような──まあその、不思議な人だけれど、悪い人ではないよ。
トロワジエ陛下との関係も良好だしね」
「安心できる材料が何もないのですが」
「直球で言うね。正直ボクも苦手な人ではあるのだけど」
シャナイアは肩をすくめる。
「確かに手紙は渡したよ。レディに夜更かしをさせるわけにもいかないし、ボクたちはこれで退散させてもらおうか」
「待て、シャナイア姉上」
帰りの挨拶をしようとしたシャナイアを、ロイが止める。そしてマエリスの方を見ると、まっすぐ指をさした。
「次は俺様が勝つ! それまで負けることを禁ずる! いいな!」
「え、あ、はぁ」
「それだけだ! 行くぞ、シャナイア姉上」
「あ、ちょっと──素直じゃないけど、もう少し付き合ってあげてほしいな」
またね、とシャナイアはロイの後を追って、応接室を去っていった。
「……皇室って、魔境ですね」
「まだ入り口ですらないよ」
「うへぇ……」
マエリスはとりあえず、明日のために早寝することにした。
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