異端なる魔法士 後編
「この方法で、我が父ミシェル・マギカ、我が母シャーロット・マギカも、習得していなかった上位属性を習得できたことを報告します」
この報告に、観客席はもはやパニックだった。
歓声とも悲鳴とも分からない声が溢れる。
それは新たな魔法の歴史への興奮か、崩壊する既得権益への絶望か。
「さて、冒頭でも質問されましたが、上位属性と複合魔法の関係ですが、どちらも二つの基本属性が関わっている共通点があります。そこで複合魔法となる条件についても、報告させていただきます」
その混沌も意に介さず、マエリスは続ける。
「煙霧、熱風、溶岩、大嵐、濁流、砂塵──あれらは魔法が物理的に混ざったものです。そして属性には相性がある以上、精密な調整が必要になります。
溶岩や大嵐のように、有利不利のない魔法の組み合わせは、威力の差が一割程なら成立しますが、他の場合は不利属性側が五割増程でないと発動しません」
もはや聞いている人は少ないな、とマエリスは思いながらも口を動かす。
「威力の計測方法は難しいですが、レンガを積んで攻撃し、壊れた量を数えるのが比較しやすいかと思います」
最後に、とマエリスは結ぶ。
「今回は上位属性の習得方法を紹介しましたが、今後は希少属性の条件を模索していきたく思います」
「ぼ、冒涜だ!」
途端、最前列の老人が叫んだ。
「魔法を分解する? 魔法士として恥を感じないのか!?」
「そもそも、そんな得体の知れない箱を使って! それはお前の実力ではないだろう!」
「どうせあの賢者の仕込みだろう! 嘘八百で神聖な場を穢しおって──」
老人たちがヒートアップしていき、マエリスが彼らの血管の心配をしていた、その時だった。
「……あ、できた」
小さな声だが、その瞬間場が冗談のように静まった。
箱も使わず、道具にも頼らず──ただ純粋な、膨大な魔力の圧。
それが観客席の後ろから放たれている。一人の少年が、その中心にいた。
(お父様に匹敵する……? まさか、道具なしでやったの?)
そのプレッシャーを浴びて、冷汗がマエリスの背を伝う。
金髪の素朴な少年だ。ずっと居眠りをしていたのか、服が少し乱れている。
彼の手には、バチバチと弾ける雷が迸っていた。
「……質問、いい?」
「ええ、どうぞ」
ついでに、と少年がそのまま立ち上がる。マイクもなしに、ボソボソと呟くような彼の声は大きく響いていた。恐らく、彼の魔法だ。
「……僕、ジニー・ポーセット。上位属性が基本属性の組み合わせなら、全部で六通りあるはず。それなら僕らの知らない上位属性が、まだあるってこと?」
バッと、観客席の何人かが目を見開いてマエリスを見る。まさか、という気持ちがありありと伝わってくる。
「ご質問ありがとうございます。現在その二属性については研究中です。分かっている範囲では、上位属性として知られている四属性とは性質が大きく異なりそうということだけです。
近いうちに、論文を出させてもらうことになるかと」
「……ありがとうございます」
「それなら、私からも質問いいかな」
ジニーが着席すると同時に、隣の男性が手を挙げ、マイクを貰う。
「ドワ・ポーセットだ。君の使っている車椅子は、ひょっとしてその上位属性の理論が使われているのかな?」
「ご質問ありがとうございます。この車椅子は箱同様、『魔の森』の遺跡で発掘されたものでして、状態が良いので使わせてもらっている形です。このマイク同様、原理は分からないけれど使えるから使う、というものですね」
「ふむ、そうか。回答ありがとう」
「いい加減にしたまえ!」
マエリスが予定通りの回答をしていると、最前列の老人が怒鳴った。
「ここは魔法学会だ! 社交界ではない! 知識もない伯爵風情が発現してよい場ではないのだ!」
「あァ? 爵位が知識に関係あるのかァ?」
その声は、ジニーのように魔法で拡声するまでも、マエリスのようにマイクを使うまでもない、ただ単に大きく響く声だった。
「爵位に阿っているのはお前らのようにも見えるがなァ。そもそもポーセット伯爵家はブルー侯爵家の店子だ、文句があるなら俺に言え」
「ぶ、ブルー侯爵……いえ、何も文句などありませんとも」
ブルー侯爵──海賊と呼ばれる男の威圧に、老人は白旗を上げる。
「──では、これで私の発表を終わらせてもらいます」
その後、質問は来なかったため、マエリスは壇上から去った。
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