表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第二章 Order:至宝を守る痣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/56

魔法学術大会

まるで観劇でもやるかのような大きなホール。観客席の前方には偏屈そうな老人がたくさん並び、その後ろにはドレスやスーツを身に着けた貴族たち。


それが老人たちの機嫌を損ね、発表する登壇者を威圧していた。


「君、その引用元は私の論文だがね──」

「私もその専門だが、その解釈は──」


今、また一人が萎縮しながらも発表を終え、理不尽な指摘の嵐に晒されていた。


(質問が来るだけ、マシではあるけれど……)


その様子を舞台袖から冷ややかな目で見るマエリス。その内容が発表の趣旨からやや外れていることに気づいていた。


(ほんと、老害はどの世界にもいるんだよね)


そしてリケはその激しさに慄いていた。


「こ、これほどまでに熾烈なのか、魔法学術大会というのは……」

「さあ? 今日が特別なだけかもしれないけど。でもリケは大丈夫じゃない? あの人たちも身分には弱いみたいだし」


爵位が高い人のゴミのような発表には拍手喝采だったことを思い出して、マエリスがそう言うと、リケは溜息を吐いた。


「……複雑だ」


リケが顔を歪めて呟く。


「普段は身分ばかりを見られることが嫌なのに、あの嵐が来ないならそれでいいと思ってしまっている」

「我儘だなぁ。ボクは羨ましいよ」


リケの贅沢な悩みに、マエリスが毒を吐く。


「ま、一つも指摘がなかったら、後でボクが一つは刺してあげるよ。八つ当たりで」

「はは、それは怖いな」


ようやく、リケの顔の緊張が解れたところで司会者が名を呼ぶ。


「続きまして、ラホープ公爵家長男、リケ・ラホープ様。発表テーマは『光属性魔法の性質変化』です」

「僕の番か」

「逝ってらっしゃい」

「ああ──待て、今変なニュアンスじゃなかったか?」


振り返り詰問しようとしてくるリケを、マエリスは手で追い払った。




「ラホープ公爵家の長男、リケ・ラホープです。今回は僕の家の研究で判明した光属性魔法の性質と制御について発表します」


舞台袖の緊張の割に、リケの発表は滑舌良く始まった。


「元々光属性は火属性の上位属性だけあって、攻撃対象を熱する効果があることが知られていますが、その威力には術者によって大きな差が出ます」


舞台に備えられた遺物のマイクが、リケの声を拾って増幅する。


「それは魔力量の差であるとこれまでは考えられてきましたが、近年ラホープ公爵家では別の仮説も立てられています」


リケがそこまで言うと、壇上に一枚の木板が運び込まれる。


「それは、光の収束です。そもそも光の収束とは何か、まずはそれをお見せします」


そう言うと、リケは魔法の詠唱を開始した。


「風よ、土よ、砂を巻き上げ、視界に影を落とせ。

 光よ、照らせ」


直後、壇上に砂煙が発生し、続いてその中を扇状に光が広がり、観客席が感嘆に満ちる。


「『粉々砂漠』に縁のあるラホープ公爵家では、このように砂埃が立っている時は光が形を持つことが知られていました──ですがこの光では、板に傷をつけることはできません」


そこで、とリケが何かを取り出す。それはリケの眼鏡と同じ、見事な加工がされたレンズだった。


「ラホープ家の秘石は光を操ることができます。これを──」


リケが光線の前にレンズを置く。すると光は屈折し、焦点を板の前に結び──板を焼いた。感嘆がどよめきへと変化する。


「ご覧の通り、光が細く集まれば集まるほど、光は熱を多く持ちます。この間魔力量が変わっていないのは、皆さんの慧眼には明らかだと思います」


最後に、リケはこう結ぶ。


「今回はこのような結果になりましたが、秘石の違いが熱量の違いに繋がるのかは未だ検証していません。ですがこの研究が進めば、光魔法の魔力効率は大きく向上すると考えます」


ご静聴ありがとうございました、その言葉の直後に大喝采が湧き上がった。


「素晴らしい! まさか砂を使って光の道筋が見えるようにするとは、『砂の開拓者』たるラホープ家にしかできない発想ですな!」

「それに理路整然とした発表だ! 全ての魔法士は彼を参考にしなければならない!」

「その歳でもう光属性が扱えるとは、ラホープの神童の名に偽りはありませんな!」


その後、リケの発表への質問時間が設けられたが、質問は挙がらない。最前列の老害が、「まさか彼の発表で疑問に思うようなことなどあるわけがない」と周囲を威圧するからだ。


本来なら、司会者から質問を一つしなければいけないのだが、質問者も老害の側なのだろう、結局質問は一つたりとて彼に届かなかった。


リケは一礼し、壇上を去る。拍手を背に舞台袖へと下がる際の表情は、全く嬉しそうではなく、嫌な思いをしたような顰め面だった。


「あの発表さ」


そこへ、マリエスが声をかける。


「凸レンズのことしか考慮されてないよね。凹レンズはどうなるの?」

「は? レンズとは何だ?」

「え? えっと、秘石って言ってたっけ。 凸レンズがリケがさっき使ってた雫みたいな形の秘石のことで、凹レンズがその眼鏡に使われてる砂時計みたいな形の秘石」

「あ、ああ、この形でないと光は収束しないからな。省略してしまっていた」

「本当に? 収束しないの?」


マエリスがリケの顔を覗き込む。それは質問ではなく、まるで教師が生徒を試すような響きをリケに感じさせた。


「ま、でも基本通りの型に収まってていい発表だったね。やっぱり基礎研究はこうでないと」

「え、あ、ああ、ありがとう」


妙な褒められ方に、リケが困惑する。すると、


「続きまして、マギカ辺境伯家長女、マエリス・マギカ様。発表テーマは『上位属性の再定義と複合魔法の条件』です」

「ボクの番だ。君の時と違って、質問はいくらでも歓迎するよ……まあ、君がしなくてもたくさん飛んできそうだけど」


そう言って、マエリスは車椅子を走らせる。

その背を見送り、ふとリケは呟いた。


「レンズか……不思議な呼び名だが、しっくりくるな」

お読みいただききありがとうございます。


ブックマーク・誤字報告、いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ