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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第二章 Order:至宝を守る痣

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魔法学会に向けて

デビュタントは恙無く終わった。

今回の件で、マエリスはペーラ・ウルト大陸の貴族たちに強い印象を与えた。


「不思議な車椅子を駆る少女」、「障害を越えた者」、「次代の賢者」──様々な呼び名で、その存在は拡散されていくことだろう。




「お父様。ボクはそろそろまとまった研究の時間が欲しいです」


そんな当の本人は、帰りの馬車の中で、開口一番そう訴えていた。


「初めての社交場は、やはり君でも疲れたかな」

「あれはマトモな人間がやることじゃないですね」

「とんでもない暴論を言うものだ」


苦渋に満ちた表情で吐き捨てるマエリスに、ミシェルは苦笑する。


「だがもう少し辛抱が必要だよ。明後日には魔法学術大会があるのだから、明日は私とその準備をする」

「えー……」


いよいよ形を保てなくなり、溶けるように姿勢を崩すマエリス。


「デビュタントはよくできていたじゃないか。あれで構わないんだよ」

「それが疲れると言うんです。特に最後のダンス……もっと遠隔操作の実験をしておけばよかった」

「あれには参加者全員、肝を抜いただろうね。私でも目を離せなかったのだから」


車椅子というハンデを無視した、完璧なダンス。だがその代償は大きく、かなり神経を使ったマエリスの疲労はピークだった。

途中、いけそうだと思って皇子を煽ったのが悪かった。


それを馬車に乗るまではおくびにも出さなかったのは、エレノアの授業の賜物だろう。


「とにかく、今日はもう休みなさい」

「そうします……」


そして馬車の揺れにさらわれて、マエリスは瞼を閉じた。




翌日。


「おはようございます」

「おはようマエリス。あまり休めなかったのかな?」

「いや、体は元気なのでお構いなく」


目にクマを作ってきたマエリス。

昨晩は寝る前にマノンに捕まり、デビュタントの話をしていたら遅くなってしまったのだ。


「さて、では明日の話だ」

「はい」

「君が書き上げた論文は三つ。

『魔法陣と詠唱魔法の比較』、『上位属性の再定義と複合魔法の条件』、『魔法陣の構築法則』──この中で、『上位属性の再定義と複合魔法の条件』一つだけを、明日は発表することになる」

「全部ではないのですか? 論文は書いたら早く公表するものでは?」


マエリスが前世の感覚でそう尋ねる。するとミシェルは首を振った。


「君の内容はどれも新しすぎるからね。三ついっぺんに公表してしまえば、白髪頭の漬物石たちが一斉に火を噴いてしまう」

「自然の淘汰なんですから、無視でよいのでは?」

「そういう輩に限って権威はあるからね……それに、魔道具の正体を隠すためでもある」

「?」


ミシェルは、マエリスの車椅子を見ながら、やや声のトーンを落とす。


「昨日のデビュタントで、君の車椅子は多大な注目を集めた。

 あれだけの性能だ。『どうやって作ったのか』と、明日以降ハゲ鷹のように探りが入るだろう」

「……それは、今でもそうじゃ? マギカ辺境伯領で作られたのは、もうバレてますよね?」

「だから、『嘘』をつく」


ミシェルは人差し指を立てた。


「あの車椅子は、『北の遺跡から発掘された古代の魔道具を修理したもの』……そういうことにする」

「あー、なるほど。オーバーテクノロジーを過去の遺産に押し付けるわけですね」

「そうだ。『マギカ家が作った』と言えば、設計図を寄越せと圧力がかかる。だが『拾った』と言い張れば、解析されるまでは時間を稼げる。

 ……少なくとも、来年。マノンのデビュタントが終わるまでは、マギカ家の『技術的優位』を隠しておきたい」

「妹の晴れ舞台のために、姉は道化を演じろと?」

「君なら、その道化すら楽しむだろう?」

「……まあ、否定はしませんけど」


マエリスは肩をすくめる。

確かに、自分の技術が「古代の秘宝」扱いされるのは、技術者としては少し不服だが、面倒ごとは少ないに越したことはない。


まあインターネットも電話もないこの世界、情報の拡散には時間がかかる。マエリスの投げ込んだ話題が大きな波紋を呼ぶのは、まだ先になるのだろう。


「ボクは、ボクの偽物でも現れるのは歓迎ですが」

「普通は技術は秘匿するものだ。明日の発表後の交流会でも、口を滑らせるなよ」

「はーい」


ミシェルの懸念も分かるため、マエリスはとりあえず承諾した。

お読みいただききありがとうございます。


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