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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第二章 Order:至宝を守る痣

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帝都観光 古道具屋編

「んー、本屋はあそこしかないのかなぁ」

「かもしれませんね。普通は貴族街で展開することが多いですから」

「そしたら貴族街に戻ろうかなぁ……あ、あれは?」


大通りを進むマエリスが次に目を付けたのは、横道の奥。何やら猥雑に物が並べられた、そこそこ広い屋台だった。


当然、大通りと比べると治安は悪くなるためリフィは渋ったが、最終的にはマエリスの熱意に負けた。


「おじさん、ここは何のお店なの?」

「いらっしゃい。ここには遺跡で発掘されたものを置いてるんだ。貴族の嬢ちゃんも何か買ったらどうだ? これなんか綺麗だろう?」


客があまり来ないのか、店主は熱心に商品をアピールしてきた。

ステンドグラスの破片から、錆びついた剣、欠けた壺など、嘘か本当か分からない来歴を語る店主。

それをマエリスは、エレノア仕込みのポーカーフェイスで聞き流しながら商品の目利きをしていく。


(こういう所に掘り出し物があると思ってたんだけど……現実は残酷かな……ん?)


片隅に置かれた塊。マエリスはそれに手を伸ばした。


「お、嬢ちゃんそれに興味があるのかい? お目が高いねえ、そいつは今はあの『粉々砂漠』に呑み込まれちまった、幻の『フイユ遺跡』から見つかった代物でね。何でも古代のゴーレムの部品って言われてるんだ。黒い石から銀の光が見えて高級感があるだろう?」


店主のプレゼンに、しかしマエリスは内心で笑う。


(黒い石から銀の光? 逆だ、銀の金属から黒い光沢が出てるんだ)


マエリスはその考えを笑顔に隠し、店主に尋ねる。


「おじさん、これは幾らなの?」

「お? そうだなぁ、幻の遺跡の発掘品だからなぁ、銀貨二十枚でどうだ?」


店主はこちらの足元を見てふっかけたつもりだろうが、これがマエリスの予想通りなら断然安い。


「じゃあそれで──」

「ちょい待ちいや、おっちゃん!」


代金を支払おうとマエリスがリフィに視線を向ける、その直前。横から少女が声をかけてきた。


一見、路地裏(スラム)の住人のような、ボロボロの衣服とボサボサの髪をしている。しかし姿勢がいい。わざと背中を丸めているような、綺麗な曲線だ。

恐らく彼女も、同い年くらいだろうとマエリスは予想する。


「『フイユ遺跡』から出る黒い石なら、『フイユ金剛』っちゅう貴重な鉄やねん! その大きさなら銀貨五十枚でもぼったくりにゃならへんよ!」

「え!? そんなにすごいのか!?」


店主は黒い石を見て、そして媚びるような笑い声でマエリスの顔色を伺う。


「え、えへへ、い、いやぁ子どもの言うことですし、そんな真に受けなくてね、へへ、いいですがね。銀貨二十枚でいいんですけれども、その、ね」

「価値があるとわかった途端に値上げ交渉ですか? 下衆ですね」


リフィが汚物を見る目で店主を見る。

一方マエリスは黒い石を持ち上げて、色々な角度で観察する。


(色合いだけなら、そうとも言えるけど……確かめるのはこれが早いか)


「リフィ、ナイフ貸して」

「畏まりました」

「お、おいおい、悪かったって! いきなり値上げしようとしたのは謝るから命だけは──」

「いや人に刃物を向けたりしないよ」


怯える店主に、マエリスは呆れたように言う。

そしてリフィから小さなナイフを借りると、刃先を黒い石に向けた。


「『フイユ金剛』は鉄よりも遥かに硬い金属だから、普通の刃じゃ傷も付けられないけど──」

「あ、おい、商品に──」


店主の待ったも無視して、マエリスは石に刃を滑らせる。

すると、綺麗な一直線の傷が引かれた。


「見ての通り、ただのナイフでも傷が付く。これは『フイユ金剛』じゃないよ」


そう試すように、マエリスは店主と少女の二人を見る。二人はその視線に冷や汗をダラダラと流していた。

別に脅すつもりはないんだけどな、とマエリスはリフィにナイフを返しながら告げる。


「ま、いいよ。言い値通り銀貨五十枚で買ってあげる。三十枚は君の演技(・・)代ってことで」

「お嬢様?」


リフィは怪訝な声を上げるが、マエリスはリフィを見上げてイタズラっぽく笑う。

それを受けて、リフィは大人しく銀貨五十枚を払った。


「お、おお──これはありがたい! さすが貴族様はこんな小さな子どもでも慈悲の心をお持ちでいらっしゃる!」

「そんなに持ち上げないでいいよ。あの子とは知り合いなの?」


あんなに怯えていた態度から一転、調子の良くなった店主から黒い石を受け取りながら、マエリスは尋ねる。


「ここ最近、この辺りを彷徨いてるガキですわ。目利きが良くてですな、こんなガラクタも高く売れるようになって私も大助かりですわ」

「ガラクタって。あの子と少し話してもいい?」

「いいですともいいですとも。おい、お客様がお呼びだぞ」


店主が呼ぶと、少女は小走りでこちらへ寄ってきた。


「な、何や? 値上げしたことは堪忍なー。あれでも相場よりは少し安く言ったさかい」

「別に怒ってないよ。それで値上げされた分は君のお小遣いになるって寸法かな?」

「せやで。タダでこないなことせえへんわ」


悪びれもせず、にししと少女は笑う。


「なあなあお貴族はん、良かったらここの常連になってくれんか? ここの九割九分は本当にガラクタやけんど、たまーにお宝が混じってん。常連になってくれるんならうちが目利きしたるわ!」

「それも面白そうだけど──」


マエリスは少女を手招きする。そして少女にのみ聞こえるように耳打ちした。


「次は『フイユ金剛』と『精錬ミスリル』の区別が付くようにしとこっか」

「え?」

「どっちも色味は同じ黒と銀だからね。間違えるのは仕方ないけど」

「だ、だけども、ミスリル鉱石は銀色が強めやろ?」

「鉱石ならね。これ遺跡で見つかったんでしょ? 古代ゴーレムのパーツなら、精錬されててもおかしくないよ」


そう、マエリスが買ったこれは精錬されたミスリルだ。黒い金属光沢は魔法金属の特徴であり、このサイズならば金貨十枚は下らない──支払った額の二十倍以上だ。


「形からして、腕か手の関節パーツの一部じゃないかな。細かい動きをよくするから、精錬ミスリルくらいの魔力伝導率が必要だって、本で読んだことがあるよ」

「な、な──」

「魔法金属にも手を出そうと思ってたから、ちょうど良かったよ」


絶句する少女から顔を離し、マエリスは二人に告げる。


「いい買い物だったよ。気が向いたらまた来るね。行こう、リフィ」


そうして、マエリスとリフィは路地裏から去った。


「また来るってよ! ちとおっかないが、ありゃ嬢ちゃん(・・・・)の求めてた金蔓になるんじゃゃねえの?」

「そんなんやあらへん!」


主従が去った後の路地裏で、店主は少女に興奮したように話しかけるが、少女は語気を荒くして返事した。


「な、何だよ、さっき嫌なこと言われたのか?」

「ちゃうわ」

「じゃあ何なんだよ、分からない奴だな……ほら、分け前の銀貨十五枚」

「要らんわ! ──五枚、いや十枚だけもらうわ」

「しおらしい嬢ちゃんも珍しいもんだ」


店主からの視線を尻目に、少女は拳を強く握りしめた。

お読みいただききありがとうございます。


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