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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第二章 Order:至宝を守る痣

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四泊五日

マギカ辺境伯家の馬車は、ただの移動手段ではない。

外見こそシックな漆黒の箱馬車だが、その内部は匠の工夫でかなり広く感じられ、さながら動く貴賓室のようになっていた。


向かい合わせの広いソファーに、テーブルには湯気を立てる紅茶とお菓子。

吊り下げられたサスペンションの効果で振動も小さく、荒れた街道を走っているとは思えないほど静かだ。


「うわぁ……おっきいねぇ……!」


窓にへばりつき、歓声を上げているのはマノンだ。

日中のため、マエリスが作った特製の黒い布──『遮光フィルター』を目元に巻いているが、その興奮は隠しきれていない。


「マノン、あんまり身を乗り出すと危ないわよ」

「はーい、ママ」


シャーロットに注意され、マノンは大人しく座り直すが、すぐに隣のマエリスに抱きついた。


「おねえちゃ、すごい! 牛さんいっぱい!」

「牧場だね。帝都への主要街道だから、流通も多いんだよ」

「ぎゅーさん、おいしそう!」

「ふふ、着いたらステーキを食べようか」


マエリスは膝の上のマノンを撫でながら、窓の外へ視線を向ける。

もうすぐ五歳になり、ほんの少し背が伸びたマエリスだが、三歳のマノンとの体格差はそれほど変わらない──なんならその差は小さくなっている。

こうしてくっついていると、まるで双子のようだ。


「それにしても、快適な乗り心地だね。サスペンションの構造はどうなってるの?」

「それは企業秘密だよ、マエリス」


向かいの席で優雅に紅茶を飲んでいるミシェルが、冗談めかして誤魔化す。


「ただ、今日の御者はロルカだからね。彼女の御者技術は帝国一だよ」

「ロルカさんが? 意外だなぁ……」


現在、御者台に座っているのは最年長の侍女ロルカだ。

出発前、「久々に血が騒ぎますわい」と不敵に笑って鞭を握った姿が思い出される。

ちなみにルピはというと──。


「んぐ、むぐ……このクッキー、新作ですねぇ! サクサクですぅ!」

「こらワンコ、食べこぼさないでください。掃除するのは私なんですからね」


部屋の隅でリフィに怒られながら、幸せそうにお菓子を頬張っていた。

この自由すぎる空間こそが、マギカ家の日常だ。




マギカ辺境伯領は伊達に『北の砦』ではなく、帝都までの距離はかなりの物だ。

馬車を引く馬は魔物の血が入った立派な軍馬であり、その二頭立てであるのだが、それでも片道四泊五日という、前世が現代人であるマエリスには信じられない旅程となっている。


当然、旅をするだけでも疲れるわけで、今マエリスの膝はマノンの枕になっていた。


「……そうだ、マエリス。先に伝えておくことがあるんだ」

「ん? 何ですか?」


あくびを噛み殺しながら研究計画をまとめていたマエリスはミシェルの顔を見る。

それは真剣な表情だが、どこか気まずそうな雰囲気も感じた。


「私たちマギカ辺境伯家は恐らくだが、かなりアウェーな空気になると思う」

「そうなんです?」

「うん。貴族の嫌な話になってくるのだけど……」


元々、辺境伯家は『田舎の粗忽者』と侮られることが多く、ミシェルが賢者となった時から高位貴族からのやっかみが強かったらしい。

そこで次世代の情報だ。マエリスが詠唱魔法を使えず、その上皇子とも仲が悪いことは知られており、そしてマノンは『紅眼』という障害持ち。攻撃材料としては十分だった。


そう言われて、マエリスはキョトンとした顔をする。


「あれ、ボク皇子と仲が悪いんでしたっけ?」

「二年前の誕生日で、皇子のプライドを圧し折っておいてよくもまあ」


そう言われてマエリスは思い出す。何だか妙に高圧的な男児と、何故か決闘をすることになって、魔法陣で魔力を限界まで吸い取って倒したことが、あるようなないような……


あまり自覚のない様子のマエリスに、ミシェルとシャーロットは苦笑する。


「でもその馬鹿にしてくる人たち、何かを発明したり研究したりはするんですか?」

「いないんじゃないかな」

「なら、スタンピードを前線で戦えるほどに強くは?」

「ないね」

「じゃあ、どうでもいいですね」


関心をなくしたように、マエリスは手元の羊皮紙に視線を戻した。


「まあ君のことだから大丈夫だろうが、万が一シャーロットやマノンのことを馬鹿にされても、手を出したり威圧したりしてはいけないよ」

「はーい」


マエリスの生返事に、ミシェルの不安は強まった。

娘の「大丈夫」は、「(殲滅できるから)大丈夫」という意味を含んでいる場合があるからだ。




「……奥様、旦那様、お嬢様方、見えてきましたぞ」


それから数日後。旅の終わりに、御者台のロルカから声がかかる。

全員の視線が窓の外へと集まった。


地平線の彼方から現れたのは、巨大な「壁」だった。

辺境の砦とは比較にならない、天を突くような白亜の城壁。その奥に広がる無数の塔と、中央に鎮座する皇帝の居城。


魔法文明の粋を集めたペーラ・ウルト大陸最大の都市──帝都『ウルタール』。


「うわぁ……!」


マノンが純粋な感嘆の声を上げる。

初めて見る大都会の輝きに、その瞳はキラキラと輝いていることだろう。


一方で、マエリスは冷めた目で城壁を見上げていた。


(構造が古いなぁ。あんな高い塔、耐震設計はどうなってるんだろ。魔力障壁頼みかな……あそこの死角、砲撃し放題じゃん)


技術者特有の物騒なチェックを入れているとは露知らず、馬車は威風堂々と帝都の正門へと滑り込んでいく。

門番がマギカ家の紋章を確認し、敬礼と共に重厚な門が開かれる。

石畳の響きが変わり、周囲の喧騒が一気に増した。


「さあ、着いたよ。ここが君たちの新しい戦場だ」

「へぇ、人がゴミのよ──じゃなくて、いっぱいいますね」

「マエリスお嬢様、お言葉が」


リフィに窘められながら、マエリスは窓の外の雑踏を眺める。


華やかなドレスと、陰謀が渦巻く貴族たちの社交界。

そして何より、自分とマノンを嘲笑おうと待ち構えている「敵」たちの本拠地。


(面倒だし、さっさと終わらせたいな)


マエリスはあくびを噛み締める。


こうして、マギカ辺境伯家の帝都滞在が幕を開けたのだった。

お読みいただききありがとうございます。


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