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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第一章 Order:精細を描く腕

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禁忌の一矢

「うっ……」


チリチリと炎の熱が頬を炙る中、マエリスは意識を取り戻す。

同時に脳を焼くような激痛──マエリスはそこで、自分の置かれた絶望的な状況を認識した。


「はっ、ぐぅ……!」


建物の瓦礫と混ざって、大破したホバークラフトの残骸がマエリスの体を圧迫している。

足は完全に埋まり、上半身も挟まっていて、動かせるのは首と右手首から先だけだ。


(……ホバーへの魔力供給を絶てば、残骸が消えて抜け出せるか?)


いや、ダメだ。

今は奇跡的なバランスで瓦礫が止まっている。支えとなっている機体を消せば、上の瓦礫が崩落してマエリスはペシャンコだ。


視線を巡らせる。

少し遠くには、先ほどの衝撃でもげたチタンのアームが転がっている。


ロルカの姿はない。恐らく空中で放り出されたのだろう。

ルピ、リフィ、シャーロットの姿も見えない。きっと今、再生したあの狼を必死に追いかけているのだろうが──


(……間に合わない、な)


マエリスは乾いた笑みを漏らす。

瓦礫の向こうから、ジャラジャラという音と共に、黒い巨体がゆっくりと歩み寄って来るのが見えたからだ。


「あれ……すぐには殺さないんだ」


狼はマエリスの目の前で足を止めた。

赤い瞳が、瓦礫の下の獲物を睥睨している。

すぐに殺すのは惜しい。この生意気な羽虫が絶望に顔を歪める瞬間を見たい──そんな加虐的な知性を感じた。


「じゃあその余裕ついでに、一撃くらってもらおうかな」

『グルルルッ!』


狼が、嘲笑うような咆哮を上げる。

その瀕死の体で何が出来る。魔力も尽きかけ、機体は既にスクラップだぞ、と。


「……本当は悩んだよ。一度も実験していない理論を本番で試すのって、エンジニアとしてどうなんだろうって。でもまあ、これに賭けるしかないんだ」


マエリスはブツブツと呟きながら、視線を狼の「足元」──先ほど転がった千切れたアームへと向ける。


「本当につい最近さ、新しい属性を見つけたんだ。『生命』と『精神』──それで何が出来るかなんて、まだ詳しくは調べてないんだけどね」


マエリスは右手の指を、ピアノを弾くように微かに動かす。


(『精神』属性で、意思の伝達。『生命』属性で、疑似的な神経回路の構築。どっちでもいいから、成功してくれれば──)


本来はゴーレムに自律的な動きを与えるための理論。

だが、応用すれば「無線通信」になるはずだ。


「この属性があれば、本体から離れた腕をもっと滑らかに動かせないかって。本当にスタンピードの直前まで、設計図をいじってた」


狼の背後。

転がっていたチタンのアームの指先が、マエリスの指と連動してカタカタと動き出す。

狼は気づかない。獲物の遺言を聞くことに夢中だからだ。


「……結局できたのは、指先を動かすだけだけど」


マエリスはニヤリと笑う。

遠隔操作されたアームの指先が、狼の足元の地面に、二つの魔法陣を描き終えていた。


「ああよかった。賭けに賭けを重ねてさらに賭けるとか、本当にあり得ないんだけど……上手くいったね」


マエリスは、ホバークラフトへの魔力供給ラインに指をかける。


(今のボクには、もうあの魔法陣を起動する魔力も、触れる自由もない)

(だけど──ここには『燃料』がある)


マエリスが片手で維持している、数トンものチタンの塊。

魔法で構築された物体は、供給が止まれば魔力に還元される。


もし、この至近距離で、これほどの質量の魔力が一気に解放されたら?

そして、そのすぐ側に「同じ鉱属性」の魔法陣があったら?


(そんなの、理論すら考えたことないんだけどな)


マエリスは、ホバークラフトへの供給を断った。


ブォンッ……!


空気が震える。

マエリスを押し潰していた巨大な鉄塊が、一瞬にして光の粒子──純粋な魔力の奔流へと弾け飛んだ。


ズドドドォッ!!


支えを失った瓦礫が崩落し、マエリスの体を押し潰す。


「がはっ!?」


口から鮮血が噴き出す。だが、意識は外へ。


行き場を失い、周囲に溢れ出した膨大な魔力。

それは親和性の高い「導線」を見つけ──狼の足元に描かれた「鉱物生成」の魔法陣へと吸い込まれていく。


『ガルルルッ!?』


狼の本能が、警鐘を鳴らして跳び退いた。

足元から、桁違いのエネルギーが膨れ上がるのを感じたからだ。


「もう何度もこの魔法陣は描いたから、見本がなくても空で描けるんだよ」


マエリスが遠隔操作で描いたのは、純粋な物質を作るだけの、鉱属性の魔法陣。

この魔法陣は、「陽子数」と「中性子数」を指定することで生成物質を決める。


片方に入力した数字は──「陽子数92、中性子数143」──ウラン235。

もう片方に入力したのは──「陽子数0、中性子数100」──純粋な中性子線。


ホバークラフト一機分の魔力を吸い上げ、二つの術式が同時起動する。


「……前世日本人として、この攻撃はいいのかって悩んだけど。なりふり構っていられない」


生成された重金属の塊に、中性子の弾丸が直撃する。

臨界点突破。


「死を間際にした人間の行動は──最大火力の自爆って相場が決まってるんだよ!」

『コオォォォロオォォォスウゥゥゥッ!』


狼が恐怖に駆られ、元凶たるマエリスを殺すために爪を振るう。

しかし、一歩遅かった。


足元に、青白い「太陽」が生まれた。


音すら置き去りにする閃光。

数千度の熱線と衝撃波が、狼の全身を蒸発させ、瓦礫ごとマエリスを吹き飛ばそうと膨れ上がる。


(あ、これボクも死ぬわ)


熱に焼かれ、マエリスの意識が霧散する。

その直前。


「──『マギカ辺境伯領第三大通り』!」


誰かの声と共に、マエリスの体が世界から消失した。

お読みいただききありがとうございます。


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