総力戦
「ルピ! ロルカさん!」
砂煙が晴れると、そこには心強い援軍の姿があった。
「美味しいところを持っていくとは……この駄犬、最初から狙っていましたね?」
「そ、そんなこと考えてないですぅ! 必死に走ってきたんですからぁ!」
「ふぉっふぉっ。奥様も、大事ないようで老骨も一安心ですぞ」
「ロルカ……お帰りなさい」
双子と見紛う祖母と孫。
二人はいつものメイド服ではなく、動きやすさを重視した民族衣装のような装束を纏っていた。
その服も肌も泥と血で汚れており、ここまで壮絶な戦いを潜り抜けてきたことが分かる。
「旧交を温めるのもいいがの、敵さんが待ってはくれなさそうじゃぞ」
『ガアァァァァァッ!』
粉砕された上半身の黒い宝石が、ジャラジャラと逆再生のように組み上がり、狼が復活の咆哮を上げる。
むろん、皆も油断はしていない。
一瞬の安堵を切り捨て、速やかに戦闘態勢へと移行する。
「ロルカ、見えてる?」
「『魔王の影』じゃからなぁ。因果が乱れておるが……ま、寸先程度なら」
「ならあなたはそのままマエリスの『目』になってちょうだい」
「承知。それが最善じゃな」
シャーロットとロルカは短い言葉で意思疎通を済ませる。
(ロルカの「目」──文脈的に未来視みたいなものかな? だとしたら、すごく助かる)
一方で、リフィが愛用のナイフを構え直した。
「ルピ。私とあなたで、あれの動きを固定します。現状、有効打はお嬢様の攻撃しかありません」
「ふぇぇ、あれ中身がドロドロで気持ち悪いんですよぉ……殺意しか感じませんしぃ」
「つべこべ言わないでください」
「ひぃん、もう私ヘトヘトなんですよぉ!?」
文句を垂れつつも、ルピがファイティングポーズをとる。
彼女に派手な攻撃力はないが、獣人特有の身軽さと、特殊な「目」がある。囮としては適任だ。
役者は揃った。
「再生も無限ではないはずじゃ。壊し続ければいずれ尽きるじゃろう」
ロルカがマエリスの背後から囁く。
「お嬢様、わしがタイミングを指示します。迷わず引き金を」
「分かった!」
(再生にはエネルギーを使うはず。なら、ガス欠になるまで叩き潰す!)
「行きますッ!!」
リフィの号令と共に、戦いが再開された。
ルピが持ち前の俊敏さで狼の足元を駆け回り、リフィが死角から関節を狙う。
狼が鬱陶しそうにルピを踏み潰そうとするが、ルピは殺気が膨れ上がる瞬間を読んで、紙一重で回避する。
「あぶなっ! わ、私ばっかり狙わないでくださいよぉ!」
「隙あり!」
狼の意識が逸れた瞬間、地面が底なしの流砂のように変化し、その足を絡め取った。シャーロットの拘束魔法だ。
『グゥッ……!?』
動きが止まる。
その瞬間、ロルカの声がマエリスの耳元で響く。
「──今じゃ!」
「らぁぁぁぁっ!!」
マエリスはアクセルを踏み込む。
ホバークラフトが滑るように接近し、シリンダーアームを突き出す。
しかしそれは、すんでのところで流砂から脱出され、回避された。
「狙いを定めるのが少し遅いのう!」
「今度こそ!」
『シイィィィ──ネエェェェ──ッ!』
振り下ろされた爪を腕で防ぐ。火花が散る。
距離を取るために後退するマエリスと、それを追う狼。その間にルピとリフィが割り込む。
「うぅぅぅ重いですぅぅぅ!」
「本当に、嫌になりますね……ッ!」
『ガアァァァァァ!』
狼は学習している。この二人が止めにくれば、足元が柔らかくなることを。
故に狼は跳び上がってマエリスを追う──が。
ズボッ
『!?』
「発動のタイミングはズラせるのよ!」
狼が着地しようとした瞬間の地面が流砂となり、両足を飲み込んだ。
シャーロットの魔法だ。
「今じゃ!」
「はい!」
完全に無防備になった胴体。
その隙を逃さず、マエリスはシリンダーを起動した。
ガゴォッ!!
三度目となる粉砕音。
チタンの拳が、狼の腹部を深々と貫き、黒い宝石の鎧を爆散させた。
「やった!」
「いかん! マエリス様──」
「え──」
確かな手応え。当たったことに喜んだその一瞬、ロルカの切迫した声が重なった。
頭もない、胸も腹もない、爪もない。
上半身のほとんどを失った狼。
だが──「脚」は残っていた。
生物なら即死の傷。しかしコイツは、ただの影。
脳など必要ないと言わんばかりに、狼の残った下半身がバネのようにしなり──
ドォォォォォォォンッ!!
「がはっ……!?」
ホバークラフトの下部、マエリスの足元に強烈な蹴りが直撃した。
トラックに側面衝突されたような衝撃。
数トンの機体が、マエリスを乗せたままボールのように軽々と空へ蹴り飛ばされる。
「きゃあぁぁぁぁっ!?」
「マエリスッ!!」
「お嬢様!!」
視界がぐるぐると回転する。
強烈なGで意識が飛びそうになりながら、マエリスは見た。
遙か眼下。
頭のない狼の残骸が、恐ろしい速度で再生しながら──宙を舞うマエリスの落下地点へ向かって、一直線に駆け出しているのを。
(嘘……狙いは、ボクだけ……!?)
「逃げ、られ──」
『コォロォシィテェヤァルゥゥゥゥゥッ!』
地面に叩きつけられる衝撃が、マエリスの思考を強制的にシャットダウンさせた。
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