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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第一章 Order:精細を描く腕

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被災地にこそ子どもの笑い

地下にいるのに、まるで花火のように遠くからドォン、ドォンと爆発音が聞こえてくる。その度に地面が揺れ、天井からパラパラと砂が落ちてくる。

避難所の子どもたちは恐怖に泣き喚き、大人たちも不安そうな表情を隠せない。


(……空気が悪いな)


マエリスは溜息をつく。


大人たちの不安は、子供に伝染する。子供の泣き声は、大人の焦燥を煽る。

負の連鎖だ。大変、居心地が悪い。


「あ、いたいたー、マエリスちゃん」


そこへ、この場に似つかわしくない間延びした口調が響く。

エレノアがパンの入ったバスケットを片手に、マエリスを見つけて近寄って来た。


「配給のお手伝い中ー。何か食べるー? いっぱいはダメだけど、パンがもらえるみたいだよー」

「……ボクは食欲がないからいいかな。マノンは食べる?」


そう言って手を握るマノンに尋ねるが、反応がない。

マノンも緊張してるのかと思ったが、どうやらジッとエレノアを見上げているようだ。


「どうしたの?」

「……おねえちゃ、いじめる人」

「ぶっ」


マエリスは思わず吹き出す。

日々の授業でフラフラになっていた姿を、マノンは「いじめられている」と捉えていたのか。


「おねえちゃ、マノンのなの。とっちゃやーよ」

「えー、なにこの娘ー、嫉妬? かわいー」


マエリスにしがみ付くマノンの言葉に、エレノアは破顔する。

そして躊躇なくその白い頬をムニムニと揉みくちゃにし始めた。


「んむー! はなせー!」

「はいはい元気元気ー」


マノンは大変嫌そうで、マエリスを中心として小さな追いかけっこが始まる。

ただ、本気で嫌がってはいないのだろう。「やー!」という口調には、恐怖ではなく楽しさが滲んでいる。さすがはエレノア、子供の扱いに慣れている。


精神年齢が近いとは、絶対に言わない。


その様子を見て、マエリスは閃く。

この閉塞した空気。ただ怯えて待つだけの時間は、子供にとって毒だ。


再び響いた「ドォン!」という爆発音に合わせて、マエリスは少し大きな声でマノンに話しかけた。


「聞いた、マノン? 今の音!」

「……おと?」

「そう。あれはね、お父様が魔物を吹き飛ばした音だよ!」


周囲の視線が集まるのを意識しながら、マエリスは芝居がかった調子で言う。


「お父様は『賢者』だからね、ドーンって魔法一つで何百も魔物を倒してるんだよ! あ、ほらまた聞こえた!」

「ドーン!」

「そう、ドーン!」


マエリスが両手を広げて擬音を叫ぶと、マノンも釣られて小さな手を広げる。


「パパ、すごい?」

「すごいよー、悪い魔物を全部やっつけてるんだよ!」

「ドーン!」


二人の楽しそうな声が、避難所に響く。

それに眉を顰める大人もいる。しかし、今まで怯えていた他の子供たちが、涙を止めて耳を澄ませ始めた。


あれは怖い音じゃない。悪い奴をやっつける、頼もしい音なんだ。そう認識が変わっていく。

避難所の空気が、少しだけ緩んだ──その時だった。


「──うるせえぞガキども!!」


怒鳴り声が、マエリスたちの声を塗りつぶした。

近くにいた中年の男が、血走った目で立ち上がっていた。


「大人しくできないのか!? こっちは死ぬかもしれないんだぞ!」

「ひっ……」


男の剣幕に、マノンが怯えて縮み上がる。

せっかく作った「安心」が、一瞬で壊された。


マエリスの瞳から、スッと感情の光が消える。


「……ここにいる人たち、みんな不安と戦ってるんだよ」


マエリスはマノンを背に庇い、男を見上げる。

声色は静かだが、絶対零度の冷たさを孕んでいた。


「だから、そんな怖い声で叫ぶのは止めてくれないかな」

「あぁ!? ガキが何様のつもりだ! 俺はこの状況で気が立ってるんだ!」

「気が立ってる? だから何?」


マエリスは首を傾げる。


「そもそも、この避難所にいる時点でボクたちと同じ『守られる側』でしょ。おじさんも特別じゃない。それとも……皆が弱いって知ってるから、自分より弱い子供相手に威張ってるの?」

「なっ……」

「だとしたら恥ずかしいね、おじさん? いい年して、子供より理性が弱いなんて」


図星を突かれ、男の顔が赤黒く歪む。

拳を振り上げようとした瞬間──マエリスはエレノアのバスケットからパンを取り、男性へ差し出した。


「食べる? お腹が空いてるからイライラするんだよ」

「ぁ……」


毒気を抜かれた男は、振り上げた拳のやり場を失い、呆然とパンを受け取る。

周囲の大人たちからも非難の視線を浴びせられ、男はバツが悪そうに座り込み、パンを齧り始めた。


「……マエリスちゃん、強いねー」


一部始終を見ていたエレノアが、感心したように口笛を吹く。

マエリスはマノンの頭を撫でて落ち着かせながら、小さく答えた。


「別に、正義感じゃないよ」

「そーお?」

「パニックは伝染するからね。ここで誰かが騒ぎ出せば、将棋倒しで全員が危険になる」


マエリスは男を一瞥し、そして震えるマノンを抱きしめる。


「エレノア。ボクが一番重視するのは『環境』だよ。環境を悪化させる要因は、排除する」


それは四歳児の言葉ではなかった。

現場を管理し、リスクを潰す。徹底したエンジニアの思考だった。


「あはは。やっぱ君、面白いわー」


エレノアは楽しそうに笑う。

その時──今までで一番大きな揺れが、避難所を襲った。


「ドーン?」

「そうそう。今のは大きかったね! お父様の必殺技かな?」

「ひっさつわざ!」


その格好いいワードに子どもたちが気を取られている間に、マエリスは使用人を呼び寄せる。


「マノンに常に二人は付いていて」

「マエリスお嬢様はどうされるので?」

「ちょっと、ね」


詳しくは言わず、マエリスは再び周りを見渡し、大家族の兄妹だろうか、子どもが多い地点を見つけた指差した。


「あ、マノン。あっちにいっぱい友達がいるよ。遊んできたら?」

「うん!」


マノンの意識がそっちへ向いたその瞬間に、そっとマエリスはマノンの手を解く。そして静かに避難所の出口へと向かう。


「どーこいくのー?」


いつのまにか後ろにいたエレノアが尋ねてくる。


「さっきの、近かったよね。ボクも出る」

「あれー? 言ったよね、あれで出たら死んじゃうよって」

「前線ならね。だから専守防衛の方針だよ」

「屁理屈じゃないかなーそれ」


呆れたように言うエレノア。マエリスは振り返る。


「それで、エレノアは手伝ってくれないんでしょ?」

「まーねー」

「じゃあ授業をお願いしないと」

「授業?」


エレノアが首を傾げる。


「緊急事態だからって、特例は許さないんでしょ? 確か今日の午前は、乗馬じゃなかった?」


その言葉に、虚を突かれたように目を見開いたエレノアは、直後大きく笑った。


「あ──は、ははははっ! マエリスちゃん狂ってるなー! でも馬がいるかなー?」

「ボロボロに言われたあれがあるじゃん」

「あれは馬とは似つかないけどー……まー体幹トレーニングってことでいっかー」


二人は、地上への階段に足を乗せた。

お読みいただききありがとうございます。


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