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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第一章 Order:精細を描く腕

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最後の属性

それから数日。 屋敷全体がスタンピードへの備えで慌ただしくなる中、マエリスは地下の実験室で、新たな「足」の開発にかかりきりだった。


「──とりあえず、これなら及第点じゃないかな」


マエリスは目の前の鉄塊を見上げ、満足げに頷く。


「まー、うん、私はこんなの見たことないから何とも言えないなー」

「……不格好ですね、お嬢様」

「うっさいな!? 機能美と言ってよ機能美と!」


鎮座しているのは、直径1.5メートルほどの円盤状のチタンプレート。その下部には、これまたチタンで編まれた「スカート」が広がり、地面を覆っている。

上部には、マエリスの身体に合わせた操縦席と、安全柵。そしてゲームコントローラーのような、簡素な操作パネル。


そして何より異様なのが、円盤の両脇から生えた二本の巨大な棒だ。関節部分から突出したシリンダーと、極太のロッド。人間の腕というよりは、建設機械のパーツに近い。

それは「浮遊する玉座」であり、同時に「動く要塞」だった。


「ですがお嬢様。これ、腕は前後に伸縮するだけですよね? 回転も、繊細な剣技もできない……とんでもない欠陥兵器では?」

「それはリフィが人間の動きを求めてるからだよ」


マエリスは反論する。 空圧ショベルに、剣術など必要ない。

必要なのは、目の前の障害物を瓦礫ごと押し潰して進む、圧倒的なトルクだけだ。

……マエリスの最終目標は、人型重機ではあるのだが。悔しいので言わない。


「いーんじゃなーい? マエリスちゃんは前線で戦わないんだしー。接近してくる雑魚を突き飛ばす守護像としては使えるでしょ」

「……ちなみに、これで前線に行ったら?」

「死ぬねー。横と後ろが隙だらけだしー。立ち回り次第で死に方が変わるかなー」

「同意です」

「厳しいなぁ……」


酷評を聞きながら、マエリスは魔法陣を描いた羊皮紙を丸めていく。

それはホバー機構とシリンダー制御、そして本体の生成陣を組み合わせた、カーペットのように広大で複雑怪奇な大作であった。

これをスタンピード本番で、一瞬で展開しなければならない。


「ふ──あぁ──」


緊張が解けたのか、大きなあくびが出る。連日の徹夜と魔力消費で、疲労は限界に達していた。


「ごめんリフィ……マノンの迎えお願い……ボク今日は無理かも……」

「畏まりました。おやすみなさいませ、マエリスお嬢様」

「おやすみーマエリスちゃん。また明日ねー」


リフィは一礼し、エレノアは手を振って部屋を出ていく。マエリスは泥のようにベッドに倒れ込み、そのまま意識を手放した。




しかし、緊張のせいだろうか。満月がまだ空高い時間に、マエリスはふと目を覚ましてしまった。


「……んぅ」


妙に目が冴えてしまい、二度寝ができない。かと言って大きく動けば、隣ですやすやと眠るマノンを起こしてしまうだろう。


「……久しぶりに、見てみようかな」


マエリスは音を立てないように枕の下を漁り、数枚の羊皮紙を引っ張り出す。それは身体強化やバフ・デバフ、そして──治癒や状態異常回復の魔法陣だ。


エレノアの授業が始まる数ヶ月前は、こうして毎晩寝る前に眺めて、解析を試みていた。

最近は授業と開発で忙殺され、すっかり見ることもなくなっていたものだ。


「治癒……」


月明かりの下、マエリスはその複雑な幾何学模様を見つめる。自分が何度も世話になった魔法。 そして──マノンの目を治す可能性がある魔法。


だが、この魔法陣は不完全だ。まるで回路の一部が断線しているかのように、ルーン文字の配列も、魔法陣の図形も、唐突に途切れている箇所が三つもあるのだ。


これが治癒という特殊な魔法の仕様なのか、それともマエリスの知識不足なのか。


「何だって、欠けがあるんだよ……」


欠けがなければ。回路が繋がっていれば。この魔法陣を、マエリスが自由に組み替えることができれば。

フィルターなしでマノンに光を見せてあげられるかもしれないのに。スタンピードでも、役に立てるだろうに。


ふと、窓を見る。いつの間にか外には雪が降っていた。しんしんと、音もなく降り積もる白雪が、月光を浴びてキラキラと輝いている。


そして、偶然だろうか、それとも魔法の神様の気まぐれか。

窓ガラスについた雪の結晶がプリズムとなり、細い月光の束を部屋に招き入れた。


一筋の光が、手元の羊皮紙の上を滑る。それはまるで、見えないペンが定規で線を引くように、一瞬だけ、光が走った。


「──え?」


マエリスの目が、大きく見開かれる。


(あれ? このルーン文字の配置って……氷属性と光属性?)


一瞬の補助線を、目を凝らして幻視しながら、マエリスは頭を回す。


奇跡だけではない。巨大で緻密な魔法陣を描いた経験が、これまでの積み重ねが、複雑に絡み合う魔法陣のパーツを分解していた。


(そういえばこの魔法陣って、84あるルーン文字が全て出てくるんだよな。それも、数字じゃない48のルーン文字は偏りなく均等に)


マエリスは、ルーン文字の分布を目で追っていく。


(この小さい円形の部分だけを見れば、これは水と風の複合……いや上位属性か? それと十字に繋がってる菱形のパーツは……火と土の、上位属性)


マエリスの脳内で、パズルのピースが激しい音を立てて嵌まっていく。今まで「治癒」という独立した属性だと思っていた。だから解析できなかった。

でも、違う。 これは、「上位属性の複合属性」だ。


(六通りある全ての上位属性の配置に見えて、どれとも違う組み合わせ。主体は「火+土」、「水+風」の二つかな。

 でもこれらの組み合わせは未発見の上位属性。どういう性質を持つんだろう……それに魔法陣が起動しない問題は解決してない)


そこで、マエリスは改めて他の魔法陣に目を通してみることにした。


(バフとデバフの魔法陣は、「水+風」属性になってる。身体強化と、状態異常回復は「火+土」属性……こんなところに、未発見の属性のヒントがあったんだ)


そこまでまとめるなら、「火+土」は肉体とか活力に関係してそうであり、「水+風」は他人のステータスに関係してそうである。


(それじゃあそれぞれの属性の要素の組み合わせでそれっぽいのは……『火属性(エネルギー)』、『土属性(豊穣)』で命とか生命? 水と風はなんだろう……でも肉体の対の精神に関係してるはずだから、仮で精神属性としよう)


そう考えると、これは極めて緻密な魔法陣だ。綱渡りのようなバランスに基づいて描かれた芸術だ。


(ならこの欠けもわざとか。わざわざ隙間を作る意味は何がある……?)


首を傾けたり、魔法陣を回したりして、何か発見はないかと探す。

すると、三つの隙間が、まるで縦長の二等辺三角形の頂点のように見える角度を見つけた。


(……もしかして)


ゆっくりと。音や振動を出さないように起き上がって、魔法陣をベッドの上に置く。

そして三つの隙間に指を置き、魔力を同時に流してみる。


すると──通った。魔力が通った感触がある。でも起動には至らない。まだ何かが足りない。


(この隙間は、魔力注入スポットであり、起動順番を変更するパーツか!)


通常、魔法陣は魔力を入れると外側のパーツから起動していく。しかし治癒の魔法陣は、魔力を注入した箇所の近くからパーツが起動しているように見えた。


(この距離に意味が? それとも形? この隙間の形は三つとも少し違うけれど……)


指の長さで、厚さで、開いた距離で測ってみようとあれこれ試している最中、拳の大きさと三角形の辺の大きさが近いことに気づく。


「……まさか」


思わず声が漏れる。そしてマエリスは両手を組んで、小指を上の隙間に、手首を下の隙間のそれぞれに置き、魔力を注入する。


「……嘘、でしょ」


果たして、魔法は起動した。マエリスの手を、見覚えのある魔法の光が覆っている。


跪き、癒しを賜るその姿はまるで神秘の奇跡のようだ。

だがそれは神秘でも奇跡でもない。 物理的かつ生物学的な、ただの「化学反応」の応用だったのだ。


「作ったやつ、天才、かよ……」


静寂な夜に、マエリスの震える声が溶けていく。


マエリスは羊皮紙を強く握りしめた。 スタンピードという死の予兆の夜に、少女は「命を繋ぐ数式」を見つけ出したのだ。

お読みいただききありがとうございます。


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