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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第一章 Order:精細を描く腕

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スタンピードとは

翌日は、座学の授業から始まった。


「ちょうど良いしー、今日はスタンピードについて授業しよっかー」

「……よろしくお願いします」


タイムリーすぎる話題に、マエリスは身構える。


「そもそもー、スタンピードとは何かなーマエリスちゃん?」

「えっと……魔物が大量に押し寄せる現象?」

「んー、それじゃあただの異常繁殖だねー。五点」

「手厳しい」


エレノアがマエリスの額をコツンと突く。


「スタンピードは別名、『泥流』とも呼ばれる……生物の形をした、ただの『災害』だよー」


そう言って、エレノアは指を振り、空中に年表を描く。

そこには過去の被害規模が記されていたが、どうも桁の様子がおかしい。


「スタンピードはね、ダンジョンとか非人類領域──『魔の森』とかのキャパシティを超えた魔力がー、魔物という形をとって溢れ出す現象なんだー。

 だから発生源が大きい程周期は長くなってー、周期が長ければ長いほど、溜め込んだエネルギー……つまり魔物の数は多くなる」

「今回の『魔の森』だと、規模はどれくらいになりますか?」

「『魔の森』の面積知ってるー? 大陸の三割だよー? 規模だけで言うならー、大規模寄りの中規模かなー」

「大陸の三割飲み込んでて、まだ中規模に収まるの?」

「そうだねー」


あっけらかんと言うエレノアに、マエリスの頭が痛くなる。


「言葉だけじゃ、分からないんですけど」

「えー? それならー……『森の木の数』だけ魔物が押し寄せるって思えばいいんじゃなーい?」

「は……!?」


その言葉に、マエリスは目を剥く。

森の、木の数?

一本二本の話ではない。視界を埋め尽くす緑、その全てが「敵」に変わるということか?

何百万、何千万という単位だ。


(……待って。ボクが昨日作った腕、一回突くのに数秒かかるんだけど。これじゃあ効率も魔力も全く足りない……!?)


マエリスの顔色が青ざめるのを見て、エレノアは楽しそうに続ける。

ここからが本題だと言わんばかりに。


「よく勘違いされるからー、異常繁殖とスタンピードの決定的な違いを教えるねー。

 まず一つ。『多種族混成』であること」

「……普通は、狼と兎は一緒にいませんよね」

「そー。でもスタンピードでは、捕食者も被食者も関係なく、一つの『濁流』になって押し寄せてくる。

 あ、でもお腹が減ったら隣の魔物を食べるよー。

『共食い』も予兆の一つだねー」

「うげっ……」

「そして二つ目。厄介なことにー、『死骸が残らない』んだー」

「え?」


マエリスは耳を疑う。

魔物は倒せば素材が残る。魔石や毛皮になるはずだ。


「スタンピードの魔物はね、濃すぎる魔力の塊だからー、死ぬと霧散してマナに戻っちゃうの。

 これの意味、わかるー?」

「素材が回収できない……じゃなくて、『死体の山ができない』……?」

「ご名答ー」


通常、大量の魔物を倒せば、その死骸がバリケードになり、後続の進軍を遅らせる。

だが、スタンピードは違う。

倒しても倒しても、道は綺麗なまま。後続はトップスピードで突っ込んでくる。


文字通り、止まらない『泥流』だ。


「そして三つ目。『指揮官がいない』こと」

「いないんですか? ボスを倒せば止まるとか……」

「ないよー。まー指揮官級の強さの個体はゴロゴロいるけどー、統率してるわけじゃないからねー。

 あいつらはただ、本能で『人間の領域』を塗り潰しに来てるだけだから」


頭を潰せば終わる戦争ではない。

最後の一匹まで、草むしりのように駆除し続けなければならない。


「最後に、これが一番大事なことなんだけどー……『絶対に逃げない』」


エレノアの声のトーンが、スッと下がった。


「異常繁殖ならー、群れを半分くらい削ったり、指揮官を倒せば恐怖で逃げていく。

 でもスタンピードの魔物に、生存本能はないよー。最後の一匹になるまで、心臓が止まるまで、人間を殺そうとしてくる」

「……」


マエリスは想像する。

痛みを感じず、仲間が死んでも怯まず、死体の山すら築かせず、数千万の軍勢が迫ってくる光景を。


それは確かに、生物との戦争ではない。

津波や地震と戦うようなものだ。


「……勝てる気がしません」

「そーお? まーでも、ドラゴンの異常繁殖よりはマシじゃない?

 あ、でも油断しないでねー? スタンピードの魔物は通常よりバフかかってるからー。その質も毎回違うからー、過去の経験が参考にならないんだよねー」


救いがない。

マエリスは昨日完成した「腕」を思い浮かべる。

あれは強い。硬い。


でも──「足」が止まっていたら、この泥流に飲み込まれて終わりだ。


(……逃げながら戦う機動力。やっぱり、今のままじゃ絶対に足りない!)


「先生……授業、ありがとうございました」

「いーえー。しっかり準備してねー、マエリスちゃん?」


エレノアの笑顔は、愉悦に満ちていた。

お読みいただききありがとうございます。


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