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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第一章 Order:精細を描く腕

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素材がダメならば

「う、腕が……死ぬ……」


部屋にあった羊皮紙のストックを殆ど使い切る勢いで魔法陣を描いていたマエリスだが、ついに肉体に限界が来ていた。右手は痙攣し、インクの染みで黒く汚れている。


「こんな細かいのをよくもまー、定規もなしに何十枚も描けるねー」

「それがマエリスお嬢様です……紅茶をお持ちしましたよ」

「あー、甘ぁい……染みるぅ……糖分が脳に届く……」


悶絶するマエリスの様子を楽しそうにソファから眺めるエレノアと、テキパキと失敗作の山を片付けるリフィ。


そう、これらは全て失敗作だ。実験は難航していた。当初目指していた「原子レベルでのミクロ指定」は、魔法陣の記述量が膨大になりすぎて破綻したのだ。

実現には新たなハード──例えば、魔法陣を自動で描画・積層するような新しい魔法体系──が必要になるが、それはまた別の研究になってしまう。


こうなると材質自体の強化は難しいため、構造で工夫するしかない。


(日本生まれだから、玉鋼とか日本刀の積層構造には憧れがあったんだけど……今のボクじゃ無理だ)


落ち込んだ内心を次への目標にすり替えて、マエリスは立ち上がる。


「素材選びからやり直しだね。鉄は重すぎる。もっと軽くて、強い金属……」

「ミスリルとかー、オリハルコンとか使うー?」

「魔法金属って、そんなものを出す魔法も用意する予算もどこにあるのさ」

「私のポケットマネー?」

「怖いからいいです!」


マエリスは魔女の誘惑を振り切り、リフィに向き直った。


「とりあえずリフィ、明日もやるから紙の補充をお願いね。あと、もっと強いインクも」

「畏まりました」




完成形が出来上がったのは、それから数日後の事だった。

羊皮紙を切らし、インクも切らし、マエリスの睡眠時間も削り切った果てに。

床一面には張り合わされた羊皮紙が広げられ、その上には大量の小さな魔法陣を幾何学模様のように組み合わせた、巨大な複合魔法陣があった。


「こ、今度こそ、お願い……!」


マエリスは祈るように魔法陣を起動する。中心から、リフィの髪色のような明るい銀色の輝きが立ち上る。

まず現れたのは、六角柱の形状をした金属。しかし、それはただの柱ではない。


「……穴だらけですね」

「スカスカだねー」


二人が言う通り、その内部も無数の六角形でくりぬかれ、蜂の巣のような網目になっている。

一見すると脆そうに見えるその柱へ、仕上げとばかりに『青い炎』が這い上がっていく。風魔法でできる限りに減圧し、純粋な熱量だけで焼き締める工程だ。


「いけっ……いけっ……!」


炎が消え、冷却の白煙が晴れた時──その銀色の柱は、三人の目の前に鎮座した。

継ぎ目一つない、美しい金属の結晶として。


「エレノア!」

「はいはーい……うん、ムラもないしー、内部まで完全に均質化してる。

 強度も──おー、すごいね。私がデコピンしても凹まないかも」

「リフィ!」

「失礼します」


リフィが掃除用のモップの柄で、六角柱を強打する。

ガィン!! という甲高い音が響き、モップの柄が折れた。


「よしっ!」


エレノアのお墨付きとリフィの結果に、マエリスはガッツポーズをする。


今回、参考にしたのは『段ボール』と『ハニカム構造』だ。この柱の壁面は五層構造になっており、三層の平らな板の間に、波形の板を挟み込んで強度を出してある。

さらに内部全体を六角形の網目で構成し、徹底的に軽量化した。


そして材質は──『チタン』を使っている。決して、タングステンの原子番号をド忘れしたからではない。決して……まあ、タングステンは重すぎてアームに向かないし、結果オーライだ。


「それにしても、チタンって面倒な素材だったなー……」

「ええ。昨日は白い粉になって崩れ落ちた時はどうなるかと」

「酸化チタンって、あんなに脆いの知らなかったよ」


だからこそ、風魔法の減圧──真空に近似した「酸素の遮断」と、火魔法による「加熱」を同時に行う必要があった。

酸素がなくても魔力のごり押しで火が出せる、魔法って素晴らしい。


「仕上げの『青い炎』は、酸素を追い出しつつ、積層した板を熱で馴染ませるためのもの。確か、テレビでは『拡散接合』って言ってたっけ」


接着剤も溶接も使わず、熱と圧力で原子を移動させて一体化させる技術。これにより、このパーツは板を張り合わせたものではなく、継ぎ目のない「一つの巨大な結晶」のような強度を得た。


「これで『軽くて硬い』最強の骨格ができた!」


手間も、魔力消費も馬鹿にはならないが、一先ず第一関門は突破だ。

将来的には、青い炎の中からゴーレムの腕が伸びてくるという演出にもなるだろう──その想像はマエリスの厨二心を大いに刺激した。


「……エレノア」

「言いたいことはわかるよー、リフィちゃん」


一方で保護者組は目を見合わせる。


「これ、ゴーレムの腕になるのですよね」

「ゴーレムではないよねー。どっちかっていうと建物だよねー」

「実物を見ても、完成形が浮かびませんね」

「私もー。いやー面白いねー」


そして二人は、ブツブツと次の工程を呟くマエリスを見る。


「あとは指を作って、関節を入れて──あ、モーターがないじゃん!? え、電磁石をどうやって作ろう……コイル?  銅線? エナメル線の構造なんて知らないし、そもそも絶縁体がない!?」

「まだ先があるみたいだよー?」

「お嬢様はどこまで見ているのでしょうね」

「ねー。本当に見ていて飽きないなー」


エレノアの言葉に、珍しくリフィは頷いた。

お読みいただききありがとうございます。


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