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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第一章 Order:精細を描く腕

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上位属性

「あははは! マエリスちゃん達、いつもこんなことやってんのー!?」

「ご無事ですか、お嬢様?」

「なんとか……」


盛大に爆発した魔法陣。エレノアは大笑いし、リフィはマエリスを庇って覆い被さった。

結果マエリスは、手足に軽い怪我をするだけで済む。


「あーあー、女の子なのに珠の肌を傷つけちゃってー。治してあげるからおいでー」


エレノアが手招きする。彼女に治療されながら、マエリスは床を凝視する。

砂まみれのカーペット。その中にキラリと光るものを見つけて拾う。

特徴的な光沢──それは間違いなく金属の光だった。


「うん、理論は間違ってない!」

「どういうことでしょうか、お嬢様」


リフィが問う。

マエリスは興奮冷めやらぬまま、羊皮紙にペンを走らせる。


「前にさ、光は火と水の要素を合わせたものって言ったよね」

「論文のことですね。はい、そう聞きました」

「面白そうな話をしてるねー。それで?」

「それでここ最近考えてた仮説なんだけど、上位属性って単純な足し算じゃなくて、ミクロな……もっと細かい『構成要素』の化学反応なんじゃないかって」


火属性(エネルギー)』+『水属性()』=『光属性』

水属性(水分子)』+『土属性(固体)』=『氷属性』

土属性(金属分子)』+『風属性(電子配列)』=『鉱属性』

風属性(電子)』+『火属性(エネルギー)』=『雷属性』


「こういう要素の掛け合わせで、上位属性は生み出されてるってことだよ」

「うーん? 分子とか電子とかはよく分からないけどー、結果として光も鉄も生まれてるわけだー」


エレノアがマエリスの手の上の金属の粒を摘み上げる。

その瞳は金属の出来栄えよりも、マエリスの「思考回路」を値踏みしているようだ。


「まあ、組み合わせが安定するバランスを探すのが大変なんだけどね。上位属性の魔法は暴走しやすいみたいでさ」

「体張ってるんだねー……」


しみじみとエレノアが呟く。

そこで、図を見ていたリフィが、ふと眉を顰めた。


「ですが……この表だと『火属性と土属性』、『水属性と風属性』の組み合わせがないようですが」

「そうなんだよ!」


マエリスは我が意を得たりと指を鳴らす。


「つまりそれって、まだ一般には発見されてない、あるいは定義されてない『未知の上位属性』があるかもしれないってことだよ! ワクワクしない?」


目を輝かせるマエリス。

それを見て、エレノアの口元が、三日月のように深く、妖しく歪んだ。


「……『発見されてない』、かー」


その声はマエリスには届かなかったようで。


「まずは今日中に鉱属性を安定させる! 明日明後日で残りの上位属性も安定させる! そしてその後はいよいよ、ゴーレムに着手だー!」

「せっかくだしー、明日の筆致はマエリスちゃんの論文にしよっかー。まだ完成してないんでしょー?」

「……え? いきなり、その、長くないですか……?」

「えー? 何か言ったー?」

「やらせていただきます! エレノア先生は気が利くなー」


マエリスの自棄な声に、エレノアとリフィは吹き出した。




翌日。フラフラとした足取りで戻ってきたマエリス。その手には羊皮紙の束があり、部屋の扉を開けるなりそれをリフィに押し付けた。


「これ、お父様に渡してきて……」

「これは……筆致の授業で書いた論文ですか?」

「字の綺麗さだけは合格点もらってるから、あとは内容確認……どうか合格でありますように……」

「わ、わかりました。お嬢様、私がいない間に実験を始めないでくださいね」

「はーい……」


そのままマエリスは力なくベッドに倒れ込んだ。

リフィが部屋を出ていき、入れ替わりでエレノアが入ってくる。


「生きてるー?」

「死んでたら犯人はエレノアだー……」

「生きてそうだから大丈夫だねー」


エレノアがマエリスの頬を突く。


「ねーマエリスちゃん」

「なに?」

「もしも私がー、マエリスちゃんの知らない魔法を、ぜーんぶ教えてあげるって言ったらどうするー?」


エレノアの声は甘く、粘りつくようだ。


「え……?」

「苦労して実験しなくても、答えが分かれば一瞬だよー。知りたいでしょー?」

「それは……」


開発者にとって、未知の仕様書は喉から手が出るほど欲しい。

疲労のせいか、マエリスの思考が揺らぐ。その瞳が、エレノアの金色の瞳に吸い込まれそうになり──


「戻りました──何を、されているので?」


リフィが部屋に戻ってきて、世界が正常に戻った。


「んー? 遊んでただけだよー」

「本当でしょうね……? 嫌な予感がして、論文は他のメイドに任せて早く戻ってきたのですが」

「信用ないなー。ほらマエリスちゃん起きてー」

「うぅ……エレノア、ボクに何か言おうとした?」

「気のせいじゃない?」


部屋を何度も泥だらけにしたが、この日マエリスは氷属性をものにした。




さらに翌日。


「おねえちゃ!」

「マノン! 毎日見てるはずなのに、会うのは久しぶりな気がするね」


部屋に戻ると、散歩から帰ってきたマノンと出くわした。

そこへエレノアが近寄り、マノンの目隠しをじっと観察し始める。


「へー……これがマエリスちゃんの作った魔道具かー」

「……分かるの?」

「面白いねー。マノンちゃんもパーツの一つになるように魔力を内部で循環させてるんだー……吸い上げすぎた魔力は還元して消費を最小化……発想が常人離れしてるねー」


エレノアは感心したように、あるいは呆れたように笑う。

マエリスの技術の特異性が、ここでも証明された形だ。


「苦労したんですよ、本当に」

「あの時は毎日のように昼夜問わず爆発していましたね……」

「いや、今は夜だけじゃん」

「普通は爆発自体がないものです」


リフィの冷ややかなツッコミを背に、マエリスは最後の実験に取り掛かる。

そして──


バチバチッ!!


「「きゃっ!?」」

「おおお痺れるぅぅ!!」


部屋中に青白い閃光が走り、マエリスとリフィ、そしてマノンの髪の毛が静電気で一斉に逆立った。


「あははは! 芸術的な爆発だねー!」

「わ、笑ってないで抑えてください! お嬢様、供給を止めて!」


ドタバタの末、静電気まみれになりながらも──マエリスは親指を立てた。


「……雷属性、コンプリート!」


これでマエリスは、『上位属性』という名の手札を全て揃えたことになる。

いよいよ、本番だ。

お読みいただききありがとうございます。


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