上位属性
「あははは! マエリスちゃん達、いつもこんなことやってんのー!?」
「ご無事ですか、お嬢様?」
「なんとか……」
盛大に爆発した魔法陣。エレノアは大笑いし、リフィはマエリスを庇って覆い被さった。
結果マエリスは、手足に軽い怪我をするだけで済む。
「あーあー、女の子なのに珠の肌を傷つけちゃってー。治してあげるからおいでー」
エレノアが手招きする。彼女に治療されながら、マエリスは床を凝視する。
砂まみれのカーペット。その中にキラリと光るものを見つけて拾う。
特徴的な光沢──それは間違いなく金属の光だった。
「うん、理論は間違ってない!」
「どういうことでしょうか、お嬢様」
リフィが問う。
マエリスは興奮冷めやらぬまま、羊皮紙にペンを走らせる。
「前にさ、光は火と水の要素を合わせたものって言ったよね」
「論文のことですね。はい、そう聞きました」
「面白そうな話をしてるねー。それで?」
「それでここ最近考えてた仮説なんだけど、上位属性って単純な足し算じゃなくて、ミクロな……もっと細かい『構成要素』の化学反応なんじゃないかって」
『火属性』+『水属性』=『光属性』
『水属性』+『土属性』=『氷属性』
『土属性』+『風属性』=『鉱属性』
『風属性』+『火属性』=『雷属性』
「こういう要素の掛け合わせで、上位属性は生み出されてるってことだよ」
「うーん? 分子とか電子とかはよく分からないけどー、結果として光も鉄も生まれてるわけだー」
エレノアがマエリスの手の上の金属の粒を摘み上げる。
その瞳は金属の出来栄えよりも、マエリスの「思考回路」を値踏みしているようだ。
「まあ、組み合わせが安定するバランスを探すのが大変なんだけどね。上位属性の魔法は暴走しやすいみたいでさ」
「体張ってるんだねー……」
しみじみとエレノアが呟く。
そこで、図を見ていたリフィが、ふと眉を顰めた。
「ですが……この表だと『火属性と土属性』、『水属性と風属性』の組み合わせがないようですが」
「そうなんだよ!」
マエリスは我が意を得たりと指を鳴らす。
「つまりそれって、まだ一般には発見されてない、あるいは定義されてない『未知の上位属性』があるかもしれないってことだよ! ワクワクしない?」
目を輝かせるマエリス。
それを見て、エレノアの口元が、三日月のように深く、妖しく歪んだ。
「……『発見されてない』、かー」
その声はマエリスには届かなかったようで。
「まずは今日中に鉱属性を安定させる! 明日明後日で残りの上位属性も安定させる! そしてその後はいよいよ、ゴーレムに着手だー!」
「せっかくだしー、明日の筆致はマエリスちゃんの論文にしよっかー。まだ完成してないんでしょー?」
「……え? いきなり、その、長くないですか……?」
「えー? 何か言ったー?」
「やらせていただきます! エレノア先生は気が利くなー」
マエリスの自棄な声に、エレノアとリフィは吹き出した。
翌日。フラフラとした足取りで戻ってきたマエリス。その手には羊皮紙の束があり、部屋の扉を開けるなりそれをリフィに押し付けた。
「これ、お父様に渡してきて……」
「これは……筆致の授業で書いた論文ですか?」
「字の綺麗さだけは合格点もらってるから、あとは内容確認……どうか合格でありますように……」
「わ、わかりました。お嬢様、私がいない間に実験を始めないでくださいね」
「はーい……」
そのままマエリスは力なくベッドに倒れ込んだ。
リフィが部屋を出ていき、入れ替わりでエレノアが入ってくる。
「生きてるー?」
「死んでたら犯人はエレノアだー……」
「生きてそうだから大丈夫だねー」
エレノアがマエリスの頬を突く。
「ねーマエリスちゃん」
「なに?」
「もしも私がー、マエリスちゃんの知らない魔法を、ぜーんぶ教えてあげるって言ったらどうするー?」
エレノアの声は甘く、粘りつくようだ。
「え……?」
「苦労して実験しなくても、答えが分かれば一瞬だよー。知りたいでしょー?」
「それは……」
開発者にとって、未知の仕様書は喉から手が出るほど欲しい。
疲労のせいか、マエリスの思考が揺らぐ。その瞳が、エレノアの金色の瞳に吸い込まれそうになり──
「戻りました──何を、されているので?」
リフィが部屋に戻ってきて、世界が正常に戻った。
「んー? 遊んでただけだよー」
「本当でしょうね……? 嫌な予感がして、論文は他のメイドに任せて早く戻ってきたのですが」
「信用ないなー。ほらマエリスちゃん起きてー」
「うぅ……エレノア、ボクに何か言おうとした?」
「気のせいじゃない?」
部屋を何度も泥だらけにしたが、この日マエリスは氷属性をものにした。
さらに翌日。
「おねえちゃ!」
「マノン! 毎日見てるはずなのに、会うのは久しぶりな気がするね」
部屋に戻ると、散歩から帰ってきたマノンと出くわした。
そこへエレノアが近寄り、マノンの目隠しをじっと観察し始める。
「へー……これがマエリスちゃんの作った魔道具かー」
「……分かるの?」
「面白いねー。マノンちゃんもパーツの一つになるように魔力を内部で循環させてるんだー……吸い上げすぎた魔力は還元して消費を最小化……発想が常人離れしてるねー」
エレノアは感心したように、あるいは呆れたように笑う。
マエリスの技術の特異性が、ここでも証明された形だ。
「苦労したんですよ、本当に」
「あの時は毎日のように昼夜問わず爆発していましたね……」
「いや、今は夜だけじゃん」
「普通は爆発自体がないものです」
リフィの冷ややかなツッコミを背に、マエリスは最後の実験に取り掛かる。
そして──
バチバチッ!!
「「きゃっ!?」」
「おおお痺れるぅぅ!!」
部屋中に青白い閃光が走り、マエリスとリフィ、そしてマノンの髪の毛が静電気で一斉に逆立った。
「あははは! 芸術的な爆発だねー!」
「わ、笑ってないで抑えてください! お嬢様、供給を止めて!」
ドタバタの末、静電気まみれになりながらも──マエリスは親指を立てた。
「……雷属性、コンプリート!」
これでマエリスは、『上位属性』という名の手札を全て揃えたことになる。
いよいよ、本番だ。
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