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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第一章 Order:精細を描く腕

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リフィとエレノア

「君は本当に、面倒ごとに好かれているようだね……」

「どういう意味ですか、お父様」


ミシェルが頭を抱えながら告げた言葉に、マエリスは心外だと反論する。

しかしミシェルは無視して、応接セットのソファにふんぞり返る魔女へ向き直った。


「エレノア・フェリーク女史……まさかあなたほどの人が来るとは」

「ちょうど良かったんだよねー。マエリスちゃんに会ってみたかったしー」

「マエリスの教育係の公募はまだ出していないはずだが、どこからその話を聞いたのかな?」

「さあねー。風の噂ってやつー」


のらりくらりとかわすエレノア。ミシェルは深く溜息を吐き、値踏みするように彼女を睨んだ。

追い返せば、何をしでかすか分からない。ならば、目の届く範囲に置いて監視する方がマシか。


「では条件の確認だが、守秘義務は絶対。それとマエリスの実験の危機管理。そして越権行為の禁止だ。給金は弾むが、総額でも君には安いだろうね」

「いいよー。お金なんて価値ないもん、私たち」


『私たち』──その一言にマエリスは引っかかったが、この場で聞くことでもないので、疑問を喉の奥で飲み込む。

ミシェルもそこを突っ込む気はないようで、話が進んだ。


「そうか。君に否がないならこちらも問題はない」

「うんうん」

「では最後だが──なぜ君は、マエリスをずっと抱えているんだい?」


エレノアの膝の上。マエリスは抱きかかえられ、テディベアのように固定されていた。逃げようとしても、見えない力で抑え込まれているように動けない。


「なんかー、サイズ感が気に入った感じー。手とかひんやり柔らかで気持ちいいんだよねー」

「……あまり遊んでくれるな。教育係として採用する以上、振る舞いに責任を持ってもらう」

「はーい」

「では早速今日から頼むよ。くれぐれも──条件を守ってくれたまえ」

「いや助けてくださいよお父様」


マエリスのツッコミは空振りに終わった。




マエリスはそのままエレノアに抱えられ、連行された。視界の端には、いつにも増して能面じみたリフィが無言で追従してくる。背中に冷たい汗が流れた。


「へー、なんか普通の部屋だね」

「普通の部屋ですから」


自室に運び込まれたマエリスは、即座に返した。


「そうじゃなくてー。もっとこう、魔法的な防御とかあると思ってんだけどなー。よく無事だったね?」

「一度吹き飛びましたよ」

「あーやっぱそうだよねー」


納得するようにエレノアは頷く。


「それとさー、口調固くない?もっとラフな感じでいいよー」

「……分かった。じゃあ遠慮なく言うね。降ろして」

「えー、しょうがないなー」


エレノアは不承不承とマエリスを降ろす。

マエリスは床に着地するなり、乱れた服を直して睨みつける。


「それで、教育係って? ボク、お父様から何も聞かされてないんだけど」

「えっとねー、けっこー全般的な教育だったかなー」


顎に指を添えて、エレノアは思い出すようにぽつりぽつりと列挙していく。


「筆致でしょー、刺繍でしょー、楽器でしょー、それと作法と乗馬とー、あと基礎的な学問だったかなー。あ、社交ダンスを忘れてた」

「文芸も抜けていますよ」

「あーそうだった。リフィちゃんありがとー」


エレノアが指を折って数えるたびに、マエリスの顔から生気が失われていく。


「……え、八つも……?ボクの自由時間は……?」

「マエリスちゃんの頑張り次第じゃない?まー正直私は、マエリスちゃんが魔法の研究してるところを見たいからー、習い事と称して研究をさせてあげてもいいんだけど──」

「旦那様に報告しますよ」

「ぶーぶー、おーぼーだー!」


リフィの牽制にエレノアが口を尖らせる。しかしリフィは表情を一切崩さず、じっとエレノアを見ている。

流されているのを知ってか、エレノアは肩をすくめた。


「なーんて、まあ引き受けた仕事だしー、頑張ろっかなー……お、これなにー?」

「あ、ちょっと!」


エレノアの興味が、机の上の「書き損じの魔法陣」に向いた。 彼女が背を向け、羊皮紙を手に取ったその一瞬。


「マエリスお嬢様」


氷のような声が、マエリスの耳元を打った。

リフィだ。いつの間にか背後に忍び寄っていた。


「なに、リフィ?」

「差し出がましいことをお許しください。ですが二つだけ」


リフィの唇が動く。エレノアには聞こえない、ギリギリの音量で。


「まず──これからエレノアと共に過ごす時間が増えると思います。ある程度、彼女の能力を信用するのは構いません。ですが、エレノア・フェリークという女を味方だと思うことだけは、絶対にお止めください」

「え、う、うん」


リフィの瞳には、かつてないほどの警戒色が宿っていた。

「いきなり人の机を物色するような女を信頼できるわけ……」と思いながら、マエリスは頷く。


「それともう一つ。私から魔法を教わる条件を忘れていませんね?」

「え? 質問だけー、とか……リフィの正体を探らないでー、とか?」

「はい。私たち(・・)の正体について、詮索してはいけません──ゆめゆめ、お忘れなきよう」


私、たち。 リフィと、ルピと、ロルカ。あるいは──


「んー? リフィちゃん、何か言ったー?」


エレノアが羊皮紙を持ったまま振り返る。 その時にはもう、リフィは完璧な「使用人の顔」に戻っていた。


「いえ。お嬢様の身だしなみが乱れておりましたので」

「そー? ま、いっかー」


ヘラヘラと笑う魔女と、能面のメイド。二つの怪物の間に挟まれ、マエリスは身震いした。

何か得体のしれないものが、この部屋に満ち始めている。

お読みいただききありがとうございます。


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