ルピの実家
「火を入れてないから大丈夫だと思ってたんだけど……」
「見事に爆発しましたね」
「でも今回は軽傷で済んだからセーフでしょ」
「全身打撲を軽傷と言い切れる令嬢は、世界広しといえどマエリスお嬢様だけでしょうね」
「どうしたのリフィ、急に褒めて」
「褒めていません」
リフィの手が、マエリスの腕にかざされる。淡い光と共に、どす黒く変色していた皮下出血が、みるみるうちに肌色へと戻っていく。
(……何度見てもすごい。血管の修復と、鬱血した血液の分解吸収が同時に起きてる……? どんな代謝速度……?)
マエリスは自分の肌を凝視する。痛みも消えた。細胞レベルでの高速再生。やはり治癒魔法のメカニズムは興味深い。解明できれば、医療革命どころの話ではない。
「……はい、治療完了です」
「ありがとう。部屋、泥だらけにしちゃったけど大丈夫?」
「それなら問題ありません。魔力で現れたものは、時間経過で霧散しますから。燃えたり濡れたりした結果は戻せませんが」
「まあ、質量保存の法則を無視して『物質』を永続させるなんて、神様の領域だよねぇ」
「超高密度の魔力であれば可能だそうですが」
「それこそお伽噺レベルじゃん」
マエリスは肩をすくめる。彼女の魔力量は年齢にしては驚異的に多いが、物質創造の領域には程遠い。
「さて。これで元通りですが……」
コンコン、と扉がノックされた。
「失礼します。お嬢様、リフィをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、うん。いいよ」
執事に呼ばれ、リフィが部屋を出ていく。戻ってきたのは三十分後だった。
「どうしたの?」
「冬の勤務シフトの調整でした。ルピとロルカが、家の都合で急遽戻らなければならないそうで」
「ああ、そういう。実家で何かあったのかな?」
マエリスは首を傾げる。 感染症の流行ではないらしいが、二人同時に呼び出しとは穏やかではない。
「冠婚葬祭かなぁ。ねえリフィ、ルピの実家ってどこ? 近く?」
「距離は近いですが、場所は特殊ですね。彼女らは『魔の森』の境界線で暮らす部族の出ですから」
「……はい?」
マエリスは耳を疑った。
魔の森。強力な魔獣が跋扈する、人類の生存圏外。マギカ辺境伯領が命がけで守っている「北の脅威」そのものだ。
「ぶ、部族って……あそこで生活してるの? あのドジっ子のルピが?」
「ええ。遊牧民ですね。狩猟と採取、そして魔獣の間引きを生業とする戦闘部族です」
「戦闘部族!?」
あの「あぅぅぅ」と泣いて逃げ回るルピが、魔獣を狩るアマゾネス? 想像がつかない。
「恐らく、冬を前にして魔獣の動きが活発化したのでしょう。戦力として呼び戻されたのだと思います」
「そ、そうなんだ……。人は見かけによらないね……」
「ですね。──さて、私どもの話はこれで。実験はどうされますか?」
「当然、続行だよ! あと少しで水属性のルーン文字が解読できそうなんだ!」
「爆発はなしでお願いします」
「善処はする」
「……胃薬の経費、申請しておきますね」
リフィは深々と溜息を吐いた。
「ふーん? へえー? 君がリフィちゃんのお気に入り?」
「あの……?」
翌日、マエリスは妙に気安い女性に絡まれていた。
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