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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第一章 Order:精細を描く腕

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ルピの実家

「火を入れてないから大丈夫だと思ってたんだけど……」

「見事に爆発しましたね」

「でも今回は軽傷で済んだからセーフでしょ」

「全身打撲を軽傷と言い切れる令嬢は、世界広しといえどマエリスお嬢様だけでしょうね」

「どうしたのリフィ、急に褒めて」

「褒めていません」


リフィの手が、マエリスの腕にかざされる。淡い光と共に、どす黒く変色していた皮下出血が、みるみるうちに肌色へと戻っていく。


(……何度見てもすごい。血管の修復と、鬱血した血液の分解吸収が同時に起きてる……? どんな代謝速度……?)


マエリスは自分の肌を凝視する。痛みも消えた。細胞レベルでの高速再生。やはり治癒魔法のメカニズムは興味深い。解明できれば、医療革命どころの話ではない。


「……はい、治療完了です」

「ありがとう。部屋、泥だらけにしちゃったけど大丈夫?」

「それなら問題ありません。魔力で現れたものは、時間経過で霧散しますから。燃えたり濡れたりした結果は戻せませんが」

「まあ、質量保存の法則を無視して『物質』を永続させるなんて、神様の領域だよねぇ」

「超高密度の魔力であれば可能だそうですが」

「それこそお伽噺レベルじゃん」


マエリスは肩をすくめる。彼女の魔力量は年齢にしては驚異的に多いが、物質創造の領域には程遠い。


「さて。これで元通りですが……」


コンコン、と扉がノックされた。


「失礼します。お嬢様、リフィをお借りしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、うん。いいよ」


執事に呼ばれ、リフィが部屋を出ていく。戻ってきたのは三十分後だった。


「どうしたの?」

「冬の勤務シフトの調整でした。ルピとロルカが、家の都合で急遽戻らなければならないそうで」

「ああ、そういう。実家で何かあったのかな?」


マエリスは首を傾げる。 感染症の流行ではないらしいが、二人同時に呼び出しとは穏やかではない。


「冠婚葬祭かなぁ。ねえリフィ、ルピの実家ってどこ? 近く?」

「距離は近いですが、場所は特殊ですね。彼女らは『魔の森』の境界線で暮らす部族の出ですから」

「……はい?」


マエリスは耳を疑った。


魔の森。強力な魔獣が跋扈する、人類の生存圏外。マギカ辺境伯領が命がけで守っている「北の脅威」そのものだ。


「ぶ、部族って……あそこで生活してるの? あのドジっ子のルピが?」

「ええ。遊牧民ですね。狩猟と採取、そして魔獣の間引きを生業とする戦闘部族です」

「戦闘部族!?」


あの「あぅぅぅ」と泣いて逃げ回るルピが、魔獣を狩るアマゾネス? 想像がつかない。


「恐らく、冬を前にして魔獣の動きが活発化したのでしょう。戦力として呼び戻されたのだと思います」

「そ、そうなんだ……。人は見かけによらないね……」

「ですね。──さて、私どもの話はこれで。実験はどうされますか?」

「当然、続行だよ! あと少しで水属性のルーン文字が解読できそうなんだ!」

「爆発はなしでお願いします」

「善処はする」

「……胃薬の経費、申請しておきますね」


リフィは深々と溜息を吐いた。




「ふーん? へえー? 君がリフィちゃんのお気に入り?」

「あの……?」


翌日、マエリスは妙に気安い女性に絡まれていた。

お読みいただききありがとうございます。


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