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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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復讐者の襲来

時は少し遡り、マエリス達が『応需の商隊(デリバーズ)』のメンバーを戦闘不能にしている間、ブレイクとミシェルは二人がかりでアンドレスと死闘を繰り広げていた。


本来、元Sランクのブレイクと、Sランク相当の実力を持つミシェルの二人がかりならば、Sランク相当の実力でしかないアンドレスに勝ち目はなかった。

しかしそれが『死闘』──戦いになっているのにはいくつかの要因がある。


「おおおおおおおおっ!」


ブレイクの膨れ上がった筋肉を存分に活かした拳が、吹雪を纏ってアンドレスへ振り下ろされる。

しかし次の瞬間にはアンドレスの姿はなく、代わりに投擲された槍の先が拳を迎え撃った。


バガァンッ!

およそ人の体から発せられるとは思えない轟音をまき散らしながら、ブレイクの拳は槍を弾く。拳から剝がれた氷の粒が、急速に巨大な氷柱へと成長し、全方位へ向けて射出される。


樹々が薙ぎ倒され、位置をあぶり出されたアンドレスを囲むように、今度は上空から数十本の光線が降り注ぐが、その時にはアンドレスの姿はそこにはない。


「ちょこまかと、ウザいなぁ!」

「ブレイクさん相手に力比べも、賢者様相手に魔法の撃ち合いもできませんからね」

「シンプル故に対処法がないのが厄介だね」

「お褒めいただき光栄です──!」


声の直後、別の方角から森全域を焼き尽くさんと炎の渦が辺りを呑みこみ天を焦がす。

数十メートル先にも届く熱波。しかしそんな広範囲の攻撃も、アンドレスには届かなかった。


「さすがは賢者様。かような大魔法を息をするように使われるとは」

「……今のが君の『目』か」

「おや、気が付かれるとは、賢者様には前衛の素質もおありのようで。多才でございますね」

「そう言う君は器用だ。四肢にのみ限局した身体強化、そして『硬直の魔眼』……どちらも、魔法使いにとっては馬鹿にされる代物のはずなのだがね」


彼は、全身に身体強化を回せないほど魔力が少なかった。

彼の目は、コンマ未満の短い時間しか動きを止められない『外れ』だった。


しかし彼はそれを、極限まで鍛え上げた。


「その槍も面倒だぜ。どんなに殴りつけてもヒビすらつかねえ」

「頑丈なのが取柄ですから」

「これだから金持ちは」


彼が振るう身の丈を超える槍は、大陸に留まらず世界中で集めた希少素材を、惜しみなく、ふんだんに使って、頑丈さと速度の二点にのみ特化した逸品である。


『凍らせて砕く』ことに特化したパワーファイターの『凍鬼』ブレイク。

手数は豊富だがあくまで魔法使いの身体能力しかない『賢者』ミシェル。

そして速度と投擲に特化したスピードファイターの『金眼』アンドレス。


単純に相性が悪かった。


「だがスタミナや魔力には限界がある。時間は私たちの味方だ」

「ええ。ですので、一歩踏み込ませていただきます」


アンドレスの姿がブレ、直後、空気を切り裂く破裂音が森を揺らす。

それはアンドレスが音速を超えたことを意味していた。


「ガ、ァッ……!?」


ミシェルの警告すら置き去りにしたその槍は、ブレイクの極厚の氷鎧を容易く貫通し、巨漢の膝深くに突き立っていた。


「てめぇ、汚ねぇ、なぁ!」

「『狩人』ですから」


鮮血が噴き出し、瞬時に空中で凍りつく。膝蓋骨にヒビが入る嫌な音が響き、ブレイクの顔が激痛に歪んだ。

追撃を放とうとしたミシェルの光線も、血を振り払う槍の軌跡に軽々と相殺される。


「では、私は『カーバンクル』を採集させていただきます」

「行かせるとでも?」

「賢者ミシェル様。あなた一人では私の足止めは不可能ですよ」

「ギルドマスターを、舐めるんじゃねえぞ──ッ!」


ブレイクの魔力が弾け、空が急激に暗くなっていく。


「三千世界の空、海、大地の水の精よ、集え、逆巻け、嵐を成せ!」


刹那、局所的なゲリラ豪雨が出現し、あっという間に視界を奪う。

否、ただの雨ではない。濡れた傍から霜が降り、世界を白く変えていく。


「意外ですね、ブレイクさんがこのような魔法を使うなど」

「マギカ辺境伯領にいるんだ、俺も魔法使いに決まってるだろ!」

「なるほど、それは確かに。私も油断しておりました。見事術中に嵌ってしまいましたね。ですが──」


だが、サク、サクと。

霜を踏む足音は止まらない。吹雪の中、見えない膜に守られたアンドレスが、無傷のままブレイクへと歩み寄る。


「何分我々は、世界中の秘境を探索しますから。環境を変えられても活動に支障はないのですよ。マエリス様の魔道具がなくとも、素材を組み合わせればこの程度」

「クソったれがァ……ッ」


膝をつくブレイクの首へ、無慈悲な槍の切っ先が向けられる。金の視線は宙に浮かぶミシェルを牽制する。

勝負は決した。


「では歓迎の宴は、これまでとさせて──」


確かに、ブレイクの奥の手はアンドレスに効果がなかった。

だが吹雪の風音、雪の振動吸収、視界不良──これらの要因が、その姿を直前まで隠した。


『コオォロオォシイィテエェ──ヤルウゥゥゥゥゥッ!!!』

「な──!?」


アンドレスが目を見開いた瞬間。

白い吹雪の壁をぶち破り、巨大な黒い質量が弾丸のごとく横っ腹から突っ込んだ。


メシャァァァンッ!!


純粋な暴力の激突。

防御姿勢すら間に合わなかった超音速の商人の身体が、へし折れた樹々を巻き込みながら、ボロ屑のように森の奥へと吹き飛んでいった。


入れ替わりにブレイク達の前に現れたのは、『魔王の影』。


「ついて、ねぇ……!」

「ブレイクは下がれ! ここは私が引き受ける!」


膝に無理を強いてブレイクは立ち上がるが、彼にはもう生存の未来が見えていなかった。

それでもギルドマスターの意地で、黒い狼を睨みつける。


しかし──


『カリュドォ……カリュドオオオオオオオオオォッ!!!』


絶望の具現。破壊の代弁者。そんな『魔王の影』が目の前の獲物を放ってアンドレスの飛んで行った方へと走っていった。


「……何?」

「まさか──」


ブレイクが呆気にとられ尻もちをつき、ミシェルが何かを考察し始めた、数秒後。

ブオォォッ、とホバーの音が二人の元へ近づいてきた。


「お父様! ブレイクさん!」


銀の鳥籠に乗ったマエリスが、二人の前で急停車する。吹雪はとっくに止んでいた。


「今の声って、『魔王の影』だよね? どっちに行ったか分かる?」

「あ、ああ、向こうだ。アンドレスもそっちに」

「あー、なるほど」

「マエリス、そちらは?」

「ボクは二人片付けたよ。後の二人は──」

「お待たせしました」


遅れて、リフィたちがやってくる。


「後衛の二名と、隠れていた一名を無力化しました」

「ご苦労。では先に進もうか。マエリス、ブレイクを乗せていってくれ。簡単な治療も頼めるかな?」

「うわ、ブレイクさん膝が──了解です」


そうしてブレイクは、骨の腕に摘ままれて鳥籠の中へ入れられる。


(……つくづく、ミシェルの家の奴らはよぉ……)


ブレイクは頼もしいやら呆れるやら、複雑な心境となった。

お読みいただききありがとうございます。


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